第18話『体育祭の種目決め』
5月26日、水曜日。
昨日と今日の授業で、中間試験の答案が続々と返却される。
今のところ、全て90点以上を取っており、現代文や古典、数学Bなど100点満点を取れた教科も複数ある。これも氷織達と一緒に勉強会をして、和男や葉月さん中心に勉強を教えたからだろう。
ちなみに、氷織は返却された試験は全て100点満点であり、苦手な科目のある和男達も赤点なし。この調子で全教科が返却されてほしい。
今日の日程も5時限目まで終わり、残るは6時限目のロングホームルームのみ。授業はもうないので楽だ。
担任の女性教師・
「体育祭の種目決め楽しみだなぁ!」
背後から、和男の楽しげな声が聞こえてきた。
後ろに振り返ってみると……そこにはワクワクとした様子の和男が。体を動かすのが大好きな陸上男子の和男は、去年の体育祭では徒競走系の種目中心にたくさん出場し大活躍していた。きっと、今年もそうなるに違いない。
笠ヶ谷高校の体育祭は赤、青、黄、緑、桃、白の6チームによって熱戦が繰り広げられる。どの学年も6クラスあるので、各学年1クラスずつでチームが構成される。俺達2年2組は青チームで、葉月さんのいる4組は緑チームだ。
「アキ! 今年も二人三脚があったら一緒に出場しようぜ!」
「そうだな」
去年の体育祭では和男と一緒に男子二人三脚に出場し、1位を取ることができた。今年も和男と同じクラスになれたし、二人三脚があったら一緒に立候補しよう。
「今年も和男はたくさん出るつもりなのか?」
「出る種目の数の上限がなくて、他の生徒達の出場枠を奪うことがなければな。走るのが好きだから、走る系の種目中心に出てえな!」
「ははっ、さすがは陸上短距離男子だ」
「おう! アキは何に出るんだ?」
「去年は二人三脚の他に綱引きに出たからな。エンタメな徒競走系の種目がいいなって思ってる。借り物競走とかパン食い競走とか」
「ははっ、そうか。アキはクラスの中でも速い方だから、100m走とかリレー種目とかでも活躍できそうだけどな。ただ、出たい種目に出るのが一番いいよな」
「ああ」
希望する種目に出られたら幸いだ。
ちなみに、昼休みにお昼を食べているとき、氷織とも体育祭の出場種目の話をした。氷織は女子100m走と女子二人三脚を希望しているそうだ。俺と同じく徒競走系の種目に出場したいらしい。100m走は去年も出場しているため。女子二人三脚は火村さんから一緒に出ようと誘われたらしい。……火村さんが羨ましいな。氷織と寄り添った状態で走れるなんて。
あと、氷織は文芸部代表として、葉月さんと一緒に部活動対抗リレーにも出るそうだ。葉月さんと同じチームで走れるのが嬉しいと氷織が言っていた。
気づけば、うちのクラスの体育祭実行委員の
体岡と育村さんが体育祭の種目をどんどん書いていき、『男子二人三脚』も書かれた。その瞬間に和男は俺の肩を強く叩き、ウインクしながらサムズアップした。
――キーンコーンカーンコーン。
「は~い、実行委員の2人以外は自分の席に座りましょうね~」
6時間目の始まりを知らせるチャイムが鳴ったと同時に、高橋先生が教室に入ってきた。歩くとおさげに結んだ黒髪がゆらゆら揺れる。ちなみに、先生は社会科科目担当している。普段はのんびりとした先生だけどしっかり教えてくれる。あと、語尾などを伸ばすのが口癖だ。
みんなが自分の席に座る間に、体岡と育村さんは出場種目を書き終えた。
「朝礼で言った通り、この時間では体育祭の出場種目決めと席替えをしま~す! まずは種目決めをしようと思うので、体岡君と育村さんお願いしま~す」
『はい』
高橋先生は椅子とトートバッグを持って窓側まで移動し、椅子に座った。
高橋先生と入れ替わる形で、体育祭実行委員の体岡と育村さんが教卓の近くに立つ。
「これから体育祭の出場種目を決めます。1人最低2種目は出場する決まりになってる。上限はないぜ。ただし、リレー種目は1人1種目までな」
「みんな、自分の出場したい種目の下に自分の名前を書いてね。それぞれの種目に、出場人数の枠があるから、その枠より多く希望が出たらジャンケンとかで決めましょう」
「じゃあ、まずは出場したい種目に自分の名前を書いてくれ!」
