第一章 旅立ち
第1話 目覚めの光
ゆったりとした微睡の中、白む視界に導かれるように意識が昇ってくる。
優しく揺れる揺り籠を思わせるような、規則的な振動を全身に感じながら、俺は徐々に自分自身を認識していく。
ここは、もしかして天国だったりするのだろうか。こんなに眩い世界なのだから、それも十分あり得るはず……。
——いや、眩しすぎるし、何より暑い。
光の刺激から逃れるように僅かに体を動かすと、頭部にずきりと鋭い痛みが走った。
「うっ、いっ……てぇ……」
思わず小さく声を上げ、患部を軽く摩る。
触った限りでは、傷にはなっていないようだった。とりあえずは安心といったところか。
しかし、全く傷になっていないというのも奇妙な話だった。
「あんだけヤバいぶつけ方して死んだってのにな……。死んだっての——」
自分で呟いた言葉を切っ掛けに、直前の記憶が湧き水のごとく甦ってきた。
「っ——ちょ! 俺死んだのか⁉ い、いや生きてるのか⁉」
その場から飛び起きるように上体を起こし、自分の全身を隈なく見回す。黒のスラックスに夏服のシャツ。靴もいつものスニーカー。
つまり、あの夜のままだ。
特に体におかしな所も——少なくとも外見上は——見当たらない。
頭部に未だ残る痛みも加味すれば、恐らく俺は生きている、ということになる……はず。
痛みで生を実感、というか確認する日がくるなんて……。
「大丈夫、なんだよな……一応。ていうか、ここ、どこなんだ?」
現実かどうかを確かめるためか、つい独り言が多くなっている。しかしそのおかげである程度の冷静さを保てているのも確かだった。
まずは一度落ち着いて状況を確認しないと。
いくらかの深呼吸ののち、軽く周囲を見渡してみる。
少し薄暗い、何処かの閉鎖された空間に俺は倒れていたようだ。
視線を落とし、自分がいま座り込んでいる場所を確かめる。板張りの床はだいぶ薄汚れており、中々の年季の入りようだった。
周囲の壁も同様に板張りであり、全体的に木で造られていることが分かる。
何よりも目立つのは、大量に積み上げられた木箱や金属製の箱だった。ほとんどが俺の腰の高さほどの立方体で、それらに混じって大きさや形の違う物が整列されて置かれている。
何かの荷物、だろうか……。
近くに行って確かめようと立ち上がると、視界が僅かにぐらりと揺れた。
(やっば、立ち眩みか)
頭を打ったのもそうだが、目覚めて間もない状態でいきなり立ち上がったからだろう。
少しの間立ったまま安静にしていれば収まるはずだ。
そう思いその場で静止し、様子を見ることにした。
しかし、どうにも止まる気配がない。今までこんなことほとんどなかったはず。よほど頭にダメージが入っているのだろうか、そんな考えが頭を過った。
それと同時に、視界の端に何かが動くのが見えた。
反射的にそちらを見やると、壁のフックのようなものからぶら下げられている縄が揺れていた。
びっくりした。何かいるのかと一瞬警戒してしまった。縄が揺れているだけか……。
え、縄が揺れている?
そうしてようやく俺は悟った。
揺れているのは俺の視界や脳では無い。
——今俺が立っているこの場所自体が揺れているのだ。
「ちょっと……待てよ……」
俺は壁を振り向くと、俺を目覚めさせた陽光が差し込む窓へと駆け寄った。
恐る恐る外を覗き込む。
正直なところ、すでに予想はついていた。
だが、改めてそれを目の当たりにすることで俺はさらに自身の置かれた状況を把握できなくなってしまった。
何故。
「なんで——俺、海の上にいるんだあぁーー⁉」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます