第17話『氷織が作ったお昼ご飯』
リビングにショルダーバッグを置き、俺は氷織と一緒に台所へ。
氷織はさっそくキッチンに立つ。その際、青いエプロンを身につけ、青いヘアゴムを使って髪をポニーテールの形にまとめる。
「おっ、ポニーテールだ。可愛いな。料理をするときはいつもポニーテールにするのか?」
「そうすることが多いですね。あとは、夏の暑い時期にはポニーテールにすることがあります。首元が涼しくなりますから」
「なるほどね」
そういえば、去年の夏……高校の校舎で夏服にポニーテール姿の氷織を見たことがあったな。その姿で告白もされていたっけ。今年も夏の時期になったら、髪をポニーテールに纏めた氷織を学校で見られることに期待しよう。
「あたしもたまにポニーテールにしますよ! お姉ちゃんと同じで、料理をするときや夏の暑い時期に。あと、あたしはバドミントン部なんですけど、練習や試合で気合いを入れるときとかにポニーテールにすることがありますね」
「そうなんだ。あと、七海ちゃんはバドミントン部なんだね」
「はいっ! 今は6月の都大会に向けて練習を頑張ってますっ!」
とても元気良く言う七海ちゃん。大会とかの目標があると、練習にも気合いが入るんだろうな。和男も今はインターハイ出場を目標に練習を頑張っているし。
「氷織。エプロンとポニーテール姿が凄く可愛いから、スマホで写真を撮ってもいいかな?」
「いいですよ」
「ありがとう」
俺はスマホを取り出し、エプロン姿のポニーテール氷織の写真を何枚も撮った。珍しい姿の氷織を写真に収められて嬉しいな。
それからは、俺は食卓に座り、味噌ラーメンを作る氷織の姿を見ることに。手際がとてもいい。それもあって、料理をする姿が様になっている。
また、七海ちゃんは俺に冷たい麦茶を出してくれ、俺の隣の椅子に座る。
七海ちゃんから俺自身のことや、付き合い始めてからのことなどを色々と訊かれた。氷織の好きなところを話すときは照れくさかったな。
七海ちゃんと話したのもあって、味噌ラーメンが完成するまではあっという間だった。
「お待たせしました。味噌ラーメンです」
「おおっ、美味しそうだ」
俺の目の前に、氷織特製の味噌ラーメンが置かれる。中太麺の上に、もやしやにんじん、豚肉などを炒めた具が乗っている。美味しそうな匂いがして、食欲がそそられる。
俺の隣には氷織。向かい合いには亮さんと陽子さん。俺の斜め前には七海ちゃんが座る。
「明斗さん、今日は来てくださってありがとうございます。お口に合えば何よりです。いただきます」
『いただきます』
俺のために作ったのもあってか、氷織はラーメンを口にせず、俺のことをじっと見ている。
まずはスープを一口。……うん、味噌の味が濃厚で美味しい。
箸で麺と具をバランス良く取って、口の中に入れた。
「……うん。とても美味しい。麺の固さもちょうどいいし、上に乗っている具も味噌のスープと合っていて。美味しいよ、氷織」
俺がそう言うと、氷織はほっと胸を撫で下ろして、口角を少し上げる。
「そう言ってもらえて良かったです」
「良かったね、お姉ちゃん!」
「ええ。明斗さんに何か作るのは初めてではありませんが、緊張していました。私もいただきましょう」
氷織は味噌ラーメンを一口食べる。満足な出来なのか、氷織は「うんっ」と呟きながら頷いていた。
それからは休日のお昼のことや、ラーメンなどの麺類は好きかなどの話をしながら食べていく。そんな中、七海ちゃんから、
「紙透さん。お姉ちゃんから、手作りの玉子焼きを食べさせてもらったんですよね? 食べさせてもらう光景がどんな感じなのか見てみたいです!」
という要望を受けた。
氷織の御両親の前だから恥ずかしい気持ちもある。でも、氷織に食べさせてほしい気持ちが勝った。
「お願いしようかな、氷織」
「分かりました。……では、あーん」
「あーん」
