11. 日原鍾乳洞
早速、この観光名所の「日原鍾乳洞」に入ってみることになった3人。
駐車場を降りると、ここが「東京都」とは思えないほどの、手つかずの大自然が広がっている。
少し下ったところに、その入口がぽっかりと口を開けている。
思いの他小さな入口に「東京都天然記念物 日原鍾乳洞」と書かれてあった。
中に入ると、真姫の体に、想像を絶する冷気が襲ってきた。
(寒い!)
ここは年間を通じて、気温が10度前後。夏に来れば涼しいが、今の時期はむしろ寒いほどだ。
いくらライダースジャケットを着ていたとはいえ、まるで真冬のような寒さに体が縮こまる。
「めっちゃ寒い~」
と言いながらも、どこか楽しそうにしている京香と違い、真姫は心底寒がって、震えるくらいに感じていた。
「大丈夫、真姫ちゃん?」
そんな彼女に声をかけたのは、蛍だった。
「大丈夫」
元気に先頭を歩く京香とは違い、蛍の他人を気遣う、優しさが何だか嬉しくも感じてしまう真姫は、精一杯の笑顔で返していた。
石段を下り、天井につらら(正確には鍾乳石と言う)のような物がぶら下がる様子を見て、歩き続ける。
中は、無風なので、慣れてくると、意外と寒さを感じなくなる。
少なくとも真冬のツーリングよりは、幾分か暖かい。
そして、そんな道を歩き続けること、約15分。
突如、目の前に幻想的な風景が広がる。
天井が高く、開けた空間に出たと思ったら、その岩の天井が赤、緑、青などの光にライトアップされており、不思議な空間を作り出していた。
これはLEDを使った照明なのだが、ある意味では、この日原鍾乳洞のメインとも言える場所だ。
「なに、これ! めっちゃ綺麗!」
一番テンションが上がっていたのは、京香だった。
この辺りには詳しいような口ぶりだったが、実際に来たのは初めてのようだった。
「素敵だね」
蛍もまた、言いながら写真を撮っている。この辺りは写真撮影もOKなようだった。
そして、真姫は、
(不思議で幻想的な空間。こういう落ち着く空間は好き)
普段、どちらかというと、物静かで、仲間と大騒ぎするのが好きではない彼女には、ここは打ってつけの場所であった。
ただ、土曜日ということで、観光客の数がそれなりに多いことを除けば。
その後、さらに進むと。
「見て見て、縁結び観音だって!」
女子高生らしく、大袈裟に感情を発露させ、いくつもの石が積み上げられ、小さな観音像が祀られている場所を発見した京香が大きな声を上げていたが。
「でも、来る途中、
「
真姫と蛍がそんなことを口にするため、
「もう二人とも、ロマンがないなあ」
京香は微笑みながらも、呆れたような表情をしていた。
正味1時間近く、この洞窟を探検するように歩き、ようやく外に出ると。
真姫は、何だか不思議な感覚がするように感じた。
(空気が淀んでいる)
それは、洞窟の中の空気が非常に澄んでいるために錯覚することなのだが、内と外で空気感がまるで違うので、こういうことを感じる人が多いという。
「さあ、お昼だよ。二人とも、おなか空いたでしょ?」
洞窟から出た途端に、勇んで京香が口にして、
「この辺、何か食うもんあるの?」
ぶっきらぼうに真姫が問う。
「あるよー。せっかくだから、お風呂入って、さっぱりしてから、魚料理を食べよう!」
いつにも増してテンションが高い、京香が、
「私に着いてきてー!」
と元気な声を上げて、スクーターへと向かっており、真姫と蛍は、そんな様子を微笑ましく思いながら、顔を見合わせて続いた。
向かった先は、そこから20分ほど先。
再びあの細長い、狭い山道を戻って行き、奥多摩駅付近から国道411号に出て、すぐのところにあった。
日帰り温泉施設だった。
京香が言うには、ここの日帰り温泉施設は、オススメとのことで、川魚の料理が食べられるという。
そして、この奥多摩の名物とも言えるのが、ある意味、「川魚」だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます