第12話
「『ジャイアント・スクラップ・ゴーレム』を制作したい?」
「は、はい!
す、少しでも【ゴミ捨て場】による金策の効率化を求めて、です!」
ゴアヒューマンたちの祭りの終わりから、さらにさらに数日後。
ゲーナはガリューにそのようなことを報告してきた。
最近はある程度ダンジョン運営の安定化が進み、懸念していた新しい探索者や侵入者も現れず、精々ちょっと特殊な魔法を使える現地民が数日おきにこのダンジョンへといたずらしに来る程度である。
そんな日常に退屈しながらも満喫しているときに、ゲーナによりそのような報告がなされた。
報告を聞くに、この【ジャイアント・スクラップ・ゴーレム】、どうやら一階ボスの石像同様にダンジョンコアに接続するタイプの復活型のボスであり、ゴミ捨て場から離れられないデメリットはあるが、強さはそれなり、知性はほぼなし、基本的な材料費はスクラップゴーレム同様に廃材からできているがゆえに激安だそうだ。
しかし、それでもボスタイプのゴーレムゆえ、ゴーレム維持のための魔法陣などのために多少初期費用は掛かる。
それゆえにモンスターの製造許可の申し出であった。
「ん~~……まぁたしかに値段は微妙にかかるが、それでも理由によっては全然構わないつもりだぞ?
でも、絶対侵入者も入らないであろうゴミ捨て場に、わざわざボス魔物を配備する意味はあるか?」
「い、いえ、それが、ごみ処理用のスライムがですね。
じつは、近辺の魔物化した蟲の魔物がゴミ捨て場に侵入してきて、そのゴミ処理用スライムを食べちゃうという問題が発生していまして……」
「あ~……」
ゲーナのふり絞るようなセリフに頭をポリポリとかきながら聞くガリュー。
というのも、そもそもこのダンジョン内にあるゴミ捨て場は魔界からのごみを引き受けて処理する場所である。
もちろんこちらとしてはいつまでもそのゴミを放置するわけにはいかないため、それらを無数のスライムの酸によって、捕食消化処理させるという気の長い方法で処理しているのが現状だ。
が、この処理法当然時間がかかるだけではなく、スライムが弱すぎるという欠点があるのだ。
もしそのスライムが襲われたら、当然ゴミ処理は遅れるが、そもそもまともな人間ならそのごみ処理部屋にわざわざ来るはずもない。
基本的に部屋のとどまってゴミを食べることしかしないスライムを襲うメリットなんてないと思ってその問題は無視していたわけだが、どうやら話はそうもいかないようだ。
「でも、ゴミ臭魔力にあふれた激臭スライムをわざわざ他魔物が襲うのか?」
「そ、それが獣系の魔物は匂いでゴミ捨て場を嫌がるみたいですが、蟲の魔物に限ってはそこまででないらしく……。
それにスライムの体内にある酸は蟲の魔物にはほとんど効果がないため、狩り相手として最適なようで……」
「……まぁ、1層にはまともな喰えるものは殆どないからなぁ。
唯一のまともな餌たり得るカイスも、蟲相手だと5割くらいの勝率みたいだし、致し方なし、か」
ゲーナの報告を聞き、ごみ捨て場部屋に蟲退治用のボス配置をする許可を出す。
ただでさえ少ない貯金がとも思ったが、報告書を見る限り、それでもごみ処理が継続的に行われるのなら1,2か月で取り戻せる程度の損害だ。
ならば、まぁ許可を出してやるのが上司と言うものであろう。
「まぁ、そういう用途で作るならその巨大ゴーレムを作る事自体は全然かまわんぞ。
……代わりに、仮にも予算を使って製作するんだ。
きっちり蟲魔物を処理しつつ、ごみ処理用スライムの保護ができる、そんなゴーレムの製造を任せたぞ!」
「は、はい!もちろんでふ!
