第3話『今回も日焼け止めを塗ってほしいです。』
いい場所がないかどうか探しながら、氷織と一緒に海水浴場の中を歩いていく。
今は午前10時半過ぎだけど、みんなで来たときと同じく、海の家の近くを中心に既にレジャーシートが敷かれたり、パラソルが立てられたりして場所が確保されている。
「あの黒いビキニの銀髪の子、凄くレベル高くね?」
「ほんとだ。一緒にいる茶髪の奴が羨ましいぜ……」
「恋人らしき男がいなければ絶対声かけてた」
「だな」
「青い海パンの茶髪の人、凄くかっこいいよね」
「そうだね。一緒にいる銀髪の女の子は彼女かな? お似合いだよね」
海水浴場の中を歩いていると、男性中心にそういった会話が聞こえてくる。特徴からして、俺達のことを言っているんだろうな。特に氷織。その証拠にこちらに視線を向ける人が多い。こうなるのは銀髪でスタイル抜群の氷織と一緒に歩いているからだろう。俺の恋人は魅力に溢れる女性なのだと改めて思う。当の本人である氷織は全然気にしていない様子。
みんなで来たときと同じく、海の家から少し離れたところで人の数も落ち着き、確保されていない箇所も増えてきた。前回は少し外れの方で拠点を構え、それが結構良かった。なので、今回も同じような場所で俺達2人の拠点を構えることにした。
俺は持ってきたビーチパラソルを砂浜に立てる。また、そのことでできた日陰に、青いレジャーシートを敷いた。これも俺が持参したもの。ちなみに、浮き輪やビーチボールといった遊具も俺が持ってきている。これらは、一昨日のお家デートで、氷織と話し合う中で俺が持ってくることに決めたものだ。
「よし、これで完成だ」
「お疲れ様でした。ありがとうございます」
氷織は拍手をしながら笑顔でそう言ってくれる。その反応だけで、パラソルを立てたり、レジャーシートを敷いたりするのを頑張って良かったって思えるよ。
氷織と一緒に、日陰になっているレジャーシートに入り、腰を下ろす。
「日陰に入ると結構涼しいな」
「そうですね。あと、今日は2人ですから、レジャーシート1枚でゆったりできますね」
「そうだな。うちにある大きめのレジャーシートを持ってきて良かったよ」
今後も氷織と海水浴デートをすることは何度もあるだろうから覚えておこう。
俺はバッグから水筒を取り出し、スポーツドリンクを一口飲む。直射日光を浴びる中でビーチパラソルを立てたのもあり、冷たいスポーツドリンクがとても美味しく感じられる。
また、俺を見てか、氷織も自分のバッグから水筒を取り出して飲み物を飲んでいた。この前の海水浴ではスポーツドリンクを持っていたから、今回も同じだろうか。
「あぁ、スポーツドリンク冷たくて美味しい」
「美味しいです。私もスポーツドリンクです」
「そうなんだ」
やっぱりスポーツドリンクか。海だけど暑い屋外で遊ぶからな。熱中症対策もあってスポーツドリンクにしたのだろう。
「明斗さん。拠点を構えて落ち着けましたし、今日のデートの記念に一緒の写真を撮ってもいいですか?」
「ああ、いいぞ。その写真、俺に送ってくれないか?」
「分かりました!」
その後、氷織のスマホで氷織と俺のツーショット写真や、お互い一人ずつの写真などを撮影した。
撮影した写真はLIMEを通じて俺に送ってくれた。写真で見ても、氷織の水着姿はとても綺麗だ。これらの写真は大切にしよう。そう思いながらスマホに保存した。
「明斗さん。今回も体の背面に日焼け止めを塗ってもらってもいいですか?」
「ああ、もちろんだ」
「ありがとうございます!」
氷織は嬉しそうにお礼を言う。前回の海水浴でも氷織に日焼け止めを塗ったし、今回も塗ってほしいと言われると思ったよ。それに、今回は俺と2人きりだから。
