10. 奥多摩の奥
そこからは奥多摩周遊道路をひたすら下る、下り道に入る。
全体的に言えることだが、ここを走るライダーは、平均速度が速い。
何度も後ろから抜かれながら、真姫は内心、思っていた。
(みんな、スピード出しすぎだな)
あくまでマイペース。決して自分のペースを崩さない彼女は、速いバイクが来たら、自然とウィンカーを出して、脇に寄って譲るようになっていた。
そうして、ゆっくりと風景を味わいながら、徐々に道を下っていく。
やがて、緑に包まれた道を下りきると、右手に水が見えてくる。
奥多摩湖。正確には「
そのダム湖を右手に見ながら、やがて灰色のアーチ橋と黄土色のアーチ橋を越えて、右折。
灰色の方を、「
(綺麗な橋)
思わず見とれてしまうくらい、鮮やかな朱色に包まれたその橋の名を「
しかも、丁度少しずつだが、この辺りは紅葉に染まっており、色とりどりの木々が、目にまばゆいくらいに飛び込んでくる。
クールで、リアリストなところがある真姫にとっても、そこは十分に楽しめるのだった。
やがて、くねくねしたカーブが多い、湖の周りの道を走り、いくつものトンネルを越えると、蛍は右折した。
ついて行くと、巨大な駐車場に着き、駐車場には無数のバイクが停車していた。
「奥多摩湖、到着!」
いつもよりも、明るい声を上げ、蛍がヘルメットを脱いで、叫ぶように言い放った。
「いいねー、ここ。紅葉綺麗だし、ちょっと見て行こう?」
京香も続き、真姫もまた彼女たちの後に続いて、湖のほとりへと向かう。
道路を横切ってすぐのところが、ちょっとした広場になっており、水際にベンチが置かれ、そこから奥多摩湖(小河内ダム)が一望の元に見渡せる。
遠くが紅葉に染まる中、その紅葉の色が湖面に当たって、湖が色づいているように見える景色は、初めて来る真姫にとっても感動を与えるに十分だった。しかも、この辺りから天気が回復してきており、薄い雲の隙間から太陽が顔を出していた。
そんな中、真姫が写真を撮っている横で、蛍がLINEグループに写真をアップしていた。
すると、
「リアタイうぷ、あざお! バイトなかったら、行きたかったぽよ」
恐るべき速さで、返信が返ってきた。もちろん相手は、杏だ。
(相変わらず何言ってるかわかんねー。つーかバイト中に何やってんだよ)
真姫は心の中で、苦笑していた。
「まださすがに早いなあ。どっか行く?」
ベンチに座ったまま、京香が呟く。
「そだねー。せっかくだから、奥多摩の『奥』まで行ってみる?」
「いいんじゃない?
蛍と、京香は二人して、納得していたが、真姫は、さっぱり予想がつかないのだった。
(鍾乳洞? あったっけ?)
その答えは、走り始めてからわかることになる。
奥多摩湖に別れを告げ、今度は都内へと伸びる国道411号を走るが。
トンネルを抜けて、しばらく行くと、先頭の蛍が左折した。
川沿いの細い道で、「都道204号」と書かれてあった。
そこから先は、まさに「山道」。すぐに住宅街を抜けて、周りから威圧感すら感じるほどの、濃い緑色の木々が覆い茂る。
道幅は途中から、極端に狭い箇所があり、車同士だと離合が困難なほどの細くて、頼りない道が続く。
そんな中を2、30分も駆け抜けて行く。
まだバイクに慣れていない真姫には、恐怖すら感じる道だったが、それでも、
(車よりはマシかもしれない。こんな道、車で走るの大変そう)
普通自動車免許はもちろん持っていないし、取れる年齢ではなかったが、父の車に乗ったことはあるし、バイクに比べて、横幅がある車では、この道は走りたくないと彼女は痛感するのだった。
それだけに、むしろバイクで良かったと感じられる。
やがて、道路脇に見えてくる標識で、ようやく何があるか、真姫は気づいた。
(日原鍾乳洞?)
そう書かれてあった。
それが目的地なのだろう、と。
そして、3人は、この細長い山道の最奥に到着する。
川沿いに張り出すように、設けられた、どこか頼りない駐車場。そこには「日原鍾乳洞駐車場」と書かれてあった。
「ひばら鍾乳洞?」
「違うよ、真姫ちゃん。これは『にっぱら』って読むんだよ」
「へえ」
初めて来る、真姫は当然ながら知識もないし、読めていなかったが、京香も蛍も知っているようだった。
(つーか、京ちゃん。お店の手伝いもやってて忙しいはずなのに、何で知ってるんだ?)
真姫にとって、それが不思議だったのだが、彼女が思っている以上に、京香はアクティブで、あちこちに出かけていたのだった。
辺りはすでに紅葉に包まれており、しかも天気は回復傾向にあったが、それでもこんな山の中である。
10月にしては、随分涼しいと感じるくらいの場所だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます