4. パリピショック!

 この道の駅果樹公園あしがくぼに着いた時には、まだ時刻は8時30分を少し回ったところだった。


 バイクを降りて、携帯と睨めっこしていた京香が、

「ちょい早く来すぎたかー」

 と唸るように発していた。


「何が?」

「わらじカツ丼だよ。秩父と言えば、わらじカツ丼でしょ」


「いや、カツ丼って、刑事物じゃないんだからさ。おっさんみたい」

 真姫は、嘆息していたが、京香は、


「なにぃ。誰がおっさんだって。知らないの、真姫ちゃん。めっちゃ美味いんだよ」

 と、やたらと真姫に「わらじカツ丼」を推してくるのだった。


 だが、どうやらその目当ての店が開くのが、午前11時とのことだった。

 まだ2時間もある。


 ということで、二人して、バイクの周りで携帯を見ていると、

「おつー。あんたら、二人で来たの?」

 いきなり声をかけられて、二人が視線を合わせると。


 見るからに、ギャル風な女子が一人と、その後ろに、まるで真逆の、どこかおっとりとした雰囲気を感じる女子が立っていた。


 ギャル風女子は、身長155センチくらいで、ウェーブパーマ風の髪を金色に染め、派手なピンク色のネイル、化粧もその年齢にしては濃く見える。

 切れ長の二重瞼ふたえまぶたが特徴的で、可愛いというより綺麗系の女子。

 その服装も、どこかオシャレで、目立つ赤いライダースジャケットに、白のボトムス、黒のロングブーツ姿だった。


 一方のおっとり系女子は、身長160センチ前後で、丸顔。ふんわりした印象を抱かせる、垂れ目がちな目と、天然パーマみたいな巻き毛が特徴的だった。

 こちらは、茶色のライダースジャケットに、ジーンズ、ショートブーツという格好だった。


 二人とも、真姫や京香と同い年くらいに見える。


「うん。わらじカツ丼食いに行きたいんだけど、まだ早いんだよねー」

 一瞬で、そのギャルを「苦手」と直感で感じた、真姫は黙っていたが、代わりに京香が口を開いていた。


 どちらかというと、真姫は、女子高生らしくないし、騒がしいのは苦手だったからだ。


「それなー」

「とりま、R140から秩父湖行って、時間潰してこれば良くね? あたしのふぁぼ、紹介するし。あそこ、レベチ」

「サンガツ!」


(何、言ってるかわかんねー)

 真姫は、いわゆる「女子高生」的な、流行語には非常に疎かった。


 というよりも、彼女は一種、独特な感性を持っており、流行には流されないところがあったから、なおさら、このギャルのしゃべっていることがよくわからなかった。


 京香は、ちゃんとついて行っていたが。


「ごめんねー。いきなり」

 一方、手持無沙汰だったのか、彼女はもう一人の女子に話しかけられていたが、こっちはまだまともそうに見えた。


「ああ、いえ」

「私たち、神奈川県の高校に通ってる1年生なんです。私は若松わかまつほたる。あの子は、白糸しらいとあんず。実は、私たちも早く来すぎちゃって、どうしようかと思ってたところなんです」


「あ、私たちも1年」

「えっ、そうなの? いやあ、子がいるって思ってたら、同い年だったんだね。良かったら、一緒に行かない? その方が面白いべ」

 敬語をやめた途端に、いきなり訛りのある言葉遣いと、流暢な方言が飛び出していた。


(何弁?)

 真姫にとっては、ギャル風の子は何言ってるかわからないし、この子はこの子で、怪しい方言を使うと思っていた。

 ただ、一緒に行くかどうかは、相棒と相談したかったので、一旦、断って京香の元に向かうと。


「それ、ま?」

「うん」

「フッかる。あざお! 行くならナウしかっしょ。バイブスアゲアゲ、あげみざわ! うぇーい!」

「うぇーい!」

 二人が完全に意気投合していて、ハイタッチし合っていたが、会話の内容が全然わからない真姫であった。


(もう、訳わかんねー。あれが『パリピ』って奴か)


「杏ちゃん。一緒に行くこと決まったの?」

「うん。あたしら、もうズッ友。秒で行くぜ」


(はあ)

 思わず溜め息を突いていた真姫。

 勝手に同行することが決まっていた。


 尚、二人は神奈川県横浜市の高校に通う女子高生で、白糸杏は横浜市出身。若松蛍は北海道北見きたみ市出身で、あれは北海道弁とのことだった。


 こうして、奇妙なパリピライダー、白糸杏と、道産子のおっとりライダー、若松蛍が、急きょ、同行することになった。


 いきなり騒がしくなり、静かな空間や雰囲気を好む、真姫は、途端に不安な気持ちにさいなまれるのであった。

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