第13話『お昼ご飯』

 お医者さんごっこをした後は、愛莉ちゃんの希望でアニメを観ることに。

 観ているアニメは『秋目知人帳あきめちじんちょう』。少女漫画が原作のあやかし系アニメだ。マジキュア同様に、録画したBlu-rayを愛莉ちゃんが持ってきてくれていた。

 妖怪がたくさん出てくるので怖くないのだろうか? それを愛莉ちゃんに訊いてみると、あまり怖くないらしい。また、本作のマスコットと言えるまん丸い猫の姿をしたキャラクター・ニャン太郎先生が可愛くて大好きとのこと。

 この作品は御両親が好きで、一緒に観ることが多いのだそうだ。人と妖怪の繋がり、温かい人間ドラマもテーマになっているので、親子で観るのにいいのかもしれない。

 また、愛莉ちゃんの家や親戚の家で、氷織と七海ちゃんと一緒に観たことがあるとのこと。それもあって、マジキュアとこの作品のBlu-rayを持ってきたのだそうだ。

 『秋目知人帳』は俺も好きだ。火村さんと葉月さんも好きで、先日のお泊まり女子会の夜にも観ていた。なので、みんな楽しく観ている。

 これまで氷織、俺、火村さんの脚の上に座っていた愛莉ちゃんは、今は葉月さんの上に座っている。葉月さんの座り心地も結構いいらしい。

 5人で『秋目知人帳』を観ていると、

 ――コンコン。

 と、部屋の扉がノックされる音が聞こえた。


「はーい」


 氷織は返事をして、部屋の扉を開ける。すると、そこには陽子さんの姿が。


「お母さん、どうしました?」

「そろそろお昼ご飯を作ろうと思って。そうめんにしようと思っているの。愛莉ちゃん、どうかな?」

「そうめんだいすきっ!」

「ふふっ、そっか。じゃあ、お昼ご飯はそうめんにしましょう。沙綾ちゃんと恭子ちゃんも食べていってね」

「あたし達もいいッスか?」

「紙透とは違って、沙綾とあたしはさっき来ましたが」

「いいに決まっているわ。2人も愛莉ちゃんと一緒に遊んでくれているし。それに、大勢で食べた方が美味しいでしょう? まあ、親戚や友達から、お中元でそうめんが届いていっぱいあるのもあるけど」


 陽子さんは快活な笑顔でそう言う。

 そういえば、うちもお中元でそうめんがいくつか届いていたな。去年までもそういう年が多かった。季節的にも、そうめんはお中元の定番なのだろう。


「そういうことでしたら、ご厚意に甘えさせていただきます」

「ありがとうございます。あたしもお昼ご飯もいただくッス」

「うんっ。じゃあ、沙綾ちゃんと恭子ちゃんも一緒に食べようね」

「やったー! きょうこちゃんとさあやちゃんもいっしょだー!」


 愛莉ちゃん、とても嬉しそうだ。火村さんと葉月さんが来てから1時間半くらいだけど、おままごとやお医者さんごっこなどをして仲良くなったからな。愛莉ちゃんの反応に火村さんと葉月さんも嬉しそうだ。特に火村さん。


「ふふっ。紙透君だけじゃなくて、恭子ちゃんと沙綾ちゃんのことも気に入っているのね」

「うんっ! みんなだいすき!」

「嬉しいなぁ」

「嬉しいッスね!」

「ええ、すっごく嬉しいわ。あたしも愛莉ちゃんが大好きよ」


 葉月さんはとても明るく、火村さんは感動したような笑顔でそう言う。とても嬉しいのか、火村さんは目が潤んでいるほどだ。また、葉月さんは愛莉ちゃんのことを後ろからぎゅっと抱きしめていた。


「3人とも良かったわね。じゃあ、私はお父さんと一緒にお昼ご飯を作るわ。できたらまた呼ぶからね」

『はーい』


 5人で返事をすると、陽子さんはニコッと笑って部屋の扉を閉めた。

 お昼ご飯はそうめんか。俺もそうめんは好きだし、夏らしい料理だから楽しみだな。この5人と陽子さん、亮さんで一緒に食べるのは初めてだから。

 それからも、俺達は5人で『秋目知人帳』のアニメを観ていく。今観ているのはお気に入りのエピソードなのか、愛莉ちゃんは笑うことが結構あった。

 アニメを観るのを再開してから3、40分ほど。


『お昼ご飯ができたよー。あと、クッションを3つ持ってきてー』


 と、部屋の外から陽子さんのそんな声が聞こえた。お昼ご飯ができたと分かったからか、愛莉ちゃんはニッコリとした笑顔になって。

 俺がクッションを3つ持ち、俺達は氷織の部屋を出て、1階のリビングへと向かう。

 1階のリビングのローテーブルにそうめんや薬味、麺汁などが置かれていた。今はこの家に7人いるから、キッチンの食卓ではなく、リビングで食べることにしたのか。それで、足りない分のクッションを持ってきてほしいと陽子さんが言ったんだな。

 洗面所で手を洗って、俺達はローテーブルの周りに置いてあるクッションに腰を下ろす。

 ちなみに、座っている位置は俺から時計回りに亮さん、葉月さん、火村さん、陽子さん、氷織、愛莉ちゃんだ。愛莉ちゃんは氷織と俺に挟まれる形で座っている。

 そうめんは大きなガラス皿に、一口分の量でいくつも盛りつけられている。

 薬味は錦糸玉子、わかめ、カニカマ、細切りにしたハムやキュウリと色々な種類がある。これなら愛莉ちゃんも楽しめそうだ。


「それじゃ、みんなで食べましょうか! 手を合わせて、いただきます」

『いただきまーす』


 陽子さんの号令で、俺達はお昼ご飯を食べ始める。

 まずは何も薬味を入れず、シンプルにそうめんを食べるか。そう思い、箸でお皿からそうめんを一口分取り、お椀に入っている麺汁につけ、そうめんをすすった。


「……美味しい」


 そうめんと麺汁の味がよく合っていて。今は真夏だからそうめんの冷たさがたまらない。


「そうめん美味しいですね、明斗さん」

「ああ」


 俺が返事すると、氷織はニコッと笑って、そうめんをもう一口食べる。その姿はとても美しくありつつも、可愛らしさがあって。ノースリーブの服を着ているから夏らしさを感じられて。魅力に溢れているなぁと改めて思う。


「愛莉ちゃんはどうですか?」

「おいしい!」


 愛莉ちゃんは満面の笑顔でそう言った。愛莉ちゃんの麺汁のお椀にはハムと錦糸玉子が入っている。この2つが好きなのかな。


「愛莉ちゃんも美味しいと思ってもらえて嬉しいわ。ね? お父さん」

「そうだな。そうめんを茹でたのはおじさんだよ」

「ハムとか玉子とかを用意したのはおばさんよ」

「そうなんだね! おじちゃんとおばちゃん、りょうりじょうずだね!」

「ふふっ、褒め上手ね」

「嬉しいねぇ、母さん」


 愛莉ちゃんにお昼ご飯を褒められて、陽子さんと亮さんは結構嬉しそうだ。

 あと、間柄として「おじちゃん」と「おばちゃん」で間違いないけど、2人とも年齢よりも若く見えるから何だか違和感があるな。特に陽子さん。


「とても美味しいッス! ね、ヒム子」

「ええ! 美味しいからたくさん食べられそうだわ」


 そう言って、葉月さんと火村さんはそうめんを美味しそうに食べている。火村さんは幸せそうにも見えて。


「ふふっ。もし、そうめんがなくなったらまた茹でるからね。いっぱい食べてね」

『はーい』


 と、愛莉ちゃんと高校生4人は返事した。

 俺は麺汁のお椀にキュウリとわかめ、あとはすり下ろしてあるごまを入れ、そうめんを食べる。すり下ろしたごまの風味がとてもいいなぁ。あと、キュウリとわかめの食感がアクセントになっているのもいい。

 その後もカニカマや錦糸玉子など、そうめんを食べる度に入れる薬味を変えていく。そのことで味わいもちょっと変化し、飽きなくそして美味しく食べられている。

 そうめんが好きだと言っていたし、色々な薬味があるからか、愛莉ちゃんも美味しそうに食べている。そんな愛莉ちゃんを見ると癒やされるなぁ。

 また、たまに、愛莉ちゃんの口元に付いた麺汁を、氷織がふきんで拭いてあげていて。柔和な笑顔なので、氷織が優しいお姉さんやお母さんのように見えて。その姿にキュンとなった。


