異世界迷宮経営物(仮)
どくいも
第1話
《魔界》
それは、《人間界》、《天界》のほかの『三界』の比べ最も過酷な世界。
邪神が作り、魔王が統治する黒い太陽が昇る世界である。
その世界の住人の多くは異形のモノである《魔物》が生活し、その他種多少の化け物を支配するは『魔王』を筆頭とする『魔族』達である。
さて、今回話の話題となるのはとある若いリザードマンの青年である。
彼の名は『ガリュー』
見た目はリザードマン一般的な、爬虫類顔をしている。
彼は全身が灰色の鱗に覆われ、目は細い、人間よりは大きいが一般的なリザードマンに比べ少し体が小型である。
リザードマンの中でも変人と名高い彼は、現在自身の家の中で椅子に座りながら、入り口を眺めていた。
その様子は落ち着きがなく、目はぎらぎらさせ、足は音が出るのではないかと思えるくらいひどい貧乏ゆすりをし、落ち着いていないのが分かる。
彼のペットである「レッドリザード」の『ピッシ』もそんな彼の様子を察してか、主人の様子を心配そうに眺めている。
――ドンドン!
「コンチャチャワー!
魔王様からの使いでこちらから来たにゃ!
開けって欲しいにゃ!」
「!!お、おう分かった。今すぐ開ける。」
ガリューはそう言うと慌てながら扉を開いた。
扉から出てきたのは、頭まですっぽりとフードをかけている、小柄な人型であった。
「鱗のお兄さん、なんか慌てすぎにゃ。
いつもののんびりオーラが感じられないのにゃ。」
「そうは言ってもなあ。」
彼女の名は『カカオ』。
猫族の若き娘。魔王軍伝令部隊に勤める一人である。
伝令部隊と言っても、彼女が所属している部署はいわば非戦闘員中心、ぶっちゃけ魔界の郵便屋というのが正しいイメージである。
「はい、おにーさんへの手紙にゃ。
きばって読むにゃ!」
「お、おう。」
ガリューはどもりながらも、カカオから手紙を受け取り、震える手でその手紙を開ける。
そして、その眼をあらん限りに見開きながら、手紙を読むガリュー
『先日の試験はご苦労様でした。
本日は貴殿の試験結果を発表するために、知らせを送った次第です。
さて、単刀直入に結論から書きましょう。
試験合格おめでとうございます!
あなたには、『第8級ダンジョンマスター』の資格を送ります。』
「イッヤフー!!
よっしゃー!!受かったどー!!」
ガリューは喜びのあまり飛び上がった。
●迷宮経営物(仮) 【プロローグ】
ガリューの喜びっぷりを見つつ、カカオは疑問に思っていたことを訪ねる。
「お兄さんはどうしてそんな試験を受けたにゃ?
いくら魔王直属の職であってもその職の不評っぷりは知ってるにゃ?
『だるい』『むずい』『すごく暇』の三重苦がそろっているそうだにゃ。
ぶっちゃけいくらお兄さんが変態でも結構きついと思うにゃ?」
正直、カカオとしてはなぜガリューがそんなものになりたいか疑問に思ってしまった。
『低級のダンジョンマスター』、それは苦行であり、魔王から保証されている正規の職とはいえ、ダントツで不人気である。
確かに、魔王直属職ということで、金の払いは良いし、地位や権限は(表面上は)高い。
しかし、それ以上にある、苦悩の連鎖。
なぜなら、ダンジョンマスターは、『ダンジョン内に拘束させられる』。
高位のダンジョンマスターなら、数日の外出権やたくさんの娯楽品の売買などでいくらでも時間をつぶせるが、低位のダンジョンの場合、ダンジョンマスターに自由はない。
そのうえ、ダンジョンはその目的から人間界に建てられることが多く、ほとんどの低位のダンジョンは大抵人間界のド田舎に建てられる。
一度低位のダンジョンマスターになったとしたら、下手をしたら、それ以降自分以外、誰にも会うことがなくその生を終わらせてしまうかもしれない。
そんな島流し同然の職業であるのに、ダンジョンマスターの資格はとても難しく、且つやめるには多大な苦労を要する。
それなのに職で受ける拘束は、自由と混沌が信条の魔界の軍隊では珍しいと言えるほど多い。
魔界の住人なら、それほど賢いものであるならばもっと別の職に就くのが普通である。
「いやあ、けど俺みたいな奴が、リザードマンの伝統に従って前線兵や戦略魔導師になるのは嫌だしなあ。
