24

少し緊迫の雰囲気を漂わしているこの部屋。

源三がお茶を全て飲み干すと

「以前よりはマシになったな」

「ありがとうございます」

と2人は落ち着いて話した。

で、問題はここからであった。

「向こうではどうだったか?」

来た。

九十九は此処からが真剣勝負だった。

「まぁいろいろあって」

「そこじゃない。相手が見つかったかだ!」

「あー、そ、それは・・・」

「またか?」

源三はずばりと言った。

九十九は反論できず冷や汗を流し、どう言おうか言葉を練るのに必死だった。

「お、お前という奴は!」

源三は後ろに飾ってある刀を取り、それを抜き九十九に向けた。

「な、なんですか!いきなり!!」

「お前のその情けない根性を叩き直してやる!」

源三はそれを九十九に振り下げた。

「うわぁああ!」

九十九は大急ぎでその場を出た。

「待たんか!九十九!」

「待てないです!!」

「往生際悪いぞ!」

「だってその手に持っている物刀じゃないですか!!僕を殺す気に決まっている!!」

「後で何があるか知っている上でどうして何も出来ないんだ!お前はぁ!」

九十九は全力疾走で庭を走った。

後ろからは刀を持って襲い掛かろうとしている源三だ。

心の中で捕まったら今度こそ殺される!!というのがわかっていた。

九十九は走る、力ある限り。

その時、向こうから使用人の美代子と綱方が何かを持ってやって来た。

「な、何やってんだ!お前!」

「とりあえず今は助けてぇえええ!!」

九十九は綱方に向かって走った。

だが、

「助太刀無用!これはわしと馬鹿息子の問題だ!」

と言われ九十九を助けようと思ったが・・・

「九十九、頑張れよ」

「綱の馬鹿ぁあああ!」

九十九は半泣きしながら綱方と美代子の横を通り過ぎた。

勿論、刀を持っている源三も後を追う。

それを見て綱方は困ったように笑った。

あれからの事だが、綱方は九十九と共に渓河家へ行くと大いに歓迎されあっさりと居候になれた。

九十九も綱方に慣れて、さっきのように今は『綱』と呼んでいる。

今は、何不自由なくのんびりと過ごせさせてもらっいる。

九十九はというとあの通り。

事情を使用人の美代子から聞くと綱方は気の毒な奴だなとしか言えなかった。

今まで23年間女性と縁がないなんてこれ程痛い事はない。

ましてや跡継ぎともなれば。

さらに、驚いた事に綱方は九十九と3つ下の20歳だったという事だ。

九十九は、自分とあまり変わらない年かと思っていたが3歳の差は大きい。

最初聞いた時、九十九は衝撃を隠せなかった。

綱方本人は九十九のその性格だから年なんて気にする必要はないと言ったが、九十九は聞く耳持たず暫くその事について落ち込んでいた。

あんな事件があったはずなのに。

いろいろな事があったが、今はこうやっていられる。

いつもと変わらない日常。

だが、少し渓河家でも小さな異変はあった・・・九十九宛に探偵の依頼が数通毎日来くようになったのだ。

少しだけだが、九十九の評判が知れ渡ったらしい。

九十九曰く、犯人は斉藤さんだと言っていた。

多分、自慢話且つ、渓河家の宣伝のつもりだろうが正直九十九は斉藤に恐れを感じた。

なので本人は丁重にお断りしている。

中には酷い依頼もあるのだという。

様々な事を考えて行く内に九十九がゆっくりと歩いてきた。

「あ、源三さんはどうしたんだ?九十九」

「疲れたとか言って倒れこんでいるよ」

「少しは親を気遣ってやれよ」

「あのね、そんな事言われたってあの状況でどう気遣えっていうのさ。殺されかけ間際に」

「いや、その事じゃなくて。少しはお前もお相手さん見つけろって言いたいだけだ」

「あ、その事なんだけど今度お見合いする事になったんだ。今度こそ何とかしなくちゃ僕の気も持たないよ」

「まぁ精々頑張れ」

「何、その言い草」

九十九は嫌な顔をして言った。

「もしだけどそこでまた変な事件が起きたらお前、どうするつもりだ?」

綱方は試しに聞いてみた。

「その時はその時だよ。僕の好奇心が沸けばの話だけど」

九十九は笑って言った。

これから先、2人は様々な人と出逢い心の旅をする。

2人の旅はまだ始まったばかりだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

明治放浪行人~海に浮かぶ三日月の怪~ 時遡 セツナ(トキサカ セツナ) @otukimipanda

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