第11話

―――ゴゴゴゴゴゴゴ……



マイは目の前にいるいまだかつて見たことがないほど強大な【それ】を見据えながら考える。

目の前にいるそれは,聖なる魔力と邪悪なる魔力のどちらも兼ね備えた生き物であり,魔力だけで判断するのならば相手はある意味では聖なる生き物でまた別の見方をすると邪悪な魔物であろう。

そして,今回は……


――――ギュルオン!!



「……うおっとぉ!ですぅ!」



それはマイに向かって容赦なくその大人の牛以上に大きい拳を彼女に向かって躊躇なく,振り下ろしてきたことにより,マイはそれが文句のつけようがないほど自分を害するものだということが分かった。

少なくとも,自分が攻撃をかわした場所の地面がえぐれるほど強くたたいてくるような生き物はたとえ友好的だといわれても信じようがないが。


――――ギギギギ……



「けど,この程度なら……!」



しかし,幸いなことに目の前のゴーレムの攻撃はとても緩慢であり,さらに言えばただ垂直に左右の腕で叩き潰そうとしてくるだけであり,その動きは単純。

接近戦に関してはお世辞にも得意とは言えない彼女でさえ,自身の持つ簡単な魔力の探知で事前に大まかに攻撃される場所を予想するだけで,楽々かわせるものであった。



「……bibibi!」



クラアサがその攻撃のすきをついて,小柄な体型をいかしてまるで滑り込むかのように『スクラップ・ゴーレム』の元へと転がり込む。

そして,その手に持つ石剣で相手を切り付けるが……。


―――――ギィン!


あまりの相手の巨大さと、石剣ゆえの切れ味の悪さ、更に体格の違いなどからクラアサの一撃は、あくまで石剣をゴーレムの体の表面の一部にめり込むだけでまるでダメージを与えることはできなかった。

おそらくこの傷の小ささを見るに,どんなにクラアサががんばったとしても,そして何度攻撃したとしても彼の石剣でスクラップ・ゴーレムを倒すことは不可能であろう。



「……ナイスです!クラアサ!」



しかし,それは全く無意味というわけではなかった。

少なくともそれはジャイアント・スクラップ・ゴーレムの気は引いたようで,攻撃対象が一時的にクラアサへと移ったのであった。

その隙にマイは詠唱を開始し,目の前にいる敵を倒す祈りを開始する。

目に見える脅威のおかげか,自分の子とも思えるクラアサが恐れずにゴーレムに向かったおかげか,マイの呪文にはいい意味でいつも以上に力が入り……



「《光の一突き》!!」



マイの手から放たれた光弾は,間違いなく彼女が今まで生涯で放ったどの《光の一突き》よりも輝かしいものであった。

その威力は目標であるジャイアント・スクラップ・ゴーレムの体にいともたやすく大穴を開け,そのまま部屋の壁に後を残すほどであった。



「……これなら,いけるですぅ!」



手ごたえあり!

どうやら思ったより,目の前の敵は無敵の存在ではなく,図体だけでかい木偶の棒。

自分でも倒せる程度の柔らかさに,さらに単調な攻撃だけしかしてこないだけの魔物であれば自分でも……


そうマイが思った矢先であった。



「……え?」



ゴーレムが少し動きを止めたかと思うと,その胸に輝く大き目の石玉が強めに瞬き,その身に空いた穴を一瞬のうちに再生させる。

そして,自分に傷つけたことに対してマイが脅威だということを察したのだろうか。

さっきまでただの石でできた丸太のような腕は,こちらの素早い動きに対応するためか,その先端が割れ,3本の指が生えてくる。

さらにはこちらに確実に致命傷を与えるためなのか,その指には多数の棘が生え,かすりでもしたら,裂傷してしまうのは目に見えているだろう。



「……これは厳しい戦いになりそうですぅ!」



マイは自分を奮い立たせるために大声でそう宣言したが,その声が震えてしまったは仕方がないことであった。





●異世界迷宮経営物(仮)