……正直、戦闘嫌い、人肉喰いたくない。
一生戦うくらいなら、一生ひきこもって、野菜作り続けた方がまし。」
それに対して、ガリューはペットの『ピッシ』を撫でながら、そう答えた。
……じつはガリュー、今でこそ『魔界出身のリザードマン』ではあるが、もとはただの《地球生まれの人間》。
天界?人間界?なにそれな前世であったのだ。
元人間な彼がこんなファンタジー世界に生まれて初めて食べた肉が人間の肉であり、周りにいるのは三度の飯より虐殺が好きなサディストばかりという環境で生きていくのはつらいものがあった。
周りにいる奴らはどいつもこいつも、いかに多くの生き物を殺すかを目標に精を出す。
戦いこそが生きがい、血で血を洗え、常に飢えていろ、リザードマンとはそんな種族であった。
幸いであったのが、彼ら『リザードマン』が仲間に対しては優しく、且つ上のモノの言うことはよく聞く性質であったこと。
更に、彼が成長していく中で、魔法という暇つぶし兼、戦闘方法の学習もできる環境であったということだ。
「しかし、ダンジョンマスターになるには、結構な技量の魔術の腕と良識が必要だって噂だったにゃ。
けど、お兄さんみたいな《しなびた変な野菜》ばっかりつくっているような人でもできるもんなんだにゃあ。
思ったより簡単なのかにゃ?」
「あんまし馬鹿にすると、今回の御駄賃は無しだぞ?
このダ猫っこ。」
「じょーだん、じょーだん。お兄さんの魔術の腕の良さはわたしもよく知っているにゃ。
だからその手に持っている、《マタタビ》とやらをよこすにゃ。
それ、いいにおいがするから好きなんだにゃ」
「相変わらず都合がいいことで、ほれ。」
ガリューはそう言いつつ、手に持っていた、しなびた《マタタビ》をカカオに投げつけた。
弱肉強食の世界『魔界』、そんな中彼が極めた魔法が『植物』の魔法というのは実に彼らしいと言えるだろう。
彼は初めて食べた肉が人肉であったので、以後しばらく野菜好きになっていた。
しかしながら、今彼が住んでいるこの世界は『魔界』。
この世界では、農耕が一般的ではなく、野菜は一般的な食べ物ではない。
そして、食べれる植物は前世に比べれば雑草レベル、食べれるものではなかった。
そのため彼は、自力で野菜を手に入れ、また、前世で食べた野菜を仕入れるためにこの魔法を学ぶことを決意したのである。
しかし魔界は、前世の彼の知っている『野菜』や『植物』を育てるにはあまりに環境が適していなく、そのほとんどが失敗してしまったのは、非常に残念と言えるだろう。
「まあ、『人間界』とかなら俺の作る『野菜』もだいぶましになるだろうしな。
それに、この手紙の続きによると、送った野菜のいくつかはちゃんと術に適用できる奴が多いらしいしな。
きっと《マタタビ》も今渡した萎びてるやつじゃなくて、立派なやつができるぞ。」
「その楽観的な考えがどうして出てくるか、わたしにはわからニャーけど、せいぜいがんばるにゃ。
そして、もっといい香りがする《マタタビ》を作れるようになることを祈ってるにゃ。」
ガリューはそういうと、嬉しそうにカカオに向かって話すが、カカオの方は少しガリューの楽観的考えに呆れてしまった。
さて、彼がこの部族に慣れるまで成長したころには、彼の目標は一刻も早くこの部族から抜け出し、いかに将来戦いから離れるか、悪く言えば、引き籠りになるにはどうすればいいかになった。
それから、いろいろと考え抜いた末に、『リザード一族』を支配する魔王、彼の直属でありながら、戦闘することがほとんどない『低級のダンジョンマスター』という名誉職になることが決まったのだ。
まあ、試験は難しいと言っても、それは教育がない世界だからというレベル。
しかも、規則が多いとはいえ、前世の会社よりは多くない。
あえて言うなら娯楽がないことが苦痛だが、それもいずれなれるだろう。
「よっしゃーーーー!!
やったるでーーーーー!!」
「まったく、ほんとうっさいにゃ」
そして、周りの家に聞こえるくらい、大きな声でガリューは叫んだ。
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