第28話 僻地

 精霊やあやかしの多くは特定の属性を宿しているため、生活圏が限定されている。

 最近はそれを補う霊具アイギスが開発されているが、それを使ってまで自分と合わない環境へ行こうと思う者は少ない。

 その少数派の中でも、彼女は無謀ともいえる部類に入る。

 彼女は、河童。水のあやかしであり、水のない環境では生きることはできないにも関わらず、水が皆無と言っていい南大陸国アメリゴアの砂漠地帯でアイス売りをしているのだ。

「キューカブバーもらえる」

 土霊種ノームの客がやって来た。

「毎度あり」

「なぁ、前から聞きたかったんだけど…」

「何でこんな商売してるか?」

「よく分かったね」

「100回は聞かれてるから」

「じゃあかなりうんざりだろうけど、答えもらっていい?」

気に入ってるからよ」

?」

「ええ。ここにいたいから、ここで生きることにしたの」

 それは、とても単純で明快な言葉だった。

「なるほどね。ところでその尻子玉大福って名前ヤバくない?」

「ダメ?結構人気よ」

 一体砂漠のどこに彼女が魅了されたのかは彼女にしか分からない。

 ただ、彼女が売るアイスは、とても評判だ。

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