第2話
《人間界》にあるとある山岳地域の一角。
そこにその二人組はいた。
「センパーイ、まだですか?」
「文句を言うな、まだつかないぞ。
それになんでお前までついてきた、正直、お前までついてきても何もできることはないぞ?」
「ひっど~い!
私はせっかく、先輩がボッチだからかわいそうと思って、善意でついてきたのにそんなこと言っちゃうんだ。
そんなに冷たい態度をとるから、周りから嫌われちゃうんですよ!」
「っつ、たく少しは静かにしろ。
この坂を超えたら、村の様子位は見えるはずだ。」
「は~い」
そして、二頭の馬とそれに乗った二人組が山道を登る。
片方は青年、傷は目立つもののよく手入れされた鎧を身にまとい、その腰には剣が掛けられている。
もう片方は女性、赤黒いローブを身にまとい、明るい笑顔で男の方へ話しかける。
男の方は、成り上がり騎士『ローステン』、愛称はロース。
日頃から、魔物との戦いや雑務などで忙しい彼は、このたびちょっとした休暇をもらい、彼自身への故郷へと帰る予定だった。
そして、女性の方は王国魔導師『ピリメア』、愛称はピイ
日頃から『ローステン』と知り合いで会った彼女は、このたび『ローステン』が故郷へと戻ることを知り、わざわざ休暇を取り、ローステンの帰還へと随伴することにしたのだ。
そうこうしているうちに、彼らは山の山頂にたどり着いたのだろう、そこから見えるはさらなる山山々。
しかし、どの山もあまり木は生えておらず、はげかけた山が多い印象を受ける。
「うわー、見事なまでの岩山ぞろいですねえ。
これで、鉄鉱石が完全に取れなくなったら、マジで塵山ですね先輩!」
「……ったく、人の故郷になって事言うんだよお前は。
おい、ここから左に小さな集落が見えるだろ?」
「はい、あの塵みたいにぼろい家ばっかの所ですね!」
「……まあ、いい。
あれが俺の故郷、小さいながらもちゃんと教会もある村、『ドグマン』だ。」
●異世界迷宮経営物(仮)
『人間編 1』
「あ、ロース兄ちゃんだ!」
「ホントだ、もう一人変な人がついてきてるけど、ロース兄ちゃんだ!」
「おーい、ロースの坊主が帰って来たぞ~。」
ロース達が町に到着するやいなや、彼らは多くの人々に出迎えられた。
彼は古の寂れた村『ドグマン』において英雄、この村の憧れであった。
村に帰ってきたことを村のみんなが喜ぶこと同様、ロースもこの村に帰ってこれたことを嬉しく思う
「おお、久しいのお、ロースよ。
オーガとやらと戦ったと聞いたが、どうだ?
怪我はないか?」
「ははは、爺さんの心配性は相変わらずだな。
この通り皆から送ってもらった鎧のお陰でピンピンしてるよ。
……けどすまねえ、あの爺さんからもらった剣はなくなっちまった。」
「なんと!あの剣がやられてしまったとな!?
……いや、お主が無事で何よりじゃ。
それよりも、あの剣を折ってしまうような化け物相手によくやった。
さすがは騎士様といったところかのう!!」
「よせやい、そんなんじゃねえよ!
それに爺さんにそんなこと言われるなんて、がらじゃねえ。
……それにオーガに折られたわけじゃねえしな。」
「ん?何か言ったか?」
「いや、何でもねえよ爺さん。」
ロースは村長にそう言葉を濁した。
彼は生まれはこの町であり、彼はこの町の鍛冶屋の息子、そして、幼い頃の彼は自分も将来鍛冶屋を継ぐとばかり思っていた。
しかし、彼が十に届く少し前にこの山から鉄鉱石が取れなくなった。
町から人々は徐々に消え、この町に武器を買いに来ていた客はここへと訪れなくなり、次第にこの村へと寂れていった。
その時彼はこの村の復興のために、この国の正式な兵士へとなるための試験を受けた。
幸い彼は剣術の才能があったのか、または彼が村から出る時にもらった装備のおかげか、上級兵士の試験に受かることに成功し、なった後も見る見るうちに実力をつけ、彼はめきめきと頭角を現していった。
そして、ついに彼は凶悪な魔物『オーガ』を倒した功績により、騎士として認められるようになったのだ。
「ところで、爺さん最近何かあったのか?
見たところ前よりもさびれちまったようだが……。」
彼はそういうと、村の住人をぐるりと見渡す。
一見変哲がないように見える街の雰囲気、しかし、長年住んでいた彼だからわかる。
この町の変化を、そして、なにか《爺さん》いや、村長が悩みを抱えていることを見抜いた。
「いや、そうたいしたことではない。
実際、きっとただの杞憂じゃ、おぬしの心配するような問題ではない。」
村長はそういうが、その出来事は思わず村長が口にしてしまうくらいには心配な出来事。
そう彼が悟ると、彼は村長にさらに説得する。
「なら、話しても何も問題がないだろ?
