第17話 楽園

 その町の中心には、一本の木があった。

 その木が枯れたのが、全てのはじまりだった。


 あらゆる植物が生気を失い、土はヘドロの様にぬかるんだ。

 生き物は姿も消し、鳥の囀りひとつも聞こえなくなった。

 空は鈍色の雲が覆い、冷たいだけの雨が街をたたいた。

 そこにひとりの男が現れ、中心の木へと向かった。


 次の日、中心の木は蘇った。

 活き活きと枝葉を伸ばし、それが全てを導いた。


 町中の植物は萌え、土は肥えだした。

 鳥を始めとした生き物たちが戻り、命の気配があふれた。

 鉛のような雲は取り払われ、慰撫するかのように光が町を照らした。

 そこにまたひとりの男が現れ、中心の木へと向かった。


 次の日、中心の木は再び死んだ。

 それが再び、全てをはじまりへと戻した。


 再び町から生気が消え、踏みしめる地面は淀んだ。

 再び生き物の気配はなくなり、不自然な静寂が街を包んだ。

 再び鈍い雲が訪れ、雨が町をひたすらたたいた。


 その町は、あるべき姿へと戻った。

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