22

九十九は樋川を見つめた。

樋川本人は俯いたままである。

そして、深く息を吐いた。

「参ったよ、単なるお遊びではない程正確で事実に近い。大体君の言うとおりだよ。時間がなかった」

「どうしてこんな事」

「どうやらね、私は宗弥君の次の被害者になる予定だったらしいんだ」

樋川は落ち着いた口調で話した。

要約するとこうである。

樋川は昼間鈴谷に話があると、呼ばれたのだという。

言われた時刻通りにやってくると最初は普通の会話だったが、いきなり銃を鈴谷に突きつけられた。

理由は、計画に沿った犯行をする為と樋川の財産を何やら口実をつけ財産を手に入れ利益を得ようという何とも甚だしい悪巧みを目論んでいたのだという。

そして、銃で今殺されるという所で反射的に銃を持っている腕を押さえ鈴谷の手から銃を取り上げようと争ったというのだ。

多分、その時にライターが消えたのじゃないかと本人は言う。

そして、最後は誤って・・・自分は人を殺害した。

というのが流れである。

一通り話に区切りが着くと全員が肩の力を抜き息を吐いた。

「・・・そうでしたか。これは不運の事故と述べたらいいのか、どう言うべきか」

斉藤はポケットからハンカチを取り出すと、吹き出ていた汗を拭い、話に耳を傾けようと頑張っていた。

「あの・・・、この後どうなさるつもりですか。樋川さん」

「そうだな、あの手この手を使えば隠蔽する事も可能だ。宗弥と鈴谷は行方不明となった等と警察に話し、他の今此処に居る者達には裏で口封じをしてやれば」

「そうですか」

九十九は微笑し、内心何度も申し訳ないと呟いていた。

「だが、そうすればそれを後弱みとして握り私を揺さぶってくる事もありえる。・・・ここは、貴族として潔くするべきかもしれないな。我が家も少し廃れかけていたのだ。最終的家を守る方法といえば、私が家と縁を切り、家族の者には悪いが、新しい時代を何とか生き延びてくれと話すか他にはないな」

「すみません・・・、余計な事をしました」

九十九は樋川に頭を下げた。

「あぁ、本当だな。余計な事をしてくれたものだ」

樋川は威張るように言った。

「君は、それで良いかもしれない。警察に成り代わり事件の真相を突き止めたとして家の評判を上げられるのだ。これ程のいい事などない。だが、それでいつか恨みや復讐を買うことになるぞ?」

「・・・恨みですか」

「人は怖いものだからね。それで亡くなった家族や犯人の家族やそれは大勢と。君はそれを承知の上でやってたのか?」

「わかりません、ただ僕は知りたいものを追っていただけで恨みとか復讐など全く。でも、・・・それで関係ない人が犠牲になるのが見たくなかったので」

九十九の言葉が段々と小さくなっていった。

今まで黙って話を聞いていた綱方はやっと寄り添っていた壁から離れ、九十九の肩をそっと持った。

「泣くなよ」

「泣いてはないよ、ただ・・・自分のやった事が正しいのか悪い事なのかわからなくなって怖い事いろいろと考えてしまっていただけ」

九十九は嘔吐を繰り返し、誰にも泣き顔を見せない為前髪で目を隠すように俯き、歯を出来る限り縛っていた。

「もう時期、海も治まっている頃だ。明日の早朝にでも警察が来るだろうな」

樋川がぼそっと呟いた。

「渓河君」

樋川が立ち上がると九十九を呼んだ。

「何でしょうか?」

「明日私の代わりにこの二日間の出来事を証言してくれないか?私は何も言いたくないのだ」

「わかりました・・・」

「これから先も探偵ごっこをやるつもりかい?」

樋川のその質問に九十九は黙って何も答えなかった。

「才能があると私は思うがね」

「樋川さん、斉藤さんと同じ事を仰ってますよ」

九十九がそう言うと、樋川は面白そうに鼻で笑った。

「そうか、・・・斉藤」

「何ですか?」

「私にもしもの事があれば、私の家族の保護を頼みたいのだが」

「それはご心配なく。私が何方かお忘れですか?・・・私は財界の上に最高頂に立っている者ですよ?慈悲の心を持って引き受けましょう」

「それを聞いて安心した。・・・今更だがいつ見てもお前は10代・20代と変わらないなぁ」

「ちゃんと若作りは昔からしてましたから」

「この財界の最高の謎だな。お前の実年齢は。何としても知りたかったが・・・見ると教える気がなさそうだな」

「当たり前です。知る必要もないですよ、余計な気遣いです。」

「意外と私よりも上か?」

「いえ、確実に貴方よりは下です。多くの方々が意外と自分よりも上か?と聞かれますが、断じて50・60代でない事を言っておきます」

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