第2話 おやすみなさいの距離

 ススムは夢が怖くてその日眠れなかった。もし女神に会えたら意外と元の世界に帰してくれるかも、いやまた違う世界へ飛ばされるかもしれない。


 結局夢は見ず朝を迎える。急な重苦しさで目が覚めるススム。


「おはよう」


「せ、せんぱい?あれやっぱり夢見てんのか?」


「いつも起こしてるだろ」


「は、はい」


 たしかにマヤは子どもの頃からススムを起こしに来ている。だけど飛び乗られたのは今日がはじめてだ。この方が早いからだそうだ。マヤは猫人間になってしまった。なったというより、猫人間の彼女がいる世界へ彼がやってきたのだ。


「それでススム、一夜明けてどうなんだ?まだ夢の中か」


「先輩、俺だってここが現実だと理解しましたよ?時間は解決してくれなかったようです」


「そうか、そもそも元いた世界にも私はいるのか?」


「いますよ、みんな。俺と同じ人間です。多少力の差はありますが、猫人間に人魚、勇者に魔王なんて全然いません」


 こんなのファンタジーやおとぎ話の世界ですよ。そうススムは付け加える。


「みんな人間か。ならば争いもないだろうな」


「争いは、あります」


「皆人間なのだろう?」


「そうですね、おかしいですね」


「まあ争いとはそういうものだ。多少の差が許せないこともある。私は授業なんてほとんど寝ている」


「はは」


「笑いごとじゃない。時々夢か現実か区別がつかず怒られる」


「夢、見るんですね」



 下駄箱で別れるとき、彼は言った。


 おやすみなさいそしていいゆめを

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