第23話 園楽(んえくら)

偉観いかんだね」

「でもここに住むのは勘弁」

「俺は悪くないと思うけどな」

 園楽らくえんを眺める彼らは、そう感想を漏らした。

 東大陸国ジペングニアはその国土の事情から、限られた土地に公共・公益施設を極力密集させ建造している。

 特に工業地帯はその最たるものであり、最盛期は法律と均衡バランスをギリギリ保てているのみの、前衛芸術や迷宮を彷彿とさせる造形・構造に至っていた。

 さらに作業効率の推進とのため、半ば無許可で簡易住居を拵える作業員が増加。中には家族を呼び込むものまでおり、停休日ていきゅうびは施設のあちこちで大量の洗濯物が棚引く光景は、公然の秘密を通り越した一種の名物となっていた。

 設備の次世代化によりその混沌は薄れていったが、かつての活気を思い起こさせる遺物として、時々彼らのような観光目的で訪れる者も現れている。

「ねぇ、何で楽園が反対園楽になってるの?」

「昔はあっちから読むのがが正しい向きだったらしいよ」

「何だ。実は地獄だったっていう含みと思ったのに」

「物騒だなぁ」

 施設の上部にでかでかと描かれた『園楽んえくら』の文字を眺めながら、彼らは帰路へとたった。

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