第38話 松永甚助の仕官
冬のある日、旧松殿家の屋敷にて、松永久秀から話したいことがあると告げられる。
私は、時間を設けて松永久秀と屋敷の一室にて話すこととなった。
「実は、若様にお願い致したき儀がございまする」
「ほぅ、松永が望みを申すとは珍しいな。申してみよ」
松永久秀は、私に頼みたいことがある様だ。私に仕えてから、商人たちとの話し合いの際の対応や書記などだけで無く、旧松殿家の屋敷でも家僕たちと良好な関係を築き、誠実かつ懸命に働いている。それだけで無く、旧松殿家の家僕たちから教養を学ぶなど、向上心を持って、能力の向上を図っていた。
そんな努力家の松永久秀の願いならば、大抵のことは聞いてやっても良い気がする。
「某には、弟がおるのですが、若様の御側に御仕えさせていただけないかと思う次第にござりまする。弟は若様とも歳が近く、御屋敷で身の回りの御世話をするのに良いかと」
「其方の弟か…。私と年が近いとは興味深いな」
松永久秀は、弟を私に仕えさせたいので、召し抱えてもらえないかと言うことであった。松永久秀の弟は、歳が私に近く、雑用させるのに良いだろうとのことである。
松永久秀が言いたいのは、武家で言う小姓の様なものを持てと言うことだろうか。確かに、歳の近い子供は側に置いていない。私に仕えているのは、大人ばかりであった。
松永久秀の話を更に聞くと、松永の弟も実家を継げる立場に無く、兄の目から見ても、なかなか出来の良い弟の様だ。松永の実家は摂津国東五百住村の土豪であることは以前に聞いていた。
松永久秀が旧松殿家の屋敷で仕えているからこそ、その機会を活かして、仕官させたいと思ったのかもしれない。
松永久秀が旧松殿家の屋敷で仕えるようになってから、家僕たちから学ぶ機会が多い。弟にも、旧松殿家の屋敷で働きつつ、学ぶ機会を得て欲しいと思ったのもあるだろう。
私は、松永久秀に弟を旧松殿家の屋敷に連れて来る様に命じた。実際に会ってから、召し抱えるか判断することにしたのである。
後日、松永久秀は一人の子供を伴って、旧松殿家の屋敷へと戻ってきた。
旧松殿家の屋敷の一室にて、松永兄弟が待っているとのことで、その部屋へと赴く。部屋に入ると、松永兄弟が頭を下げて待っていた。
松永弟の顔は見えないが、歳の割には身体が大きい様に見受けられる。私も歳の割には身体が大きいが、日頃から武芸の鍛錬に勤しんでいるから、致し方あるまい。
私は、松永兄弟に面を上げるよう告げ、松永久秀に弟を紹介させる。松永弟の名は甚助と言うらしい。
松永甚助の顔付きは、優しげな兄に比べると精悍な顔付きをしていた。そして、その目には力強さを感じさせられる。
「松永甚助にございます。若様にお目にかかれて光栄至極にございまする」
松永甚助は名乗るとともに、挨拶の言葉を述べる。その後、松永甚助と話をしてみると、兄である松永久秀が出来が良いと語っていた通り、聡明さを感じさせられた。また、兄の松永久秀には無い快活さも持ち合わせている。
私は、松永甚助を気に入り、旧松殿家の屋敷での側仕えとして召し抱えることにした。
こうして、松永甚助は兄と共に、私に仕えることになったのであった。
旧松殿家の屋敷で過ごすこととなった松永甚助は、私がいない間は、兄の松永久秀の手伝いをしている様だ。そのため、旧松殿家の家僕たちとの関係も悪く無い様で、兄に混じって教養を学んでいるらしい。
また、松永甚助は教養などの学問よりも、武芸に対する興味が強い様で、大林菅助に武芸の稽古を付けてもらっていた。武芸の鍛錬には熱心な様で、大林菅助だけでなく、服部半蔵や服部一族たちからも武芸を学んでいるらしい。
松永甚助の目標は、私を守れる強い武将になることだそうだ。私は陰ながら松永甚助の成長を期待しているのであった。
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