「氷織の後に、俺の背面に日焼け止めを塗ってくれるか?」
「もちろんいいですよ!」
「ありがとう」
前回の海水浴で、氷織に日焼け止めを塗ってもらったのが気持ち良かったから楽しみだ。
氷織はバッグから水色の小さなボトルを取り出して、俺に渡してくる。氷織はいつも髪に付けている氷の結晶の形のヘアピンを外し、青いヘアゴムを使って長い銀髪をまとめる。レジャーシートにうつ伏せになった。
髪をまとめたことで、氷織の背中が露わになっている。白くてとても綺麗だ。胸が大きいから胸の裏側もちょっと見えていて。だから、そそられるものがある。あと、今は水着を着ているけど、海やプール以外で氷織の背中を見るのはお風呂や肌を重ねるときくらいなので結構ドキドキする。
氷織から受け取った小さなボトルから日焼け止めを出す。ほんの少し冷たさを感じる。
「氷織。日焼け止めを塗っていくよ。肩から順番に脚へ塗っていくから」
「はい、お願いします」
氷織は顔だけこちらに向け、笑顔でそう言った。
俺は氷織の肩に日焼け止めを塗り始める。その瞬間、氷織は「んっ」と可愛い声を漏らして、体を少し震わせた。
「大丈夫か?」
「はい。日焼け止めがちょっと冷たかったのでつい」
「ははっ、そうか。可愛いぞ」
俺がそう言うと、氷織は「ふふっ」と声に出して笑った。
肩を塗り終わって背中を塗っていく。前回の海水浴のときにも思ったけど、氷織の肌がツヤツヤしているから日焼け止めが塗りやすいな。
「あぁ……気持ちいいです。前回も思いましたが、日焼け止めを塗られるのって気持ちいいですね」
「それは良かった。俺も前回と同じく、氷織の肌が綺麗だから日焼け止めが塗りやすいなって思ってる」
「嬉しいお言葉です。日々のスキンケアやストレッチ、食生活のおかげでしょうかね。あとは、明斗さんとのスキンシップも綺麗だと思ってもらえる肌を保てている理由の一つだと思っています」
「俺とのスキンシップか」
「はい。明斗さんと正式に付き合い始めてキスするようになってからは、肌の調子がいいときが多くて。キスの先のことをするようになってからは特に」
「そうなんだ。氷織の美肌に一役買っているようで嬉しいよ」
「ふふっ。ありがとうございます」
氷織は顔だけをこちらに向けて、俺に優しい笑顔を向けてくれる。可愛い笑顔だ。
もしかしたら、今、こうして氷織に日焼け止めを塗っていることも、氷織の美肌に繋がっているのかもしれない。
氷織と話しているのもあり、気付けば腰のあたりまで塗り終わっていた。
次は下半身。露出している部分だけだけど、お尻も塗っていく。氷織の胸の感触も大好きだけど、お尻の感触も結構好きだ。
お尻を塗り終わって、まずは手前にある左脚を塗り始める。
「そういえば、氷織の膝から先の部分に日焼け止めを塗るのは初めてだな。この前の海水浴では火村さんが塗っていたから」
「そうでしたね。恭子さんに塗られるのも気持ちいいですが、明斗さんに塗られるのも気持ちいいですよ。まるでマッサージのようです。今日は朝にお昼ご飯作って、電車に乗りましたが1時間半ほどかけてここに来たからでしょうか」
「それはあるかもしれないな。疲れもあるかもしれないし、脚は少し揉みながら日焼け止めを塗ろうか?」
「お願いします」
それからは軽くマッサージをしながら、氷織の両脚に日焼け止めを塗っていく。
気持ちいいのか、氷織は時折「あぁっ」とか「んっ」といった甘い声を漏らしていて。その反応が可愛いのでドキドキした。
「はい、これで背面全部を終わったよ」
「ありがとうございます、明斗さん。気持ち良かったです」
氷織はレジャーシートから起き上がると、俺の方を向いていつもの優しい笑顔でキスをしてくる。日焼け止めを塗ってくれたお礼かな。氷織の口からスポーツドリンクの甘い風味が感じられた。
