第8話 回線

 私が生きるこの世界セカイは、平和に満ちていた。

 ブラザーズ。

 ザ・ソイレント。

 ハーモニー。

 強大な力を保有する三つの巨大企業が手を結びグラント・トライン、世界各地に高水準の生活を提供する先進都市"理想郷セーフランド"を建設し、世界から貧困と病気が消えた。

 理想郷セーフランドではあらゆるが許されている。

 芸術。宗教。嗜好。

 他者の生命や法律に対するがない限り、それを尊重し、個人的な嫌悪のみを理由にそれらを弾圧することは許されなかった。

 自由と平和見守られた生活が、保証されていた。

 を代償にして。


 私は電話をかける。

 この世界セカイには、いない君に。

「ごめん。さっきは出られなくて」

「良かった。出撃はまだなんだね」

「もうすぐだよ。そっちは」

が済んだとこ。君の友達も来てたよ。ほんとに仲良しだったんだね」

「あいつか。君からお礼言っといて」

「分かった。今回も危ないの?」

「安全な任務なんてないさ。でも、必ず帰ってくる。墓参りにも行きたいしね」

「同じ命日なんてやだよ」

ある意味そうだけど」

「それもそっか。・・・ねぇ」

「うん?」

「あの時事故にあったのが、私か君かってだけでこんなにが変わるなんてね。もしかして私。何か凄い存在なんじゃない?」

「凄いねぇ。なら今何やってるの?三大企業グラント・トラインの大幹部?」

「いいえ。しがないサラリー」

「平和で何より。じゃあ、行ってくる」

「うん。気をつけてね」

 僕は電話を切った。

 このセカイ世界にはもういない君からのを。


 僕が生きるこのセカイ世界は、戦乱に満ちていた。

 ブラザーズ。

 ザ・ソイレント。

 ハーモニー。

 強大な力を保有する三つの巨大企業の熾烈な競合は世界をも壊し始めトライ・ダウン、格差と差別を、やがては妬みや憎悪を連鎖させ、世界そのものが戦場ウォーランドとなってしまった。

 この世界ウォーランドで、銃声と爆音が聞こえない日は無かった。

 正義。報復。利益。

 戦う理由はいくつもあるが、僕を含めほとんどの人間は、ただなのだろう。

 最低限の糧と寝床今日という日の生が、保証されていた。

 を、代償として。

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