第27話 軟派

「ねぇねぇ。君かわいいね。俺らと遊び行かない?」

 だ。

 おそらくそんな類いの事を言ってわたしを誘ってるのだろう-と兎亜種ラヴィイの少女は思った。

 彼女は表情を変えず、ただ被っていた帽子を取る。すると、それを見た男たちは居心地悪そうにそそくさとその場を去っていった。帽子の下には根元から切れてしまった耳があった。兎亜種ラヴィイの象徴であり、一際美しかった彼女の耳はとある事故が原因で罹った感染症により切除を容儀なくされた。

 その結果、少女は聴力と自信を失った。

 今日は久々の外出を思い立つも、早々に最悪な形で自分の現状を思い知ることになってしまった。すっかり気落ちし、帰ろうと思った矢先、目の前にひとりの男の子が現れた。その子は少女より小さく、年も離れているようだった。

 少女が訝しんでいると、その男の子はおもむろに腕を動かし-

『こんにちは』

 それは、手話でのあいさつだった。それに続けて-

『そこの、きれいなお姉さん。良かったら僕と一緒にお菓子買いに行かない?もちろん奢りだよ』

 何としてきた。

 戸惑う少女をよそに、男の子はなおも身振り手振りで誘ってくる。

 やってることはさっきの連中と大して変わらないが、それでも少女は自分の心が浮き上がるのを感じていた。単純なチョロい理由かもしれないが、帽子を取っている今の自分に対して、と言ってくれたことが、とてもあたたかかったのだ。

『いいわよ。お菓子だけなら』

『やった。お姉さん笑うともっとかわいいね』

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