20
「ってオイ、そんなに乱暴に使うな!鞘だって傷つきやすいんだぞ!」
「そんなの後で漆塗るなりなんかして修正すればいいじゃないか」
九十九は綱方の言葉を全く耳に入れる気などなかった。
鞘で奥を掻き回すとあの四角い物がベッドの下から出てきた。
「誰かのライター・・・?」
九十九は綱方に鞘を返すとライターを手に取って言った。
「名前とかないのか?」
「どうだろう?」
九十九はそう言ってライターを様々な角度から見た。
すると、ライターの底の面に『T・H』とあった。
「T・・・、H?」
「なんかあったのか?」
「あったけど・・・、これ・・・」
綱方には何の意味かはわからなかっただろうが、九十九はそれを見てある人物を想像したのだった。
これは一度だけだが、見覚えのある物だったからだ。
どういう事だ?
それが九十九が最もその人物に問いたかった事だった。
九十九が全てを理解した上での。
「なんだい、私を呼んで」
九十九が寝泊りしている部屋に樋川長流が入るとそう言った。
「いえ、ちょっと改めて聞きたいことがありまして」
九十九が言った。
傍には綱方もいる。
丁度その時、斉藤がやって来た。
「九十九さん、こんな時間までどちらに」
「御迷惑お掛けしました」
九十九は斉藤にお辞儀する。
どうやら自分が外でモノ探ししている間、斉藤も「さっきの話は気にしないで」と言いたく探していたらしい。
すると、樋川は気晴らしに煙草を口に入れマッチを取り出し火をつけようとした。
「樋川さん・・・、ご自分のライターは?」
「ん?あ、アレはどこかに失くしてしまってね。今は何処へやら」
「火なら僕が持っているのでつけてあげますよ」
それを聞くと九十九は胸ポケットからライターを出し、樋川の煙草に火をつけてやった。
樋川はライターを見ると目を見開いた。
「これ貴方のですよね?樋川さん」
「そ、それを何処で!」
「鈴谷さんが寝泊りしていた部屋です。ベッドの下にありました」
「昨日か又は今日鈴谷さんの部屋に行かれましたか?」
「まぁ、今日昼頃に・・・」
「どう言ったご用件で?」
「それをなぜ一々話さなくちゃならん!探偵ごっこもいい加減にしろとあれほど昨日君に言ったろう!」
「えぇ、そうですね。でも、何かに気付いたから樋川さんに尋ねているんです」
九十九の話はまだ続く。
もうパズルはあと少しで仕上がるといった形になっているのだが、残りの数ピースを何処に填めるかで迷っているいうような状況だ。
「ただ、呼ばれただけだ」
「呼ばれた・・・」
「入ったらもう鈴谷君は息を引き取っていた」
「でも、僕は右のお隣のにいらっしゃる方に聞いた話では最初に鈴谷さんの遺体を見つけ、大勢の方が集まったと聞きましたがその集まっていた時に来たという事ですか?」
「そうだな」
「ある方々から聞いたのですが、鈴谷さんは『いつの間にかいた』という風に聞きました。どこら辺にいたんですか?」
九十九は樋川に近づく。
「この部屋は鈴谷さんの部屋と間取りは同じです。少しだけあの時どこに居たか教えてくれませんか?」
九十九が言うと、樋川は顰めた顔をしたが嫌な感じで歩きドア付近に立った。
「そこは扉に近いですね」
「だから何なんだ」
「本当は最初に見つけたのではなく、その扉の後ろに隠れて潜んでいた可能性もあると思いまして」
そう言うと九十九は扉に近づいた。
「この扉を大きく開くと壁との間に隙間が出来ます。この隙間は僕でも入れるので多分樋川さんでも大丈夫なはずです。それに下はほんの少ししかないので靴は見えないです。大勢の人が此処に来た時に扉から離れ人混みに紛れ込んだんじゃないですか?・・・もしそうだとしたら貴方は鈴谷さんの殺される前からいたという事になります。そして、このライターがこの部屋にあったと裏付けられるのですが」
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