最新の赤と最古の白
適度に整頓され、また適度に散乱したガレージ内に二台のマスタングが佇んでいる。二台を前に沈黙する僕とグンさん。しばし二対二のお見合いだ。
マスタングは何れもオープンカーで、どちらも幌を被っていた。
向かって左側は真っ赤なボディー、火災現場に駆けつけそうな赤だった。やや釣り目で攻撃的なマスクは、いかにも男くさい印象を与える。
初めて目にする車体に、最初に口を開いたのは僕だった。
「これ、どうしたんですか?」
「買った、つい最近」
グンさん曰く、最新型の七代目のモデルだとか。ここでもグンさんは、「どうだい?」と、おニューのマスタングを前にして得意気だった。とりあえず「すごいですねえ」と場当たり的で当たり障りのない受け答えをしたけど、羨望の念も込めて言った。
ガレージにしろ車にしろポンっと買えるなんて、お金があるところにはあるものだ。決して都会とは言えないけれど、グンさんは地元ではかなりの資産家である。整備工場以外にも不動産やら外食やらにも手を広げ、どれも焦げ付いた話は聞いたことがなかった。血筋だろうか、グンさんの親父さんもやり手だったと聞いている。
向かって右側は白い初代のモデルで、僕はこのマスタングを何度か目にしている。ときどき、地平線まで見渡せる田園を背景にドロドロと流し行くグンさんを見かけていた。
グンさんの愛車だった。もう何十年と乗り続けていると聞いている。ずいぶんと古い車なのだろうけど、デザインは最新型のモデルより洗練された印象で、女性的と言えるかも。
一分ほどの取り留めのない車鑑賞を終えると、グンさんはガレージの隅に立てかけてあったパイプ椅子を二脚持ってきて、初代マスタングの正面にセッティングした。グンさんは一脚に腰かけると、対面のもう一脚を僕に勧めた。
僕は腰を下ろす前に、「ねえ、グンさん」と呼びかけると、グンさんは僕の言わんとすることを察してか、次の言葉を遮るように「まあ、いいからさ」と言って空いた一脚に座るよう促した。
僕は訝し気な目をグンさんに向け、仕方なしに座る。痩せたお尻にひんやりと座面の冷たさが伝わって来た。
グンさんは足組をしながらライダースジャケットのポケットに手を入れた。どこか気だるそうに煙草を取り出し、一本咥えた。マルボロだった。
「一本いいかな?」
グンさんは、僕が「どうぞ」と言うより早く前かがみになり、着火したジッポーに顔を寄せた。そして上体を反らせて吸い込むと、煙草の先端の火が膨らんだ。
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