15
「・・・と言われても私には実感が沸いて来ないですよ。九十九さん」
斉藤が少し白髪混じりの整った髪を掻き上げ、不安感を感じさせる顔をした。
「そんな、僕の方がもっと実感ないですよ。何せこんなに頭を使う事をしたのですから。・・・あ、そう言えば斉藤さん。警察の方へご連絡しましたか?」
九十九が言うと、斉藤は窓を見た。
空は晴れているが昨晩の暴雨から続く強い風で
波が高く海が荒れていた。
「一応、連絡はしましたがここは千葉から離れた孤島です。向こうは波が収まらない限りここには来られないそうです」
「そうですか、後は警察に任せようと思ったのですが」
九十九はそう言うと、脱力し肩を落とした。
「・・・いえ、後もうひとつ手立てはあります」
「え?」
九十九は、何だろうと頭を回転させた。
しかし、斉藤からは意外な言葉が響いた。
「九十九さん、貴方が推理し解決なさって頂けませんか?」
「・・・え?」
斉藤の言葉が九十九の中で繰り返すように連呼した。
「私から見て九十九さんは文武よりもこういった推理に向いているように見えるのですが」
「そ、そんな、まさか」
九十九は、驚き目を見開いて言った。
「自分では気付かないものですよ。つい先程からそう思っていました。実際それで綱方君の疑惑を解いたのですから。十分、才能がありますよ」
「いや、そんな斉藤さん。僕はただ思っている事を言ったまででそれが推理だとか何だとか言われても」
「少しご自分に自身をお持ちになってください。九十九さんは少し肝心な所でそこが欠けています」
斉藤が微笑んで言った。
しかし、九十九は自身を持とうにも持つ気になれなかった。
自分は警察でも探偵でもないのに推理の才があるなんて言われてもあまり嬉しくない気持ちがあったのだ。
寧ろ、それがお世辞のように聞こえて仕方なかった。
「け、警察を大人しく待ったほうが賢明では?」
「まだ・・・屋敷(ここ)には宗弥さんを殺めた殺人者がいるのです。ほうっておいては次何してくるかわかりません。犯人の狙いがわからないで警察を待っているよりも何かをし、未然に防ぐ事を考えるのがもう一つの賢明な考え方ではないですか?」
「で、・・・ですが」
「九十九さん、貴方は自身がないんです。何事にも。ですから、自身を持ってください。実際貴方は自分の力で綱方くんの疑惑を解き、真相に近い推測をつい先程なさったじゃありませんか。貴方なら出来ます。私も出来る限り協力しますから」
斉藤は九十九の手を握り、九十九の目を見つめた。
「でも、む、無理ですよ。斉藤さん!僕は素人なんですよ!」
「九十九さん!」
九十九は、斉藤には失礼だが強い眼差しを合わせたくなかった。
少しこの場から離れようと考えた。
「あ、そうだ。・・・綱方君?」
九十九は、話を切り替えようと綱方に声を掛けた。
綱方は声を掛けてくるとは思っても見なかったのか、ビクッと少し身が跳ねた。
「な・・・、何だ。」
「いや、そのさっきはゴメンね。変に話に入っちゃって。」
「・・・別にいい。止めてくれなかったら何してたかわからない。」
綱方が言うと、下へ俯き前髪で目を隠した。
「悪いけど今から、時計裏に一緒に来てくれない?」
「またどうして。」
「いいから。ちょっと気になる事があるんだ。」
九十九がそう言うと、
「斉藤さん、僕・・・少し考えてきます。」
と小声で斉藤に言い残すと綱方と共に斉藤を残して部屋を出た。
「あんな言い方していいのか?」
廊下を歩いているとき、綱方が小声でぼそっと言った。
九十九は、深くため息をついて肩を落とした。
「才能があるとかどうとか言われても僕としてあんまり嬉しくないよ。どうせ褒められると言うか認められるのなら財業で褒められる方が嬉しい。」
「そういう所は財界の人間だな。」
「普通だよ、この世界はどれほど商売術・話術があるかで勝ち負けが決まり利益を得る。まぁ、得しか僕たちは考えていないからね。他の人の事なんてどうでもいい。モノを売るも家族を売るも死ぬのも。」
「・・・それは本心で思っていることか?」
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