16

「本心とかじゃなかったら何さ?へまをする奴が悪い。僕はそう思っているよ。」

綱方は九十九という人物像に少し困惑した。

気優しく純粋なところなど幼子染みた所が第一印象だ。

外見からでもそういう所が伺える。

髪質で日に当たると脱色するのだろうかと思われる、断髪し短くした癖の入った茶色い髪。

日本人特有の黒い目。

身長は精々五尺二寸程度。

(※一尺=30.3cm、一寸=3.3cm、五尺二寸=158.1cm)

それに加えて童顔。

だが、奥底は深く考慮深い人柄だ。

ものの言い方も人によっては大きく変える。

綱方は商(アキナ)い関係の人とはこれまで付き合ったことがなかった。

下々の者でも遊郭の女程度だ。

だから九十九のような二面性のある人との対応が今一掴めないでいた。

確かに女も二面性のあるものだが女は軽いものだ。

甘やかすか誘惑すれば簡単だ。

ああ見えて女は優しくすると猫の様にごろごろと懐いてくる。

どんな女でもわかりやすいものだ。

男でもそう誰でも思っていることだろう。

「で、何処行くつもりなんだ?」

「宗弥さんがいたところ。時計裏にね。」

「何でまた。」

「・・・気になることがあるんだ。確かめにね。」

時計裏は昨日のままだった。

血で汚れた時計の歯車、血で染みこんだ床、そしてあまりにも酷く無惨になった宗弥さんが一枚の布で被せられた姿があった。

九十九はゆっくりと布を捲り上げた。




・・・気持ち悪い




心の中でそう言った。

惨い。

眉間にも一撃があった。

「何を見ているんだ」

綱方は九十九の行動に問いかけた。

九十九は宗弥の服を脱がし始め傷をまじまじと見ていたからだ。

「凶器がどんなのだったか考えていただけだよ。」

九十九は綱方に見向きもせず傷を見つめている。

恐る恐る傷口に触れた。

どの傷も人差し指の爪から第二関節ぐらいまでの大きさばかりだった。

綱方の持っているような刀じゃない。

刃のようなものだが、縦の幅が長い。

「包丁とかじゃない。ナイフ?」

ぶつぶつと言った。

綱方はこいつは自分の世界に入った、と確信して深いため息をついた。

ナイフでも例の大きさの代物などみたことがなかった。

では、凶器はどんなものなんだろうか。

ちらっと服を見た。

凶器で破れた所だけ何か褐色のような色の汚れがついていた。

しかも小さいが褐色をした何かの破片がついていた。

九十九は、それを掬い取るとポケットからハンカチを取り出しそれに乗せて観察してみた。

「今度はなんなんだ、それは」

綱方も流石に棒立ちが嫌になり九十九に近づきしゃがみ込むとハンカチの上に乗っている破片を見た。

「何だ?鉄か何か錆びた物の破片か?」

「わからない。・・・でも、凶器の手掛かりにはなるよ。凶器は少し錆びた『何か』というコトがわかった」




ある部屋へ足が入って行った。

黒い革靴だ。

中に入るともう一人がいた。

「お待ちしておりました」

待っていた声の主が言った。

「一体呼び出して何を考えているんだ」

「そちらが思っているほどの話では御座いません。すぐに済みます」

すると懐から銃が出てきた。

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