「ねえねえ、あきとくん」

「うん? どうした?」

「あきとくんにそうめんをたべさせてあげる!」


 ニッコリとした笑顔で愛莉ちゃんはそう言ってくれる。何て素敵な提案なのでしょう。氷織達がいる前だけど、


「うん。じゃあ、一口お願いしようかな」

「わかった!」


 張り切った様子でそう言うと、愛莉ちゃんは大皿からそうめんを一口分取って、自分のお椀の麺汁につける。麺汁にはハムとカニカマが入っている。


「はいっ、あきとくん! あ~ん!」

「あーん」


 俺は愛莉ちゃんにそうめんを食べさせてもらう。麺汁がはねて愛莉ちゃんの服に付かないように、そうめんをゆっくりとすすった。麺汁にハムとカニカマが入っているので、それも一緒に口の中に入る。


「……うん。すっごく美味しい。ありがとう、愛莉ちゃん」


 これまでは自分で食べていたから、愛莉ちゃんに食べさせてもらったこのそうめんが一番美味しい。6歳の女の子にそうめんを食べさせてもらえる日が来るとは思わなかったな。


「よかった!」


 愛莉ちゃんは嬉しそうに言ってくれる。それもあってか、口の中に残っているそうめんや麺汁の旨みが増した気がした。

 また、氷織は俺達のやり取りを優しい笑顔で見ていた。


「あきとくん、たべさせてほしいな」

「いいよ、愛莉ちゃん」

「ありがとう!」


 ニコニコ顔で愛莉ちゃんはお礼を言う。もしかして、俺にそうめんを食べさせてほしいのもあって、さっきは俺にそうめんを食べさせてくれたのかな。もしそうなら、可愛いことを考える。


「俺の麺汁でいいかな。ごまが入っているけど」

「うん。ごまはだいじょうぶだよ」

「大丈夫なんだ。偉いね。分かったよ」


 俺は大皿から一口分のそうめんを取り、麺汁につける。


「はい、愛莉ちゃん。あーん」

「あ~んっ!」


 俺は愛莉ちゃんにそうめんを食べさせる。結構勢い良くすするのが可愛らしい。麺汁が口の周りに付いているのも含めて。氷織がたまに愛莉ちゃんの口の周りをふきんで拭いていたのはこのせいだったのか。元気があってもいいけど、もうちょっとゆっくりすすってもいいんじゃないかな。

 笑顔でモグモグしている愛莉ちゃんの口元をふきんでそっと拭く。こうしていると、母性本能をくすぐられるな。


「おいしい!」


 俺に向かって、愛莉ちゃんは笑顔でそう言ってくれた。その可愛い笑顔は氷織に一口食べさせたときの笑顔と重なる部分がある。さすがは従妹だ。


「美味しいか。良かった」

「ありがとう、あきとくん!」

「いえいえ。こちらこそありがとう」


 とても癒やされる時間になったよ。


「羨ましいわ、紙透。愛莉ちゃんと一口交換するなんて」


 火村さんは普段よりも低い声でそう言ってくる。火村さんの方を見ると……火村さんは真顔で俺のことを見ていた。その顔は葉月さんがオレンジジュースを愛莉ちゃんに一口あげたときと同じだ。

 やっぱり、火村さんは俺と愛莉ちゃんが一口交換するところを見て羨ましいと思ったか。ある意味でブレない女の子だ。


「愛莉ちゃん! あたしとも一口交換してくれないかな?」

「いいよ、きょうこちゃん!」

「ありがとう!」


 一瞬にして、火村さんの顔に明るい笑みが浮かんだ。

 その後、愛莉ちゃんは火村さんと葉月さん、氷織の順番でそうめんを一口交換し、4人は美味しそうに食べていた。また、俺は氷織と、陽子さんは亮さんと一口交換して。愛莉ちゃんの行動をきっかけに、とても楽しい昼食の時間になった。

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