第20話 第四主都へ・2
「あ、ねぇねぇ、配属先エルデと一緒ってことだよね、やったー!」
アミティエは思い出したように声を上げた。恐ろしい主任が去って緊張が解けたのか、彼女の声で他のメンバーも思い思いに楽な姿勢をとった。
「アミティエもそうですが、教官とご一緒出来るなんて安心しました」
エルデに微笑みかけられた眞紅は、すっと立ち上がって高く手を挙げた。
「はーい!今回皆さんの隊長になりましたのは、口から生まれた男こと眞紅・ダン・エクレールです!
一時期は持ち前の明るさで二級執行官まで上り詰めましたが、任務で死にかけてから三年間の教官職を経て現在最低ランクの四級執行官です!
よろしくお願いします!」
指で一、二、三、四と示しながら、突き抜けるような笑顔を浮かべ、ノリと勢いで色々と押し通そうとする。
だが「はちゃめちゃに不安……!」とゴーファーは惑わされず口に出した。
「さっきはスルーしたけど、マジでそんな下がってたんですか?執行官二年目の俺らとタメっすよ」
呆れているビョンギの言葉に、ムルナも眉間に皺を寄せて頷く。
「現場に出ないと下がる一方だからな。実習では訓練生に譲ってたし」
ははは、と笑う眞紅に、ラテントは心底不機嫌そうな表情になっている。
「それで隊長出来んのか?」
「大先輩方が支えてくれましたら」
軽薄な煽り言葉に秒で調子のいいゴマすりが返ってきて、ラテントは大きくわざとらしい溜息をついた。それを気にしてかそれとも全く気にしていないのか、ローレルが席を立ち、眞紅達のいる部屋中央付近の椅子に座りなおした。
「まぁ命令だからね。私達も言いたいことが無いわけじゃないけど協力するよ、よろしくね」
「頼みます」
「普通にして。そしたら私も足並み揃えてあげる」
彼女の薄い唇と厚い瞼が、うっすらと蠱惑的な笑みを浮かべる。どこか神秘的な笑顔にエルデはさっきまでとは違うタイプの緊張をしてきてしまった。
「分かった、頼りにしているよ二人とも」
あまりにも気にしていないように見える眞紅に、ローレルは笑みに意味深さを強めた。
「でも嬉しい。うちらの市民等級じゃ一生カジノなんて遊びに行けないよ」
怪獣大戦争を阻止するがごとく、アミティエは話を変えようとする。二人のやりとりに悪意や敵意が無いことはまだ彼女には分からない。
「賭博にはまるとQUQに判断されたら、今後は移動制限かかって第四主都に入れなくなるからな」
「いえ、そもそも賭博にはまるタイプにはこの街の情報は与えられません。そこも最初から考慮されたメンバー構成かと思われます」とパウルがフォローした。
そして自分のプロフィールを眞紅に送り、「目を通してください」と付け加えた。
「それもそうか。これ見た感じ、パウルはうちで言う分析官ってよりはやっぱりオペレーターだな。通信とかの機械周りはあらかた任せていいか?」
「はい、尽力いたします」
この場の全員の情報が次々送られてきて、眞紅はざっと読み始めた。訓練生の名簿等で慣れているのか、あっという間に各員のポテンシャルやポジションについて把握したようである。
過半数が顔見知りとは言え、二年前の卒業生や卒業以来現場を同じにしていない同級生など、心象も含め今にアップデートするのは大変そうだ、とエルデは思っていた。
「あとで全員に所感まとめたやつ送るわ。今の隙に新人達に自分を売り込んでおいてくれ。それとビョンギのヘッドホンとムルナのマスクはそれぞれのギフトに関係してるから、冗談とかで外そうとしないでくれ。お互いに無事じゃすまなくなる」
そう眞紅が言うと、すかさずゴーファーが四人に笑いかけた。
「偵察はおねーさんに任せろよ新兵ども」とウインクしながら言った。
「やっぱ俺らも新兵扱いなんすね」
ビョンギとムルナは不満そうだが、アミティエとエルデは仲間が増えて嬉しそうだった。
「ラテントが狙撃と……隊長が死にかけたら指揮もとれるよ。私はまぁ、細々としたサポートだね。各種情報処理だの成分分析だの……はパウルか。爆弾の解体だのピッキングだの……はゴーファーか。それ以外の地味なやつは全部わりと出来るから回してもいいんじゃない?知らんけど」
ローレルは適当に笑った。つまりオールラウンダーか、とアミティエは納得した。
「いや、怪我や毒の類はこいつに聞け。あと指揮もなんだかんだこいつだ、俺に回すな。銃だけ撃たせろ」
今度はラテントが彼女をフォローした。
「俺とムルナも含めた新兵四人はまぁ単純な戦闘員でいい感じっすか」
「そうだな。お前らのギフトは前線向きだし」
「ところでクレイドさんは戦う以外何が出来ます?」
アミティエの素朴な質問に、思わずエルデは彼女の肩を揺さぶった。クレイドは目を閉じて眉間を指で押さえている。
問題は話の流れ的にクレイドのスキルを聞いても何らおかしくはなく、むしろ自然だということだ。聞き方一つで空気はいくらでも変な方向に転がってしまうという良い例であった。
「そもそも単独でヴォイドを撃破出来るクレイドの戦闘能力をサポートするための部隊だから、戦うだけしてればいいし気にすんな!」
眞紅のフォローを聞いて、更に彼の眉間の皺が深くなった。
「クレイドさんの尊厳がめきめき折られてる……」
アミティエと嗜みながら憐れむエルデだが、彼女自身も彼に戦闘以外を任せていいものか考えあぐねていた。繭どころかゴレムとの戦いの時から彼の口下手や、最適解かもしれないが突飛な行動を思い返すと、自分のような頭で物を考えてから動くタイプの人間とは相性が悪いと分かっていた。
両者の中間である眞紅も、誰も言葉にせずともそれを分かっていた。まだ言いたいことを言い合えない若手と良識から言わない中堅と、あえて何も言わないでリーダーの手腕を見ようとするベテランに囲まれて軽く息をついた。
「戦う以外だと……まぁ、守ってくれよ、俺達みんなのこと」
我ながらグッドアイデアだ、と笑いかけた眞紅を反対に、クレイドは渋い顔のままゆったり目を開いた。
「……そこは……期待はするな」
クレイドは眩しそうに目を細めて吐き捨てた。
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