なんだ、剣の腕と度胸しか取柄のない餓鬼がちょっと好奇心から聞きたがっているだけだ。
教えてくれてもいいだろう?」
「う、うむう。
きっと問題はない。いや、しかし、おぬしには話しておくべきだな。
実はだなあ……。」
村長は少しためらいつつも、ロースに話し始めた。
「で、結局親切なロース先輩は、一文の得にもならない調査を引き受けてしまったと。」
「ったく、自分の故郷の問題なんだから、引き受けない訳にもいかないだろう?
それよりも、お前の方こそなんで俺と一緒に来ているんだよ、それこそお前にとって得することなどだろ?」
「あんなぼろい街の小屋で待ってろと?
冗談は顔だけにしてください先輩、自分特に何ももの持ってきてないんですよ。
あんな何にもない町で一人でボーっとしているなんて暇すぎて面倒ですよ。
それならまだ先輩の近くにいた方が楽ですしね。」
「……あーそーかい、なら存分に役立ってくれ。
俺は魔法が使えないから、物探しは不得手なんだ。」
「はいはい、それならもうやってますよ。
こんな面倒な用事ちゃっちゃと終わらせてしまいましょう?
っとはいうものの、本当に周りに何もないですねえ。
普通、鼠や虫の類ならいっぱいいるものですが、それすらも少ないですよ。
こりゃあ確かに何かあるかもですねえ。」
結局、村に止まった次の日に二人は村の周辺の岩山を探索することになっていた。
ロースが村長から聞いた話はこうだ。
最近、近隣動物の様子がおかしいという物であり、いろいろな動物の数自体が減っているという物であった。
そう、いいことで言うなら、鼠や蝙蝠といった害獣が減ったという物であり、悪いものはイノシシといった狩りの獲物を見なくなったという話である。
さて、この世界でこのように生き物が減った場合、大まかに二つの理由がある。
一つは、純粋な食料不足、しかし、今回は村長の話からそのような理由ではないというのが判明している。
そして、今回はもう一つの理由、新たなる脅威がこの町の周辺に現れたという事、ある時は『疫病』、ある時は『盗賊』、そして、今回はおそらく……。
「この辺に新しく、《魔物》が現れたってことか?」
「まあ、急な環境の変化、不自然な人為性は感じられない変化、十分にありえますね。
先輩、警戒を緩めないでください、もしかしたらどこかにその《魔物》が潜んでるかもしれません。」
「……いや、その必要はなさそうだ。
どうやら向こうから来てくれるらしい。」
ロースはそういうとともに、山の上方を見る。
そして、大きな足音と共に坂の上から、黒くて大きな生き物が走ってくるのが分かる。
その体は馬よりは少し小さい程度だが、その速度はかなりのモノであり、もしぶつかってしまたら、鎧を着ている状態であってもただでは済まないのが眼に見えているであろう。
明らかに尋常な様子ではない生き物、おそらくは『魔物』であろう。
『魔物』
それは《穢れた》生き物、悪しき魔力・《魔素》に取りつかれた生物の事であり、生きながらに生きし生けるものすべてを恨み、壊そうとする種族の総称である。
彼らの出生は自然発生したり、穢らわしい生き物や悪行をかさねた人が変質してなる場合もある。
そして、これは極秘情報だが、『魔界』なる『魔王』と呼ばれる『魔物の王』が支配する世界からこちら側にやってくる場合もあるようだ。
「……先輩、援護入りますか?」
「冗談。あんなイノシシ野郎、ちょちょいとひねってやるよ。」
ロースは馬から降りて、こちらに向かって一直線で突っ込んでくる『魔物』に向かって剣を構える。
そして、その魔物が接近するにつれて、その姿が明らかになる。
赤い眼、体から噴き出る黒い《靄》どうやら件の生き物は本当に『魔物』のようだ。
そして、体を覆う黒い毛皮、甲高い鳴き声、そして何よりも特徴的なのはその大きな鼻である。
「おいおい、本当に《イノシシ》、いや《豚》の『魔物』かよ。」
ロースがそう愚痴をこぼす頃には、その《豚の魔物》は彼の目の前まで迫っていた。
彼が何もしなければ、この魔物にとって吹き飛ばされてしまうのは明白だろう。
「結構速いが、相手が悪かったな。
そらよ!」
その掛け声とともに、ロースは素早くその手に持つ剣を振り下ろした。
その剣は《豚の魔物》の顔面に直撃し、その『魔物』の突進の軌道は大きくそれ、彼には直撃しなくなった。
「……お見事です!先輩。」
ピイが声をかけると同時に、『魔物』の体は地へとふした。
その体からは黒いもやである《魔素》が抜け、その身がどんどんと崩れていく。
そして、《魔素》が抜けきった頃にそこに残っていたのは、先ほどよりも一回り小さい、《豚》の死骸であった。
《魔素》とは悪性の魔力であり、地上の生き物の体に開く性の影響を及ぼし、強い《魔素》を体に宿した生き物は《魔物》へと変貌してしまうのだ。
「お~、いざ『浄化』されてみれば、これはなかなか立派な《豚》さんですね~。
これは村へのいいお土産ができたんじゃないんでしょうか?
今夜は豚の丸焼きですね。」
「……ああ、そうだな。」
ロースはそう言いながら、倒した豚の亡骸を馬の上へ乗せる。
『浄化』
それはこの世界において『魔物』以外が『魔物』を殺した場合に起きる現象。
これにより、人が『魔物』を倒した場合、その『魔物』の体から悪しき魔力である《魔素》が抜け、元の《魔素》がない姿へと戻ることである。
「よし、固定はできたな。
それでは、いくぞ。」
「あれ、先輩?どこに行くつもりですか?
もう、魔物は倒したんですし、とっとと帰りましょうよ?」
「……馬鹿言うな。
この程度の強さの魔物一匹で、ここまで生態系が崩れるとは考えにくい。
しかもこの豚はもともとこの種類に住んでる種類の野豚だ、このタイプの魔物なら野良でいたとしても不思議ではない。
おそらく、今回の原因はこの『魔物』の巣があるか、もしくはこいつらの親玉にあたるもっと大きい魔物がいるんだろ。
こいつが来た方向から、逆探知するぞ、ついて来い。」
「うええ、めんどくさい。」
そういって、ロースはこの『魔物』が来た道をたどり、ピイはロースの後についていく。
ロースの心象は明るくない。
今の魔物は弱かったが、それでも《魔物》。
自分が襲われたからまだよかったものの、これが村の女子供であったら一溜りもないだろう。
そのような化け物がまだこの町の周囲に複数いる可能性がある。
今回の旅の予定はそう長いものではない、おそらく今日中に巣が見つけられなければ、この地の魔物の完全排除は難しいだろう。
「(できるだけ今回限りで倒しつくせればいいのだが……。)」
ロースはそう思いながら道を登りつつけ、ピイはそんな思い悩むロースの姿を静かに観察していた。
そして、一刻が経った頃に彼らは、山壁の少し大きな岩の後ろに、一つの穴をを見つけた。
その穴の大きさは人1人が通るよりも大きく、奥の様子は暗くてはっきりとはしないがとても奥底深いのが分かる。
「……先輩、この穴は?
こんなところに、炭鉱か何かあったんですか?
あんなちゃちい魔物ごときがこんな立派な穴をあけるとは思いませんよ?」
「俺だって長年この山道を歩いていたが、こんな大穴知らねえよ。
おい、いったいどんな魔物がすみ始めたんだこの山には。」
ピイは何か悩むような眼でこの穴をみつめ、ロースは自分がいないうちに町の近くにこのような洞窟ができているとは思わず、思わず呆然としてしまっていた。
ピイの脳裏にこの現象の原因となる事柄がうっすらとだが思い当たった。
それはありえないことだと思いつつも、あまりに合致する条件がそろいすぎている。
そして、それを確認するため、ピイはロースに声をかける。
「……先輩、ちょっとこの現象に心当たりがあります。
ちょっと、この洞窟の入り口付近の壁を剣で切りつけてください。」
「そりゃあ、かまわないが……。」
ロースはそう言いながら、鞘から剣を取出し素早く、且つ剣を傷付けないように、浅くその岩壁を傷つけ、ピイはその傷ついた壁をじっと見つめた。
そして、切りつけられて数分もたたないうちに、その変化は訪れた。
「……!!こっ、これは!」
「やっぱり、これは間違いない。
弱いながらも『自動修復』している。」
傷つけられたはずの岩壁が、徐々にではあるが、ゆっくりとその傷口をふさいで言ってるのが分かった。
この現象は明らかにこの洞窟がただの獣の巣穴ではないことが明らかであり、構造の自動修復が起きるほどの魔法が起きるなど、思い当たる原因はただ一つである。
「先輩、すぐに国に戻り、対策を立てましょう。
これは『ダンジョン』に間違いありません。」
「……っつ!
ッ畜生、まさかこんなことになっているとは!」
『ダンジョン』
げに恐ろしき魔のモノの巣窟、地獄への扉。
そう、称される、第一級危険物にもなりえる事態が発生していた。
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