『教会編 3 後篇』





マイが一撃与えた後も,巨大な魔物が変形した後も,意外にも戦況はあまり変化せず,ある種硬直していた。

理由は単純。目の前のジャイアントスクラップゴーレムはたとえ変形したとしても,その愚鈍さに変化はなかったから,それの一撃はマイでさえ悠々とかわせるモノであったからである。

……だが,まったく戦況に変化がないわけでもない。

ゴーレムの指をはやした腕の振り下ろすが……



「……っつ!!」



マイは紙一重のタイミングでそれを躱すことができた。

が,マイの足と服には新たな傷が生まれた。

そう,ゴーレムが指を広げながら振り下ろすことにより,その攻撃がさっきより一層かわしにくくなり,さらには振り下ろすごとに指に生えている金属とガラス状のガラクタでできた棘が衝撃でこわれ,飛んでくるのであった。

その飛来してくる小さな棘。さらに紙一重で彼女が攻撃をかわさざる得ないことにより,いまだ彼女は攻撃を直撃してないとはいえ確実にそれは彼女の体を傷つけていった。

そして,現に彼女の今の状態は全身に裂傷が走り,ガラクタの破片が皮膚に食い込んでいる。

簡単な防御魔法がかけられていたはずの聖衣はぼろぼろ。

どの傷も致命傷ではないとはいえ,全身が自身の血で血濡れになっていたのであった。



「……けど,だめ。」



……実は彼女の神聖魔法の中には体の傷を治すというものがあった。

その呪文を使えば,彼女の腕前であればこの皮膚を切り裂いた程度の傷など,一瞬で治すことができるであろう。

だが,使えない。いや,使う気がないといったほうが正しいのであろう。



「もう少し……もう少し溜めないと発動するできない……。

 せめて,あの胸にある【石玉】を壊せるレベルの威力で撃たないと……!」



彼女はゴーレムの胸にある,わずか傷がついた巨大な石玉を見ながらそうつぶやいた。

あの後,彼女は何度か自身の愛用している《光の一突き》の呪文をゴーレムに向けてはなったが,そのうちのほとんどは,あててもダメージを与えてもすぐに再生されるだけであった。

しかし,そんな中の唯一の正気。いや,壊れても再生しない部分があった。

それが胸の【石玉】。

見た目から明らかに怪しく,そして,自分の《光の一突き》では傷をつけることしかできなかった部分。

おそらく,あそこを壊せばあいつを倒せる!

別に魔物のゴーレムに間して,そこまで理解が深いわけではなく,また確固たる確証があるわけではなかった。

が,それでも彼女はその可能性に,胸のあれさえ壊せばすべてがうまくいく可能性に賭けるしかなかった。



「攻撃パターンはすでに把握済み,一番隙ができる行動はおそらく,あのこぶしを一度こちらに振り下ろし終わった後!

あの後,こちらが長い詠唱をしても,発動までに間に合う……はずですぅ!」



自らの意見が正しいと己に言い聞かせるためにそうつぶやく。

そして,マイの中でこの場でのもっと奴を倒すのにふさわしい呪文,そう,奴の攻撃感覚でも詠唱でき,あの胸の宝玉を壊せ,かつこの回りに精祖があふれているからこそ打てる。

そんな呪文を頭の中で検索し……



「……いける!あの呪文なら,こいつを倒せるですぅ!」



そのための呪文を思いつく!



「クラアサ!こちらもとどめの呪文を唱えるです!

