第16話 書管

「閲覧許可は?」

「これだ」

 管理者が許可証の確認をする間、俺は室内を見渡した。

 金属の戸棚が立ち並ぶここは異様な圧迫感があり、慣れる事がなかった。

「被害者の方の書ですね。連帯同意欄が空白ですが?」

「天涯孤独。よくあるやつさ」

「なるほど。待っていてください」

 彼は席を立つと、戸棚の隙間を迷いなく進んでいき、すぐさまお目当ての物を探し当てた。

「早いな。全部把握してるのか?」

「それができなければ、クビですから」

 おそらく本当の事だろう。

 俺は少し息苦しさを感じながらも、彼が用意した一冊の本に手を伸ばした。

 ほろの書。

 創作者デューがのこした"神具"であり、表紙に名を記した者の全ての記憶、記録が自動で書き起こされる書物だ。

 今回のように、身寄りの無い者が名を刻むことが多い。

「大変そうだな。ここの仕事は」

 書物に目を通しながら、俺は何気なく尋ねた。

「大変でない仕事など、ありませんよ」

 彼はそう言いながら、光を失った目を向けて微笑んだ。

 ここの管理者となる者は、決まって体や感覚のどこかに制限を持っているた。

 それが、創作者デューの力を扱う代償であるかのように。

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