すでにそのための計画書も、できています!」
「えらい準備がいいな」
ゲーナのやる気溢れた顔と報告書を見ながら件のジャイアントスクラップゴーレムのスペックを説明してくれる。
蟲相手に最適な巨大な叩き潰し攻撃、生命力が高く死に際の卵産みを行う蟲魔物対策の徹底的な死体撃ち、そして、姿を見た瞬間蟲が逃げないようにある程度部屋の中にとどまってから出入り口を固め逃げられなくするトラップ、複数の蟲魔物の連続攻撃を受けても大丈夫なように再生能力を持たせ、最後には床の中以外部屋全部に届く爆発により、飛行タイプの蟲の魔物対策もしっかりするとなかなかの徹底ぶりだ。
ガリューは、そのゲーナの余りの用意周到さと設計図の綿密さにひとつの感動を覚えつつ、ふとその時一つの疑問が思い浮かんだのであった。
「……そういえば、それ、人間相手にはどうなんだ?」
「え?人……相手ですか?」
そう、ガリューがこの図面を見ながら思い浮かんだのは、ここ最近頻繁に訪れている侵入者についてである。
確かにこのゴーレムは、ゴミ捨て場に侵入する蟲魔物相手には有効であろ。
が、やや単調な攻撃パターン、魔物の術で無理やり聖属性を動かすことによる不安定感、なによりも見え見えのゴーレムコアという弱点は対人戦において欠陥品以外の何物でもないだろう。
「……いや、侵入者がこのゴーレムと戦う事、ありますか?」
「……まぁ、だよなぁ」
ともすれば、ゲーナからこんな言葉が返ってきて、ガリューも少し考えた後それに同意した。
というのも、そもそもこのゴーレムはこのダンジョンの隠し扉の先、ゴミ捨て場配置するつもりなのだ。
未だ侵入者にゴミ捨て場の隠し扉は見つかってないし、仮に見つかったとしても室内にはゴミしかなく、中にいる魔物はスライムのみ。
ゴーレム起動条件も、室内でスライムの複数討伐と言う何ともレアな条件なのだ。
それをなぜいまだ一階のボス部屋にすらいかない侵入者もどきが、その部屋でその条件を達成するなんてことがあろうか?
「……うん、まぁ冷静に考えたらそうだよな。
可笑しなことを言ったな、このゴーレムはあくまで蟲つぶしだしな。
それじゃ、完成し次第このゴーレムはゴミ捨て場に配置。
ああ、もちろんいくらスクラップゴーレムが不安定とはいえ、耐久性はそれなりに持たせてくれよ?
ボス再生は材料自体はほぼ無料だが、壊れた場合、再生に多少の魔力と時間がかかるからな」
「も、もちろんです!
今回は私初めてのダンジョンボス制作!
ここで少しでもきっちりダンジョンマスター様に恩返しをするのです!
目指すは耐久年数百年以上!1日や2日で壊れたりなんかさせませんよ!」
そのゲーナのやる気溢れたまぶしい笑顔に、そんな彼女を見つめるやさしいまなざしのガリュー。
この場にいないが、もしこの場に獣人のカカオがいたら、こんなことを言っていただろう。
―――――こいつら又、特大のフラグを立ててやがる、と
●異世界迷宮経営物(仮)
『魔物編 5』
「いや、大丈夫だ。
……今回は6日は持ったから」
「はう、はうはうぅぅぅぅ……」
『ジャイアント・スクラップ・ゴーレム』制作数日後、ゲーナは管理室においてガリューに泣きついていた。
理由は単純、『ジャイアントスクラップゴーレム』が制作僅か6日でこわされたからだ。
原因は今まで定期的にダンジョンにちょっかいかけて来た侵入者、今まで通路をうろちょろするしかしなかったわざわざゴミ捨て場に侵入し、狙ってきたかの様にボス出現条件を達成し、わざわざそのボスをぶっ壊すと言うピンポイントな嫌がらせをしてきたのであった。
「で、でもほら、スクラップゴーレムのおかげで、それ以上侵入者が奥に侵入しなかったし!
なんだかんだすぐに復活はするし!
ゴミ捨て場自体のゴミも一気に消費しつつ、ごみ処理用スライムを守ることもできた!
どれもこれも、ゲーナがジャイアントスクラップゴーレムを作ってくれたからだな!」
「うにゅ、うにゅ、うにゅぅぅ……」
三眼から涙をぽろぽろと零すゲーナをガリューは頑張って励ます。
なお、今回の事件に関してはゲーナはまさしく涙を流すほどにショックを受けているが、ガリューに関してはそこまでではない。
というのも、実は今回の事件、結果だけを見ればガリューの、すなわちダンジョンマスター的には結構おいしい話ではあったからだ。
実は件のジャイアントスクラップゴーレムは、その名の通り体のほとんどがゴミでできているわけだが、その体と言うかゴミは実はゴミ捨て場内のある大半のゴミと融合している状態なのだ。
そのおかげで単純な物理攻撃には、無限の再生力を得られており、弱点はその見えているゴーレムコアへの致命打くらいだ。
そして、もしそのゴーレムコアが人間に攻撃されると、当然スクラップゴーレム不安定な体を爆発させながら、ダイナミック浄化されるわけだが、浄化とはすなわち効率的なごみ処理に他ならない。
すなわち、このジャイアントゴーレムがやられたおかげでゴミ捨て場に合った大半の半融合済みゴミは全て浄化、すなわちゴミ捨て場のゴミの効率的な大処理に成功し、そのおかげで新しいごみの受け入れが可能に。
当初の目的でゴミ処理用スライムの護衛と言う意味では役に立たなかったが、効率的なごみ処理と金策と言う意味ではこのジャイアントゴーレムは十分にその役割を果たしてくれたと言えるだろう。
「それに、ジャイアントゴーレムの本体はあくまで室内全体の魔法陣とダンジョンコアだろ?