氷織に味噌ラーメンを一口食べさせてもらう。その一口はとても味わい深くて美味しい。
「いいですね! キュンときました!」
七海ちゃんは大喜び。陽子さんは「いいわね~」と優しい笑みを見せながら、亮さんは無言だけど微笑みながら俺達を見ている。
「じゃあ、お礼に明斗さんから食べさせてもらったらどうかな? お姉ちゃん」
と、ニヤニヤしながら提案する七海ちゃん。そういえば、氷織に何か食べさせたことはなかったな。
氷織は頬をほんのり紅潮させ、
「……明斗さんに食べさせてもらうと、どんな感じか気になりますね」
俺をチラチラと見ながらそう言ってきた。
「分かった。じゃあ、一口食べさせてあげるよ」
俺がそう応対すると、七海ちゃんは「おおっ」と興奮した様子に。
箸で麺を一口分取って、「ふーっ」と何度か息を掛ける。その麺を氷織の口元まで持っていく。
「氷織。あーん」
「あ、あーん」
氷織のご家族が見守る中、麺を食べさせた。
氷織は麺を何度も咀嚼して、ゴクリと飲み込んだ。すると、氷織は口角を少し上げて、
「美味しいです。自分で食べるよりもずっと」
と、俺の目を見ながら言ってくれた。
俺達のやり取りが良かったのか、七海ちゃんと陽子さんはとても満足げ。亮さんも穏やかな笑みを浮かべていた。そんなご家族の反応に一安心である。
それからも、俺のバイトのことや萩窪のことを話しながら、平和な昼食の時間を過ごした。
「ごちそうさまでした。凄く美味しかったよ。ありがとう、氷織」
「完食してくれて嬉しいです。こちらこそ、ありがとうございました」
美味しかったので、氷織の味噌ラーメンは難なく完食できた。もう一杯同じ量の味噌ラーメンが出てきても完食できそうな気がする。
「片付けは父さんがやっておくから、氷織は紙透君とゆっくりと過ごしなさい」
「分かりました。ありがとうございます、お父さん。では、私の部屋に行きましょうか」
「分かった」
「紙透君、ごゆっくり~」
「はい。俺は氷織と一緒に部屋にいます。みなさんと食事できて楽しかったです。ありがとうございました」
俺はリビングにあるバッグを持ち、氷織と七海ちゃんと一緒に2階へ向かう。
外観を見たときに思った通り、俺の家よりも広いな。
「ここが私の部屋です」
扉には『Hiori’s Room』と描かれた、青くて四角いネームプレートが取り付けられている。クールな感じで氷織らしい。
この扉の向こうが氷織の部屋なのか。ドキドキしてきたな。一昨日、氷織が俺の部屋に入るときもこういう感じだったのかな。
「ちなみに、隣があたしの部屋ですよ」
「そうなんだ」
七海ちゃんが指さす先にある扉には、『ななみ』と描かれた水色の丸いネームプレートが取り付けられている。七海ちゃんらしい可愛い雰囲気だ。
「あたし、これから部活があるので、準備して行ってきますね」
「分かりました。いってらっしゃい、七海」
「練習頑張ってね。怪我をしないように気をつけて」
「ありがとうございます! お姉ちゃんと楽しい時間を過ごしてくださいね、紙透さん! では!」
俺に向かって軽く頭を下げ、七海ちゃんは自分の部屋に入っていった。本当に七海ちゃんは元気いっぱいだなぁ。
6月にバドミントンの都大会がある。七海ちゃんには無理をせず、怪我をせずに頑張ってほしいものだ。
「お昼を作っているときとか、七海が色々と訊いてすみません。明斗さんに会えるのを凄く楽しみにしていたので」
「全然気にしていないよ。むしろ楽しかったくらいだ」
「それなら良かったです。では、入りましょうか」
氷織の部屋はどんな感じだろう。シンプルな感じの部屋なのか。それとも、結構可愛らしい雰囲気の部屋なのか。色々と想像してしまう。どんな感じでも、素敵な部屋であることは確かだろう。
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