第2話

 「なんだその回想。俺らが悪人みたいじゃねえか」

 路地裏の逃走劇、または追走劇を終えた3人は、現在車の中にいた。

 捕まえる際にいささか手荒い手段を取り、結果的には気絶させてしまったため、前後の記憶がトンでしまっていないか確認するために、中折れ帽子の中年とくせ毛の少年は、車の後部座席に寝かせていた、そして先ほど起きた少女から気絶する前の出来事について確認していたのである。

 「悪人じゃないの?」

 少女は先ほどの衝撃のせいか、いまだに少しだけクラクラする自身の頭を軽く小突きながら尋ねた。

 「悪人じゃねえ。俺たちは『自警団』だ」

 「これ、僕たちのバッジね」

 悪人扱いされたことに少し苛立ちながら、助手席から後部座席をのぞき込む少年に続いて、中年が手元で資料を見ながら自身の帽子を少女の方に放った。少女はそれについたバッジと、そこに彫られたチーム名である『GREED』の文字を認め、この男たちが自警団であるらしいことを確認した。

 自警団、ヨロイによって人々が力を手に入れたことで、昔よりも個人的に大きな犯罪を起こしやすくなった環境において、徒党を組んで行う犯罪は過去に類を見ないほど規模を拡大させている。そんな大悪党たちなどの厄介事に翻弄され、個人的な犯罪に完全には手の回らなくなってしまった警察に代わって正義を執行する者たち、と言えば聞こえはいいが、実際には被害届をもとに警察が定めた賞金首を捕らえて金を稼いでいる賞金稼ぎのような職業であり、よく言ってもちゃらんぽらんのマフィア程度のものである。

 小学校で習う知識をひとしきりおさらいしたうえで少女は前方の二人に目をやる。

 ちゃらんぽらんのマフィア、誰が言い始めたのかは知らないが、この二人を見るとなかなかに的を射た揶揄だと思う。

 「あなたたちが自警団だっていうのは信じるけど、『GREED』なんてチーム聞いたことない」

 ある程度活躍しているチームなら耳にするはずなのだが、と少女は念押しで目の前の男たちに確認する。

 「まあ、最近作ったチームだからね。しかも手続きに時間がかかって今日が初仕事の日なんだ。知らないのは無理もないよ」

 「宣伝込みで自己紹介しとくぜ。俺の名前はハク。で、こっちのスーツがステイルな。」

 資料に目を通しながらチームについて説明するステイルに続いて、ハクはここぞとばかりに自分たちの紹介を済ませる。

 「そうだったんだ。私の名前はカルタ。今更なんだけど、なんで私が追いかけられて車の中に連れてこられてるのか説明してもらってもいい?」

 名乗られたら名乗り返すのが礼儀だろうと感じて、カルタは自分の名前を言い、ついでに言えなかった疑問を投げかける。答えは分かっているのだが。

 「そりゃ、男三人をのしてる女の子がいたら事情を聞こうと思うでしょ」

 「私が吹っ掛けたんじゃないからね。あいつらがいきなり絡んでくるから」

 人ごみを避けて路地裏を歩いていたらいきなり絡まれたから空き地までついていってぶっ飛ばしたというだけの話なのだが、カルタがぶっ飛ばした後だけを見た人間からすれば、異様な風景だろうし、そもそも何かされる前に気晴らしで男たちを蹴散らしていたので、正当防衛は成立しない。そのため、少し罪悪感を感じていたカルタが通りすがりの二人の姿を確認するや否や逃げ出して、今の事態となっていた。当然、カルタは先に殴ったことは伏せておく。

 「それならそうとその場で言ってくれれば良かったのに」

 「ステイルの言うとおりだ。逃げなきゃそんな傷負うこともなかっただろ」

 ハクがカルタのふくらはぎ辺りに貼ってある何枚かの絆創膏を指して言う。そもそもカルタは喧嘩では傷を負っていなかった。二人を確認したときに慌てて逃げたときに空き地に生えた茂みから伸びていた尖った枝に引っ掛けたのだ。ついでに体を見回すと、右手首にも絆創膏が貼られていることに気が付いた。覚えのない傷だったが、気づかないうちにこっちもどこかに擦ったのだろうとカルタは気にしないことにした。

 「消毒と絆創膏やってくれたのステイルだから、お礼言っとけよ」

 「ありがとう」

 カルタは、自分の傷を手当てしてくれたらしいステイルに向かって、しまりのない顔に似合わず紳士的な人だと思いながら礼を言う。

 「いいのいいの、女の子の傷は浅い深いにかかわらず大事だからね。それより大手柄だったよ。あの三人組、安いけど賞金首だった。一応ハクに空き地から車に運ばせて正解だったね」

 「え、マジで!?今日はもやしじゃなくていいのか!」

 良かった、あいつら賞金首だったんだ、と胸をなでおろしつつ、はしゃいでいるハクの様子を見て、この二人は普段どれだけひもじい生活をしているんだとカルタは呆れた。それと同時に少し周りを見渡して疑問に思う。

 「あれ?でもあの三人の姿がないけど」

 さっきハクが運んだと言っていた三人の男の姿が見当たらない。外にでも寝かせているのだろうか、とカルタは考えた。

 「あぁ、あの三人ならトランクに突っ込んでるよ。こんな時のために、トランクが少し広めのを買ったんだ」

 それを聞いてカルタが、座っていた後部座席に耳を当ててみると、防音仕様にしているのか、かなり小さいが、座席を伝ってトランクからうめき声が聞こえてくる。なるほど、これが自警団流なのか。そう思い、カルタは座席から耳を姿勢を戻した。

 「あ、そうだ。かなり遅れたけどさ、カルタ。僕たちのチームに入ってよ」

 突然すぎるステイルからの申し出にカルタから出た言葉は想像に難くなかった。

 「はい?」

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ヨロイ 魅魁 出流 @boomer

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