麦芽百パーセント
ほの暗い店舗内。熱気に混じって鉄とオイルのにおいが漂っていた。
事務机の向こうに大きな冷蔵庫が見える。ライムグリーンのレトロなやつだ。コンプレッサーの音は悪魔のささやきか。サウナ上がりの三島には、そいつが手招きして見える。
足が吸い寄せられた。バイクが並んだ狭い間を、針でつつけば破裂しそうな腹が砕氷船のごとく割って進んだ。
三島はパンドラの箱に手をかけた。取っ手を握って手荒に分厚い扉を開けると、缶麦茶と缶ビールが入ってる。三島は下手くそな口笛を吹いた。
どちらも同じく麦ではあるが、ただいま三島は勤務中。もちろん「こっちだよな」と言って、伸ばした手は後者のほうへ。
箱の扉を閉めるより、プルタブに指をかけるほうが早かった。
歯をぶつける勢いで接吻し、喉を鳴らして三分の一ほど流し込む。とびっきりの炭酸にしびれると、翻訳不能だが万国共通の至福の唸りをあげた。
口元から流れた一筋を手の甲でぬぐい、もう一口だけあおって喉の調子を整えて、やっと野太い声で張りあげた。
「テリー! 一本もらっていいかあ?」
順番が違う。いや、それ以前の問題だ。
三島は半分になったR20(500㎖)に向かい手刀を切った。ごっつあんです。そして花道を行く力士のように、奥の工場へと通じる廊下を歩み進んだ。
なんということだろう、いつの間にかビーフジャーキーをかじっている。どこまでも手癖が悪い。
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