体岡がそう言うと、俺や和男、氷織を含めて3分の2ほどの生徒が席から立ち上がる。何に出場しようか事前に考えていた生徒は結構いたようだ。
「俺が男子二人三脚を書くよ。だから、和男はそれ以外の出場したい種目を書いて」
「おう!」
和男と一緒に黒板に行き、俺はチョークを持つ。
黒板には種目と出場できる生徒の人数が記載されている。男子二人三脚は……あった。出場枠は3組か。まだ誰も書いていない。俺は『紙透&倉木』と書く。
「明斗さん、お昼に話していたように倉木さんと二人三脚に出場するんですね」
そんな氷織の声が左側から聞こえたのでそちらを見ると、すぐ近くに氷織の姿があった。名前を書いていたから全然気づかなかったな。女子二人三脚のところに氷織の字で『火村&青山』と書かれていた。
「今年も二人三脚があるからな。和男からも二人三脚があったら一緒に出場しようって言われたよ」
「ふふっ、そうですか。お互いに希望する種目に出られるといいですね」
「そうだな」
俺がそう言うと、氷織はニコッと笑って『女子100m走』と書かれている方へ行く。
さてと、二人三脚は書いたから、あと1種目は自分の名前を書こう。さっき和男に言ったように、パン食い競走とか借り物競走といった面白い感じの走る種目がいいなと思っている。
パン食い競走は……ゲットしたパンを景品でもらえるから魅力的だなぁ。去年もパン食い競走に出場したクラスメイトが、競技後に美味しそうに食べていたし。
パン食い競走にしようかなと思って、パン食い競走が書かれている方を見ると……結構な人数の名前が書かれている。パンがもらえるって魅力的だもんな。男女それぞれ出場枠は3人ずつ。男子の方は……5人書かれている。この時点でジャンケン勝負になるのは確定。今後も希望人数が増えて、倍率が高くなりそうだ。この種目は避けた方がいいな。
あと、女子の方には火村さんの名前も書かれていた。女子は4人か。火村さん、ジャンケンで出場枠を勝ち取れるように頑張れ。
借り物競走は……男子の枠は3人だが、まだ1人しか書かれていない。借り物競走にしよう。
俺は借り物競走のところに自分の名前を書き、自分の席へ戻った。
「書いた競技がすんなり決まるといいなぁ」
ちなみに、去年の体育祭で出場した二人三脚と綱引きは、出場枠に収まったのですんなりと決まった。もし、ジャンケンの展開になったら、勝ち取れる自信があまりない。二人三脚の場合は和男にジャンケンしてもらおうかな。
出場枠内に収まるのを祈りながら、クラスメイトの出場希望の動向を見守った。
最初は席を立ち上がらなかった生徒も徐々に黒板へ行く。そんな中、和男が自分の席へ戻ってきた。
「和男、おかえり」
「おう! ただいま!」
「俺は二人三脚以外には借り物競走に名前を書いたよ。和男は何に書いた?」
「男子100m走と男子のチーム対抗リレーと大縄に書いたぜ!」
「おおっ、結構書いたな。100mとリレーは和男らしいけど、大縄は意外だ」
「大縄は男女一緒にやるからな! 俺は飛ぶ方でも回す方でも楽しめるし。美羽と一緒に書いた」
「なるほどね」
恋人と一緒に参加できる、というのも一つの基準だな。ちなみに、大縄飛びや綱引きなど男女一緒にチーム対抗で実施する種目もある。
そして、10分ほどで体岡と育村さん以外の生徒が席に座った。
「みんな書いたみたいだな。じゃあ、出場枠と書いている人数を確認していこう」
「出場枠以内の人数だったら決まりだよ。あたしが名前に赤く丸を囲って、出場枠全員が埋まったら競技名の上に丸を書くね」
体岡と育村さんは端から順に、出場枠の人数と書かれている名前の人数を確認していく。
和男が希望した男子100m走は希望枠3人ピッタリ、氷織の希望した女子100m走は出場枠が3人だが、2人しか書いていないので、2人とも決まり。
俺と和男が希望した男子二人三脚は出場枠が3組あるが2組のみ。氷織と火村さんが希望した女子二人三脚は3組ピッタリ書かれているので、これも決まり。決まった瞬間、和男と火村さんは「やった!」と喜んでいた。二人三脚が決まったのも嬉しいけど、氷織は希望した2つの種目が両方叶ったことも嬉しい。
「アキ。体育祭までに何度か、昼休みに一緒に走る練習をしようぜ」
「そうだな」
去年の体育祭で走ったけど、あれ以降は二人三脚で和男と走っていない。感覚を取り戻すためにも練習をした方がいいだろう。氷織と火村さんも一緒に二人三脚に出場するし、4人で練習するのもいいかもしれない。
俺が希望した男子借り物競走は、出場枠3人で書かれている名前も3人ピッタリだったので無事に決まった。2つとも希望が叶って良かったよ。
火村さんが希望した女子パン食い競走は、出場枠以上の人数が希望しているため後でジャンケンで決することに。
また、和男が希望した男子チーム対抗リレーと大縄、清水さんが希望した女子障害物競走と大縄跳びはそれぞれ通った。
全ての種目を確認した後、出場枠に収まりきらなかった種目について、それぞれジャンケンで決めてゆく。火村さんは女子パン食い競走のジャンケンに参加し、
「勝ったわー!」
見事に勝利して、出場選手の一人になった。おめでとう。
ジャンケンに敗れた生徒は、出場枠が空いている種目へ移動する。
「とりあえず、みんな2種目は決まったかな?」
「ああ、そうだな。でも、出場者が決まっていない種目もあるな……」
体岡と育村さんは黒板を見ながらそう話す。
黒板を眺めると、出場枠にまだ余裕のある種目や、全く名前の書かれていない種目がある。ちなみに、書かれていない種目は女子チーム対抗リレーと、混合チーム対抗リレー。
「まずは全く名前のないリレー種目を決めない? 体岡君」
「そうだな、育村。誰か、女子チーム対抗リレーと混合チーム対抗リレーに出たい奴はいないか? 女子チームは女子2人、混合チームは男女1人ずつ」
体岡がそう呼びかけるが……みんな手を挙げない。チーム対抗リレーは体育祭のラストを飾り、配点の高い種目だ。だから、足の速い生徒が出る傾向がある。プレッシャーのかかる種目だから、ここで手を挙げる奴はなかなかいないんじゃないか。それに、リレーを走りたいと思う人は、和男のように事前に名前を書くだろうし。俺もリレー種目は遠慮したい。
「いないか。配点の高い種目だから、足の速い奴にお願いすることになる」
「女子だと……青山さんが速いよね」
育村さんはそう言うと、氷織の方を見る。そのことで、クラスメイトの大半も氷織に視線を向ける。
氷織の走る姿は見たことはないけど、氷織は運動神経がいいと聞いたことがある。足が速いという育村さんの言葉は本当だろう。
「まあ、走るのは好きな方ですから、私で良ければ……」
「ありがとう! 青山さん! 女子と混合どっちに出たい?」
「混合に出るなら、男子は紙透にするか。彼氏がいる方が青山もより頑張れるんじゃないか」
何か、体岡の口から俺の名前が出たんですけど。そのせいで、結構な数のクラスメイトが俺を見てくるんですけど。俺を見る氷織の目が輝いているように見えるんですけど。
「明斗さん、どうですか? 体岡さんの言うように、明斗さんが一緒に出場してくれるなら、私もより頑張れそうな気がします」
そう言い、俺のことをじっと見つめてくる氷織。凄く可愛いんですけど。
「アキ。さっきも言ったけど、アキはクラスの中で足が速い方だ。リレーでも、他のチームと十分に競い合えるだろう。俺はそう信じている」
「和男……」
短距離走を専門にする和男からそう言われると、リレー走者の務めを果たせそうな気がしてきた。俺も氷織がいれば頑張れそうな気がするし。それに、恋人の氷織と同じ競技に出たら、いい思い出になるかもしれない。
「分かった。混合リレーの男子走者として俺が出るよ」
俺がそう言うと、氷織はぱあっと明るい笑顔になる。
「明斗さん……! では、私が女子走者として混合リレーに出ますっ!」
「おおっ、2人ともありがとな!」
「当日はカップルの力を発揮してねっ! じゃあ、混合リレーは紙透君と青山さんに決定!」
育村さんがそう言うと、多くのクラスメイトが俺達に拍手を送ってくれる。
育村さんは混合リレーのところに『紙透、青山』と名前を書いて、混合リレーの上に赤く丸を付けた。男女1人ずつの出場種目のところに、氷織と俺の名前が書いてあるのはいいもんだな。
それからも、女子チーム対抗リレーや余った枠の種目に参加する生徒を決め、体育祭の出場種目決めは無事に終わった。
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