第46話 黒田重隆の仕官
私は、書状の遣り取りをする様になっていた明石郡枝吉城主の明石備前守こと明石正風から、一人の牢人を送るとの書状が送られてきた。
私は明石正風と書状の遣り取りをする間に、瀬戸内の牢人を紹介してくれと頼んでおいたのだ。
明石正風の書状だと、その牢人は備前国の福岡に住んでいたそうで、今年に入ってから、播磨国に移り住んだらしい。牢人には妻子がいる様で、家族の帯同が条件の様だ。私は家族の帯同を認め、その牢人を寄越してもらうことになったのであった。
明石正風へ返信の書状を送ってから、暫く経ち、正風推薦の牢人が到着したとの報せを受ける。三條西逍遥院殿や祖父の近衞尚通の教授があるため、すぐには会うことが出来なかった。そのため、牢人の対応は松永久秀に任せている。
その後、旧松殿家の屋敷へ赴き、まずは松永久秀と会うことにした。
「播磨国より参った牢人は如何であるか?」
「件の牢人と話してみましたところ、才智を感じられる者にございました。齢は某と同い年だそうで、元々は近江国の者であったそうにございます。」
「ほぅ。其方が認めるとは、なかなかも者なのであろうな。齢が同じとは、其方も共に働きやすいか?」
「共に働いてみねば分かりませぬが、話した限りでは気が合いそうにございます。若様の御役に立てる者かと」
「其方がそこまで言うのだ。期待させてもらおう」
私は、播磨国からやって来た牢人が待つ部屋へ、松永久秀と共に赴く。部屋に入ると、松永甚助に入室を告げられたのか、件の牢人は頭を垂れて待っていた。牢人の体格はやや大柄であり、逞しさが感じられる。
私が着座すると、牢人は松永久秀から面を上げる様に指示され、挨拶を促される。
「この度は、若様にお目にかかれて、光栄至極にございまする」
牢人は、挨拶の言葉を述べ、自己紹介をする。なかなか、堂々とした語り口だが、話し方に巧みさが感じられ、渡辺四郎左衛門に似ているなと思った。武士出身の商人と言った印象を受ける。
牢人の名は、黒田重隆と言うそうだ。豊臣秀吉の軍師で有名な黒田官兵衛の祖父である。
黒田重隆の話を聞くと、松永久秀の言っていた通り、出身は元々は近江国である様だ。
黒田重隆の父である黒田高政は、永正8年(1511年)の船岡山合戦の際に、六角方として参戦していた。しかし、黒田高政は六角高頼の命に背いて、抜け駆けしてしまったそうだ。そのため、前将軍の足利義稙の怒りを買ってしまい、追放されたとのことであった。
その後、黒田高政は、親族を頼って備前国の福岡に移り住む。そのまま、備前国の福岡で暮らし、父の黒田高政は亡くなったそうだ。
そして、黒田重隆は、妻を娶ったものの、備前国が荒れ始めたため、播磨国へ移住を決意したらしい。播磨国で仕官先やら仕事を探していたところ、明石正風が有能な牢人を探しているの耳に入った様だ。
黒田重隆は、明石正風に仕官を申し出たところ、近衞家の子息が牢人を探していると言う話になったらしい。近衞家の子息のために牢人を求めていると分かり、当てが外れたものの、故郷の近江国に近い京の都での生活も良いかもしれないと思い至った様だ。
明石正風とは実際に話して、気に入られ、明石家への仕官を誘われたそうだが、私に仕える方に興味が惹かれたとのこと。
実際に、黒田重隆と話してみたが、語り口も面白く、才智を感じさせられた。是非とも、召し抱えたい。
「其方は、私に仕える気持ちは変わらぬか?」
「若様に御会い致したことで、益々御仕え致したいと思いましてございまする」
黒田重隆は私に仕官したいと言う気持ちは変わりない様だ。
足利義稙は既に亡くなっている。現在の公方は足利義晴であるため、黒田重隆を召し抱えても問題はあるまい。
こうして、黒田官兵衛の祖父である黒田重隆は、私に仕えることとなった。
黒田重隆には、松永久秀の補佐的な立場で経験を積んでもらうこととなる。主に傘下の商人たちの相手や私の私的財産の管理・運用だ。加えて、旧松殿家の家僕たちの手伝いをすることで、学問や教養を身に付け、公家の対応や家政を学んでもらう。
黒田重隆は妻子を連れ、旧松殿家の屋敷に住むこととなったが、子供はまだ赤子だそうだ。
私に仕えたことで、服部一族の女衆が、黒田重隆の妻子を手助けしてくれているらしい。黒田重隆の妻も生活や育児のサポートを受けられそうな環境に安堵している様で、私に仕官したことに賛成の様だ。
黒田重隆は、本来ならば、播磨国で商人として成功した後に、小寺家に仕えることになる。その後は、小寺家家臣として息子と共に出世するのだが、松永兄弟同様に、私の将来のために役に経ってもらうことにしよう。
孫の黒田官兵衛も秀吉に仕えるよりは、私に仕えた方が良いに違いない。
因みに、福岡と言えば、福岡県の福岡が有名だ。その福岡は黒田家が筑前国を与えられた時に、居城に黒田家所縁の地である備前国福岡から名付けられたため、博多では無く福岡となった。
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