第6話 希望の星が世界を見るため

 対峙しようとしたノース大国のユニット、マーキュリー・ヘルメスと邪馬台国の最強ユニット、スサノオアバター。

 互いの自慢の剣と鎌が交差するとき、戦いの鎮魂歌が始まる……はずだった。

 その時、マーキュリー・ヘルメスのコックピット内に、Emergencyの文字がメインカメラに映った。

「一体どうゆうことだ。何があった?」

 プロテスはEmergencyを指でタッチし、向こうとの通信に繋げた。

『予想外のバッドニュースよ。マーズ・アレスの反応が消失。……撤退よ』

「……マルスさんが、倒された? 何かの間違いじゃないのか⁉」

『いいえ、間違いないわ。緊急脱出の形跡も無いし、通信も途絶えてる。それに極めつけは……』

 通信室にいる女性の声は言うと、マルスの目の前に数秒のカメラ映像がホログラムされた。

 爆発したような黒い煙から、赤い鎧が四散した破片と彼を象徴するアカンサスの花模様、そしてマーズ・アレスの西洋甲冑がカメラに大きく映り、海の中にボチャン、と沈んでいく光景がそこにはあった。

「どうなれば……、こんなにユニットが砕け散るんだ?」

『――……翼のユニット』

「……なに?」

『とにかく撤退して。相手はどんな状態であれ、二機もいる。それに最強には貴方でさえ勝つのは難しい』

 マルスはメインカメラで目の前のスサノオ・アバターを睨みつける。

 奴もコックピットから、こちらを除いているような気がした。

 敢えて、拡声器を使ってマルスは言った。

「勝負はお預けだ。またやろう、最強さん」

 スサノオ・アバターはこちらの動向に気づいたのか、背後から狙うような外道の真似はしなかった。ただ、金のサンダルで空中を飛び回るマーキュリー・ヘルメスの姿をじっと見つめた。

 木偶の棒に浮遊するツクヨミ・アバターから、拡声器の声が上がった。

「はぁ……はぁ……。助けて、いただき……ありがとう…………はぁ、ございまㇲぅ」

 疲弊しきったアルナに目を向けず、ミツマタはただ神妙に呟く。

「弱い奴が負ける。いくら復讐心を掲げても強くなければ意味をなさない。それを肝に銘じることだ。俺たちは戦士だ、命を切り捨てる覚悟も無いなら、この戦場に二度と来るな」

 そう言って、スサノオ・アバターは急加速をつけて、邪馬台国にある戦闘基地へと帰還するため去っていった。

 アルナはレバーの上にドンッ‼ と拳を叩きつけた。

「……私に力があれば……ッ‼」

 アルナは一人だけのコックピットで子供のように泣き叫んだ。

 余談であるが、通信室では、ツクヨミアバターの電波を切っていたようだ。


      ※


 『明けの明星』は誰にも見られないよう、森の中に身を顰めた。

 伊邪那岐で多くの民衆からその姿を見られたが、暫くしていれば人の記憶から消えていくだろう、と少年の勘は言っていた。そんなことは恐らくないだろうが。試運転、というか久々の搭乗で慣れない操作が多かった。朧気に操作方法を思い出しながら、奴との戦闘を行ったが、うまくいって清々した。ルシファーズウェポンの能力を上手く活かせた。

 少年はグッと小さくガッツポーズをした。真顔で顔に変化はないが、喜びがあったのが確かだ。

「ありがとうーございます」

 と、突然の声に少年は思わず臨戦態勢に入った。

 レバーであっただろう、折り畳み式のナイフを構えて、声のする方に刃を向けた。

 だが、その刃をしまった。

 未開拓地という何もない場所で出会った、十二単の女性である。

「なんのようだ」

 少年はぶっきら棒に言った。

「国を救ってくれた救世主さんにお礼を言わなと思いましてねぇ」

「救世主?」と、少年はすぐに鼻で笑った。

「あら? 気にいらんの?」

「俺はそんなのになるつもりも無いし、なりたくもない」

 そう言って、少年は折り畳み式ナイフをカチッ‼ と音が鳴るまでしまった。

 すると、『明けの明星』は自分の体を翼で覆った。そして、土を掘っただけでは到底できないであろう、黒い穴――ホールを地面に出現させる。そして、帰還するようにホールの中に吸い込まれるように入っていった。

 これが『明けの明星』の力なのだろうか、女性は思った。

 その時、少年の頭に声が響いた。

『マスター、貴方の脳内に私の素粒子プログラムを組み込みました。これでいつでも私にお声かけいただくことが出来ます』

「…………そうか」と、少年は誰の耳に届かない声量で呟く。

『まだ、怒っていますか?』

「……今分かった。――…………もう過ぎたことだ」

 それ以上、『明けの明星』も追及しなかった。それから声は聞こえない。

「終わりはった?」

 十二単の女性は小首をかしげて、訊ねた。

「俺はまだ、あんたの名前を聞いていない」

 少年は睨むように言った。

「そうやね。あんたさんは言ってくれたし、私も名乗らんと礼儀がなってないねぇ……」

 女性は一呼吸を置いて、目の前の彼に真っすぐな視線を向ける。

「私はミコト。この国の”神さま”を務めております」

 やがて、この世界の在り方を少年は知ることとなる。

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