第3話

「ねえ、まだなの。もう、ずいぶん歩いているけど、小川も出てこないわよ」


 ノリちゃんの足は、さすがに、つかれてきました。


「おかしいな。迷ったかな」


「だって、あなたは、ここで暮らしているのよね」


 ノリちゃんの口調が、きつくなって、リスは、肩をすくめます。


 少し広くて、明るいところで、ノリちゃんは、とうとう立ち止まりました。先ほどより小さな泉のほとりに、大きな石があったので、座ってリスに、伝えた。


「ちょっと休憩ね」


 リスも申し訳なさそうに、ノリちゃんの横に座ります。


「ごめんなさい。いつもは、迷うことなんてないのに」


 リスは、しきりに首をひねっている。


「ノリちゃん、ノリちゃん」


 呼ぶ声がします。


「誰?」


 起きあがったノリちゃんを リスは不思議そうに見ています。


(リスには、聞こえなかった?)


 ノリちゃんは、この耳のせいで、リスよりよく聞こえるようになったからかなと、思いました。


 ノリちゃんたちの足元を巨大な影が、通り過ぎました。


「わぁ!鷹だ!」


 リスは、反射的に駆け出しどこかへ行ってしまいました。


 ノリちゃんが、空を見上げると、大きな鳥なんて、どこにも飛んでいません。


「ということは、影だけの存在ということになるわね」


「よく分かったね。僕の名前は、リリマルです」


 ノリちゃんは、驚いた。森の動物たち全てに怖れられている怪物の正体が、影だけの存在なんて。


「リリマルって怪物でしょ」


「僕は、そんなつもりはないのだけどね。みんなが怖がって、僕とは友だちになってくれないんだ」



「でも、リスを驚かしたのは、わざとね」


 影は、こたえなかった。


「あなたは、驚かせるのが、面白いのね。ただの悪戯なのかな?それとも悪意?どちらにしても感じやすい森の動物たちには、嫌われるわね」


「僕は、死なないらしい。生まれた時の事も覚えていないよ。記憶の最初から、誰にも相手にされなかったことしかないんだ」


 影だけなので、見た目には、分からなかったが、悲しそうな声だった。


 泉に、素足を入れてみる。

 とても冷たい。疲れが水の中に溶けていくようだ。

 どこに、隠れていたのだろう?小さな魚たちが、驚いて逃げまどう。


「森からは、出られるの」


「もちろんだよ。そのかわり、僕の友だちになってくれる」


「もちろんいいわ」


 そう言ってから、少し考えてから続いた。


「私の影になりなさいよ。そうすれば、離れる事はないわ。どうせ、森のみんなには、相手にされていないのでしょう」


 何か言おうとして、やめたリリマルは、考えこんだ。しばらくしてから、再び口を開いた。


「いちど、その人の影になると、僕は、その人がいなくなるまで、離れられないんだ」


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