19

だが、その前にいなくなった九十九に会おうと思うとその部屋の前から去った。

丁度良くその後に九十九が出てきた。

もう綱方はいなくなっていた。

九十九本人もほんの少し前までそこに綱方がいたなどと知る由もない。

九十九は今日今まで入らなかったこの部屋に入ることにした。

やはり気になることは自分の気が済むまで知ろうとする九十九の好奇心と性格が此処まで煽っていた。

鍵は開いていた。

ドアノブを捻り、部屋を開けた。

ドアの分だけの光が部屋に入り、開けた途端血の臭いが臭った。

九十九は眉間に皴を寄せながらも部屋に入り、何処かにあるだろうランプか電気の電源を探した。

暗いにも関わらず手で壁を弄り、何か違和感のある物を見つけるとそれを押した。

カチッという音が鳴ると次第に明かりが灯り、電気が付いた。

開いている窓にこの部屋用の布団なのかそれをかぶせられた鈴谷の遺体。

前見た鈴谷の様を思い浮かぶとゾクッと寒気がした。

本当は見たくはないのだ。

しかし、それに対しての好奇心が沸き立ちその場から去ろうとは考えられなかった。

開いている窓にロープを付け上にある電気ランプに回し、その先で輪を作り、そして首を吊るしたのが九十九の推測である。

で、最後の自分の止めとして口に銃を向けた。

自殺と考えていくとこうなる。

近くには椅子が置いてあるが、倒れず立っている。

少し不自然な感じがした。

そして、他の所を見る事にした。

鈴谷の遺体の近くにはベッドがあった。

反対には様々な物が置かれている飾り棚にドアの近くには小さいテーブルがあった。

まず飾り棚を開けてみた。

洋風の人形や皿、造花で飾られた花瓶等があり大して手掛かりといった物はなかった。

次は机に向かった。

紙と羽ペンがあった。

九十九は紙をじっと見つめた。

うっすら前に書かれたであろう言葉が跡として残っていた。

少し斜めにして見ると第一文が一度は見覚えのある言葉だった。


『―怪は始まる、朔までに。』


これはあの舞踏館で鈴谷が落書きに書いた言葉だった。

どうやら予め仕組もうとしていたようだ。

今はもうあの様だが・・・

九十九は次にベッドを見た。

掛け布団のないベッドはなぜか素っ気ない感じだった。

試しに枕とかに触れてみる。

羽毛が入っていている枕でやわらかった。

枕を持ち上げると流石に枕の下に何かがあったというのはなかった。

最後にベッドの下を覗いた。

すると、下に四角い何かが見えた。九十九は手を伸ばそうとベッドの下に手を入れてみたが丁度真ん中のところにあるのか全く届かなかった。

だが、それでも負けじと腕を伸ばし四角い物を取ろうとすると部屋から誰かが入って来た。

そいつは九十九を見つけると九十九に近づいた。

本人は取るのに夢中で誰が入ってきたかは気付いていない。

手が九十九へ伸びる。

そして、肩をとんと叩いた。

「う、うわああぁあ!!!!」

九十九はいきなり肩を叩かれた事に驚き、思いっきりベッドの角に頭をぶつけた。

九十九は言葉では表せられないような声でベッドの下に蹲った。

「あ、・・・わ、悪い。そんなに驚くとは思ってなかったから」

その声を聞き、九十九は上を見た。

後ろにいたのは綱方だった。

「いった~。もう声ぐらい掛けてよ!」

九十九は綱方に言った。

「だから悪かったって」

綱方がそう言うと、九十九は綱方の腰の刀が視線に入った。

「ねぇちょっといい?」

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