時間が経てば復活可能なんだ、そこまで落ち込む必要もないだろう」
「そ、そういう問題じゃないんです!
わ、私の傑作が……初めてのダンジョン大仕事が……。
ただの侵入者に……ぽっと出の侵入者如きに……」
ルール―、と言いそうなほど落ち込んだゲーナを慰めるガリュー。
砂糖たっぷりのお菓子やら香ばしいお茶をプレゼントするも、どうやら彼女の心の傷は相当に深いようだ。
「うう、あのゴーレム、わたしより強いのに……
い、いや、でも材料さえあれば!
で、でも、これ以上のお金や資材は……」
「ふむ……」
そんな落ち込むゲーナを尻目に、ふとガリューは考える。
たしかに、今回のスクラップゴーレム即日爆破事件は金銭的にはプラスになった。
が、この事件はダンジョン防衛という点ではかなりやばい事件であるのは違いない。
というのも、あのゴーレム現在このダンジョンにいる中でもかなり強い魔物であり、ゴアヒューマンや虫の魔物にカイスなんかのクソザコはもちろん、単純な耐久度と言う意味ではただのスクラップゴーレムやいくらか魔界から持ってきたという簡易のアンデットよりも強いし、石像番兵よりも上。
要するに、自分やペットのレッドリザード、ゲーナを除けば、このダンジョンで4,5番目に強いと言っていい魔物なのだ。
それが只ののんびり隔日侵入者ごときにやられたとなれば……防衛力と言う点でもはや風前の灯火と言えるだろう。
「ワンちゃん、あの侵入者が実は強い冒険者の可能性は……まぁ薄いかぁ……」
「ハウうぅぅぅ……」
ともすればガリューは考える。
ゲーナの口ぶりからすれば、これ以上の魔物を作るにはそのための高価な触媒や素材が必要であると。
もちろん今回一時的に増えた臨時収入を使えば、いったんの補強は簡単であろう。
しかし、それはあくまで一時的な補強にすぎず、これからもあの侵入者が定期的に侵入し、今回のように何かの気の迷いで、このダンジョン奥地まで侵入するかもしれない。
ともすれば、そのためにより強い魔物の強化が早急に必要だ。
幸いにもゴーレムメイカーはいるし、今回の事件のおかげで種銭はある。
後は、もう少しの定期的な収入と素材さえあれば、このダンジョンの安全度はもう一段階上に持っていけるだろう。
「という訳で、折角だしダンジョンの戦力強化を兼ねて副業をはじめ用と思うんだ」
「ひぅぅぃ!!
あ、あの!【人肉牧場】は!!
ゴ、ゴアヒューマンの、同胞や家族のみんなだけは手を出さないでください!!!」
「あほか、それはしないって言ってるだろう」
ゲーナの悲鳴と嘆願に、思わずガリューは苦笑する。
たしかに、ダンジョン強化のために少しでも効率的な副業を始めるには、ゴアヒューマン養殖による人肉養殖は悪くはないだろう。
が、それでも人肉牧場による人肉臭は彼にとって悪夢であり、やれと言われてもやる気はない。
ともすれば、彼が始めるのはある意味で当初からの彼の願いであり、同時にダンジョンマスター資格習得前から考えていた副業の一つであった。
そうしてガリューは、机の上に合った注文書の一枚をゲーナへと見せつけた。
「これは……【特殊魔物】の注文書?
えっと、これは植物系薬物分類……あぁ!【マンドラゴラ】の苗ですね!」
かくして後日、彼らはカカオから【マンドラゴラ】の苗をもらい、【マンドラゴラ栽培】なる副業を始めるのでした。
異世界迷宮経営物(仮) どくいも @dokuimo
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