少しして、氷織の方から唇を離す。すると、氷織はニコッと笑いかけてくれて。そのことにキュンとなった。
「今度は明斗さんの番ですね」
「ああ」
日焼け止めが入っている水色のボトルを氷織に返す。
俺は自分のバッグから日焼け止めのミニボトルを取り出して、
「お願いします」
「分かりました」
氷織に渡して、俺はレジャーシートにうつ伏せの状態になる。ついさっきまで氷織がうつ伏せになっていたので、氷織の甘い残り香が濃く感じられて。レジャーシートも生温かいし。だから結構ドキッとする。
「あぁ、明斗さんの汗の匂い……いいですねぇ」
氷織のそんな甘い声が聞こえた瞬間、背中に生温かい空気の流れを感じて。俺の背中に顔を近づけて、俺の汗の匂いを嗅いでいるのかもしれない。氷織は俺の汗の匂いが大好きだから。
「ははっ、氷織らしいな」
「大好きな匂いですから。……では、明斗さん。肩から塗っていきますね」
「お願いします」
それから程なくして、肩にほんのちょっと冷たいものが触れた。
氷織に日焼け止めを塗ってもらい始める。
最初はちょっと冷たかったけど、氷織の手の温もりもあって、感じるものが冷たさから温かさに変わっていく。氷織の手の温もりも、塗ってくれる手つきも優しいからとても気持ちがいい。
「あぁ、気持ちいいなぁ」
「良かったです。……本当に明斗さんの背中は広くて立派ですね。さすがは男の子です。それは、お泊まりのお風呂で背中を流すときにも思っていますが」
「ははっ、そっか。氷織にそう言ってもらえると、ここまで体が大きくなって良かったって思うよ」
「ふふっ。あと、明斗さんの肌もツヤツヤで塗りやすいですよ」
「そうか。氷織と同じで、氷織とのスキンシップおかげで肌の調子がいいのかもな」
「だとしたら嬉しいですねっ」
弾んだ声でそう言う氷織。
顔だけを後ろの方に振り返ると、氷織はニコニコとした笑顔で日焼け止めを塗っている。可愛いな。
それからも氷織と話しながら日焼け止めを塗ってもらう。
背中、腰……そして左脚を塗り始めたとき、
「明斗さん。脚のマッサージをしますか?」
と問いかけてきた。
「お願いするよ」
「はーい」
氷織は可愛らしく返事をすると、その直後に左脚が優しい力で揉まれる感覚が。
「あぁ……脚気持ちいい」
「良かったです」
「凄く気持ちいいよ。電車やバスで移動したけど、俺もちょっと脚に疲れがあったのかもしれないな」
だからか、とても癒やされる。マッサージしてくれるのが氷織だから、体だけじゃなくて心も癒やされて。
その後、氷織から脚に日焼け止めを塗ってもらって、マッサージしてもらっている間はとても気持ちのいい時間を過ごした。
「はいっ、これで背面全て塗り終わりました」
「ありがとう、氷織。あと、マッサージが気持ち良かったよ」
そうお礼を言って、俺はレジャーシートから起き上がる。その流れで、さっきの氷織のように俺は氷織にキスをした。
少しして、俺から口を離すと、そこには恍惚とした笑顔で俺を見つめる氷織がいた。
「さっき、私がキスしたから、キスされるかもって思っていたんですけど、実際にその通りになってキュンとなりました」
「ははっ、そっか。今の笑顔も可愛いぞ、氷織」
「……今の言葉でまたキュンとなりました」
えへへっ、と氷織は声に出して笑う。その可愛い姿に俺もキュンってなるよ。
その後は、プールデートやみんなで海水浴をしたときの話をしながら、自分で体の前面に日焼け止めを塗っていく。俺の目の前で日焼け止めを塗っていく氷織の姿はとても大人っぽくて、ドキッとするのであった。
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