第34話 ギリワン・ボンバーマン(松永久秀)の仕官
旧松殿家の屋敷で、平井宮内の軍学の講義を受けていたが、終わった後に話したいことがあるので、時間をくれと言われた。
「若様、またお引き合わせしたい者がおりましてな。随分と若いのですが、優れた者ですので、若様のお役に立つかと」
「また、平井宮内の元に通っている者か?優れているなら、仕官先などいくらでもあろう。厄介な者ではあるまいな?」
平井宮内は、私に引き合わせたい若者がいる様だ。平井宮内が優秀だと言うのだから、以前の大林菅助の様に優れた者なのだろう。
平井宮内が役に立つと薦めるぐらい優秀なら、仕官先がありそうなものだが、何か厄介事を抱えているのではなかろうかと思い、宮内に問う。
「私の元で軍学を学んではいますが、厄介な者ではございませぬぞ。ただ、優れ過ぎていると言った方が良いやもしれませぬ。故に同輩の者たちに嫉まれるそうにございます。出自も良くないためか、上役にも庇ってもらえず、仕官をしても上手くいかぬとか」
「優れ過ぎて仕官が上手くいかぬなど難儀なものよのう。出自が良くないなど、どの様な筋の者なのだ?」
平井宮内の元で軍学を学んでいる者の様だ。厄介事は抱えていない様だが、優れ過ぎて同僚たちに嫉まれて、職場に居場所が無くなるタイプの様だ。優秀であるが故に、頑張り過ぎて周囲の反感を買ってしまっているのだろう。出自の身分が高くないから、上司も庇ってくれないとか、上司も職場の安寧を優先させたのか、取って代わられるのを恐れたのか。
しかし、身分が高くないとなると、問題のある身分ではないかと思い、平井宮内に再び問う。
「出自が良くないと言っても、摂津国の土豪の出だそうでございます。武士になりたかったそうですが、細川京兆家の家督争いなども加わり、暇を与えられてしまった様で」
「分かった。会ってみよう。近い内に連れて参れ」
平井宮内が引き合わせたい者は、土豪の出身の様だ。武士になりたかった様だが、職場での人間関係が上手くいかなかった上に、両細川の乱の影響でクビになったらしい。
土豪出身の戦国武将など、これから沢山現れる。それを知っている私は気にしないが、気にする者は多いだろうな。
私は、平井宮内が紹介したい者を連れて来る様に伝え、その日の軍学の講義は終わったのであった。
数日後、平井宮内が一人の若者を連れて、旧松殿家の屋敷にやってきた。
旧松殿家の家僕から、平井宮内たちが訪ねてきたとの報せを受け、待たせている部屋へと赴く。
部屋に入ると、平井宮内ともう一人の若者が頭を垂れている。体格は中肉中背と言ったところか。
「その者が、平井宮内の引き合わせたかった者か?」
「左様にございます。松永と申す者にございますが、若様の御役に立つかと」
面を上げた平井宮内が、連れて来た若者を紹介する。松永と言う名の様だが、思い当たる人物が浮かんでしまう。
私は、松永と言う若者に面を上げる促す。面を上げた松永の印象は、優しげな美形と言ったところだろうか。
私は、松永に自己紹介を促す。
「近衞家の若様にお目にかかれて光栄至極に存じます」
松永と言う若者は、挨拶の言葉を述べると、自身を「松永久秀」と名乗った。摂津国東五百住村の土豪の出身である様で、兄弟が多く、上に兄たちがいるため、家を継ぐことが出来なかったため、摂津国や山城国で働き先を探していたそうだ。
何とか武家に下人として雇ってもらえたものの、職場の人間関係が上手くいかず、両細川の乱の影響もあってかクビになってしまったらしい。
京の都にやってきてからは、仕官先を探しつつ、日雇いの仕事をしながら、平井宮内の元で軍学を学んでいるそうだ。
摂津国の土豪の出であるから、商人たちと関わりが強かったそうで、商人たちとの付き合いの影響を受けてか、それなりの教養がある様に見受けられる。また、本人が優秀なのだろう。奉公していた武家の上役たちの所作などから、様々なものを学び取った様である。
松永久秀と話していて、端々に優秀さを感じさせられた。
この松永久秀と名乗った若者であるが、歴史や戦国時代好きでは有名な武将に違いなかろう。
某信長が野望を果たしてしまうゲームでは、義理値が1だから『ギリワン』だとか、爆死したから『ボンバーマン』などと呼ばれている。
21世紀では、それは後世に脚色された虚像だと言われる様になっていた。実際は、三好長慶への忠誠心厚く、優秀な教養人だったそうだ。
松永久秀が何度も裏切ったのも、織田信長の扱いが悪かったのが原因だと言われていたな。
最近では、後世に書かれた松永久秀の肖像画など見つかっていた様だが、優しげな顔であるものの、出っ歯で唇は厚ぼったかった。
しかし、松永久秀は美形であったことも出世の理由の一つであったと言われているので、後世の肖像画では悪人面で描くのも躊躇われて、不細工に描かれたのかもしれない。
「松永よ。其方と話してみて気に入ったが、
私に仕えると言うことで良いのか?」
「若様がよろしければ、召し抱えていただきとうございます」
「分かった。其方を召し抱えよう。本日より、この屋敷で過ごすが良い」
「有り難き幸せ。必ずや若様の御役に立ってみせまする」
私は、松永久秀と話してみて、すぐに気に入ってしまった。そのため、私に仕える気があるか問うたところ、松永久秀も仕えたいそうだ。
こうして、松永久秀は私に仕えることとなった。私が旧松殿家の家僕たちに、松永久秀を召し抱えることになったと伝えたら、困惑していたが。
大林菅助や服部一族に加えて、新たに素性の怪しい者を雇ったため、本音では嫌なのだろう。
取り敢えず、松永久秀は服部一族に混ぜて生活させることにした。服部半蔵の補佐役の妻が面倒を見てくれるそうだ。
現在の松永久秀は、教養など、そこまで高くない様に見える。三好長慶に仕官するまでに、転々としながら教養を身に付けていたのだろう。
旧松殿家の家僕たちとも関わりを持たせて、公家の教養を身に着けさせるか。
松永久秀は、政治、軍事、外交、建築等、様々な能力が高い武将となる。平井宮内のお陰で良い拾い物をしたと言えるだろう。
三好長慶には悪い気がするが、松永久秀は、私の下で活躍して貰うことにしよう。
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