第35話 多幸丸の帯解きの儀
私にとって待ち遠しかった11月15日がやってきた。私が数え年で9歳になったことで「帯解きの儀」を迎えることが出来たからである。
「帯解きの儀」とは、子供が着物の付け紐をとり、初めて帯を結ぶ儀式である。元々は鎌倉時代に、紐を縫い付けた着物を着ていた子供が、大人と同じように帯を結んで着物を着るようになることを祝う儀式「紐解き」として行われていた様だ。
「紐解き」から「帯解きの儀」へと変わったのは、室町時代末に公家や上流武家の間で始まったためとされている。そして、足利将軍家が11月15日に祝ったことから、9歳の男女が11月15日に行う様になったそうだ。
元服とは異なるものの、大人と同じ装いをする様になることで、大人の仲間入りを果たしたと捉えられるのだろう。
近衞家の屋敷で「帯解きの儀」を終えた私は、家族たちから祝福されたのであった。
叔父は、自分も早く「帯解きの儀」を迎えたいと、祖父に訴えていたが、そればかりは時が経たねばどうにもなるまい。
「帯解きの儀」を終えた後、祖父の近衞尚通が家僕に命じて、ある物を運ばせてきた。
家僕と共に現れた男が腕に留めていたのは、大鷹である。
「前に、多幸丸に鷹を手に入れてやると言ったであろう。其方も持明院家の鷹を学んで、鷹のことは分かってきたはず。帯解きを終えた故、鷹を持つが良い」
家僕と共に現れた男は鷹匠の様で、大鷹は祖父からの「帯解きの儀」のプレゼントの様だ。いつになったら大鷹を手に入れてくれるのかと思ったが、まさか「帯解きの儀」のプレゼントだったとは恐れ入った。
「祖父上、有り難うございまする。大切に致します」
祖父も方々で大鷹を探してくれた様だ。今では鷹狩など、大樹や細川京兆家など武家ばかりが行っている。その影響を受けてか、守護など地方の有力武家も鷹狩を行っていた。
そのため、良い大鷹は武家たちのところばかり流れていってしまうのが現状だ。庶子とは言え近衞家の子息が持つならば、最上に近い物をと祖父は思ったのかもしれない。鷹書で学んだ良い鷹の特徴を備えた大鷹であった。
それを見た叔父も鷹を欲しがり、祖父は叔父の「帯解きの儀」の際に贈る様に約束させられている。叔父はいつも私の真似をしたがるのだ。ほぼ実の兄弟と言っても過言では無いのかもしれない。
父からは「帯解きの儀」を終えたことで、都を遠く離れないならと言う条件で、洛外に出ることを許された。
そして、私が鷹狩を行う許しも与えられる。私が鷹狩をするために洛外へ出ることを許したのだろう。祖父も父も「鷹の鳥」を求めているのかもしれない。
「帯解きの儀」を終えた後は、家族たちと過ごし、幸せな一時を過ごすこととなった。
近衞家の家僕たちからも祝われ、旧松殿家の屋敷では、旧松殿家の家僕たちや大林菅助、服部半蔵ら服部一族、松永久秀に祝われている。
平井宮内や渡辺四郎左衛門、傘下の商人たちも祝いに訪れてくれた。
「若様、帯解き儀を終えられ、おめでとう御座いまする」
渡辺四郎左衛門を代表に、傘下の商人たちが祝いの言葉を述べていく。商人たちは、祝いの品々まで持参してくれた。
私も、商人たちに対して返礼の言葉を述べた。
「しかし、若様はいつの間にか、松永殿の様な優れた方を召し抱えられて、驚きましたぞ」
商人の一人が、松永久秀を召し抱えたことを褒める。その後、他の商人たちも松永久秀を褒め始めたのであった。
この場には、松永久秀も同席させており、本人は謙遜するばかりである。
松永久秀にはさせることも特に無いので、側仕えを命じ、商人たちとの話し合いの際には同席させていた。
稀に、松永久秀に意見を求めると、的確な答えが返ってくる。商人たちも松永久秀に感心していたのだ。
松永久秀は元々は摂津国で商人たちとも関わりを持っていたので、商人たちの扱いに慣れているのだろう。商人たちと良好な関係を築いていた。
また、松永久秀は旧松殿家の家僕たちとも良好な関係を築いている。大林菅助や服部半蔵たちに比べて、クセが強く無いからだろう。人当たりも良いため、旧松殿家の家僕たちも心を開く様になっていた。
今では、旧松殿家の家僕たちから教養を学び、松永久秀は自身のスキルを高めている様だ。
大林菅助や服部半蔵ら服部一族とも良好な関係を築いており、旧松殿家の屋敷では、家僕と新たに召し抱えた者たちの繋ぎ役になっている。
松永久秀を召し抱えたのは、本当に拾い物だった。
優秀な家臣を召し抱え、行動の自由をより得ることが叶ったのである。
私は将来に向けて、更に準備をして行く必要があるのだと、決意を新たにしたのであった。
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