 頑張るのですぅ!」



それはゴーレムであるクラアサに向けてはなった言葉か,はたまたは自分を奮い立たせるために言ったのか。

そして,ジャイアントスクラップゴーレムがマイに向かってこぶしを振り下ろし……



「……躱せたぁ!今ですぅ!!」



そして,その巨大な拳を再び紙一重で躱した彼女はこの巨大なゴーレムにとどめをさせる呪文を詠唱し始める。

マイの言葉に力がこもり,また,この空間に充満していた聖素が自分に向かって集まっているのがわかる。

そして後はこの巨大ゴーレムが腕を再び振り下ろすまでに詠唱を完成させるだけで……



「(……え?)」



しかし,マイの予想に反して,そのゴーレムは手を振り上げなかった。

そして,ゴーレムはそのまま両手を床に着けたまま,それを動かし……



「(……あ。)」



そう,それはマイの失策であった。

いつから,ゴーレムは振り下ろししかしないと決めつけていたのだろうか?

今までは単に振り下ろし以外を使用しなくても勝てると見込んできたからそうしていたという可能性を考えから省いていたのだろうか?

マイの脳裏に様々な後悔が浮かぶ中,ゴーレムの棘の生えた拳が彼女を壁へと押しつぶそうと,眼前へと接近する。

当然詠唱中な上,予想外の方向からの一撃により彼女に回避できるわけもなし。

マイはそのまま覚悟を決め,目を閉じたが……



――――――――――ドン!


「(……あれ?)」



その衝撃は彼女の予想よりかなり軽いもので,それもせいぜい何かに突き飛ばされる程度のものであった。

そして,彼女はわずかな困惑を覚えつつ,恐る恐る目を開けると……



―――――そこにあったのは,スクラップゴーレムの腕により壁に押しつぶされているクラアサの姿であった


「ク,クラアサ―――――!!!!」



マイは思わず絶叫し,理解する。

そう,彼女がスクラップゴーレムの攻撃をかわせたのはなんてことはない,ただクラアサが彼女を突き飛ばしてかばっただけの話であった。

そのせいで,彼女の体は無事だが,代わりにクラアサがつぶされた。それだけの話。



「ク,クラアサ!クラアサ!大丈夫ですか!!」



思わずマイは詠唱を破棄して,クラアサの無事を確認してしまう。



「bi……bi…」



マイの呼びかけのおかげか,はたまたはゴーレムゆえの頑丈さか,幸いにもクラアサはスクラップゴーレムの【薙ぎ払い】を受けてもいまだに話すことができるぐらいには体を保つことはできていた。





が,ここはダンジョン,そんな隙を見逃すほどジャイアントスクラップゴーレムは甘くない。

ゴーレムは無慈悲にも,その安堵したマイの目の前でその壁に埋まってしまっているクラアサに向けて更なる追撃を仕掛けたのであった。



「や,やめ……やめるです!

 クラアサが……クラアサが死んじゃう!死んじゃうですぅ!!」



思わずマイがそう叫ぶが,ジャイアントスクラップゴーレムに知能があっても心はない。

その行動理念は事前に決められた命令を遂行するのみ。

マイの思いを無視して巨大なて屑鉄のゴーレムが小さな石のゴーレムを壊すという虐殺ショーがマイの目の前で始まる。

それはマイの心を大きく揺さぶり,彼女に冷静な思考や詠唱をさせないほどショッキングな光景であったが……



「やめろって……言ってるのですぅぅぅぅ!!!」



そのショッキングな光景が,マイの聖職者としての眠れる力を呼び起こしてした。

マイはその自分の中に渦巻く感情の渦とその魔力,そしてあたりに浮かぶ聖素,そのすべてがそろっていたからできた奇跡。

マイの脳裏だけで奇麗に祈りの言葉が完成し,彼女の体からいまだかつてないほどの聖素があふれる。

それはあたりの聖素をも巻き込み,彼女の体をよりいっそう輝かせた,彼女を中心に部屋に振動が走るほどであった。

その部屋全体を揺るがすほどに取り込まれた聖素を取り込んだ,マイはそのまま怨敵である方のゴーレムの石玉を己の親の仇のようににらみ,指差す。

そして,その指からまるで天を裂くかのような聖素でできた稲妻……【悪魔退治】と呼ばれる,【上級神聖魔法】を【無詠唱】で行使させたのであった。

その呪文は彼女は未だにまともに行使したことがなく、そもそも呪文の無詠唱行使自体ほとんどやったことがないのに、その呪文は確かに形を成すことに成功した。


その強大な魔物殺しの呪文は,巨大な音を立てながら部屋の空気を切り裂き,はゴーレムの胸の石玉に命中した。








「クラアサ!クラアサ!大丈夫ですか!!返事を……返事をして,いや,せめて,手を…手を握り返してください!」



マイはなんとか,彼女の一撃を受けて崩れたスクラップゴーレムの腕と壁と腕に挟まれたクラアサを救出を試みた。

しかし,救出はできたもののその状態はひどいものであった。

まずは全身の形がすでにつぶされたせいで変形しており,足は使い物にならないのは一目瞭然。

手は1本はもげているし,もう1本だってつながってはいるが,使い物になるかも怪しい。

おそらく,彼はどんなに頑張って修理しても,このダンジョンの警備を……いや,まともに動くかすら怪しいだろう。

クラアサというゴーレムはすでに役目を果たせないスクラップと化していた。

……けど,そのようなことマイにとって関係はなかった。

マイにとってクラアサはすでに家族も同然,役目を果たせる果たせないなど関係ない,ただ,彼が無事かどうかだけが不安であった。


そして,マイの呼びかけにより……



「……bi」


「……よかった…よかったです!

 心配かけさせて……この子は本当に親不孝者なんだから!」



クラアサはきちんと返事を返した。

そう、それでもクラアサは生きていたのだ。


マイは涙を流した。

そして反省した。

自分の浅慮のせいで自分の大切な子を失うところであった。

そして、決意する。自分は二度と,こんな間違いをしないと。

このダンジョンを2度と甘く見ない……と!





しかし、彼女がそう決意するのは、少し遅すぎたのは明白であった






「……あれ?」



それは先ほどマイが倒したはずのスクラップゴーレムの残骸の中にあった。

そもそも,魔物というのは通常倒されたらすぐに浄化する……つまりは体が聖素に分解されるものである。

が,この魔物はそもそももともと体の奥が聖素でできているせいで,枚の一撃を受けてなお、それはなかなか分解されず,いまだに原型を残している。

そして,このゴーレムの核であった胸の石宝も、いまだにひびが生えているだけで、形は保っていた。

マイとしては,そのゴーレムがすでに動かず,その体がゆっくりと浄化されていってるからすでに脅威は去ったものだと思っていた。



「……やばい予感がするですぅ!さっさとこの部屋から脱出するです!」



マイの心配を煽るかのように、その石玉は倒される前より今の方がより強く輝いていた。

それなのにジャイアントスクラップゴーレムはその体を回復はさせず、ただ震えているだ。

マイは急いで出口へと向かうが,それはいまだにたくさんのごみの中に埋もれたままで,撤去するには相当の手間がかかるのは目に見えていた。



「……こ,こういうのは倒されたら,勝手にあいていてほしいものです!

 は,はやくはやく!」



マイは今、自身とほとんど重さの変わらないクラアサを背負いながら,かつ,先ほど中級の呪文を無詠唱でうって魔力が空っぽという大きなハンデを背負っている。

それなのに、彼女が扉のガラクタを取り除くその動きは全くためらいがなく,素早いものであったが……



「……あ。」



それは,間に合わなかった。

とうとうジャイアントスクラップゴーレムの核が光が最高潮に達し……





『ジャイアントスクラップゴーレム』は自爆した。





部屋全体に押し寄せる魔力と衝撃の波により、マイの意識はあっさりと飛ばされる。

彼女が最後に感じたのは,鼓膜を破かんばかりの爆音に飛来する無数のかけら、そして,クラアサの優しい魔力の波動であった







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



とりあえず一旦はここまで

もしも、続きが読みたい人がいれば感想なり送ってくれると嬉しいです




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