13
「何だ!その目は!」
流石に男はその目に反論した。
「何だ?この目がそんなに怖いか?」
一段低い声が聞こえた。
「士族、士族と煩い。クズ共が。お前ら財閥等と抜かしているが本来幕末まではただの平民だったんだろうが。それがこんな腐った新時代になってどうだ?富と権力に走り最終的に楽になったのは卑怯な奴等だけじゃないか!」
「綱方くん!」
慌てて斉藤が止めに入ろうとした。
「自分達の考えだけが正当だと思い込みやがって・・・!」
「何だと!?」
綱方の発言が火に油を注いだ。
多くの人達が口々に反論し始めた。
「てめぇ、いい加減にしないと容赦しないぞ!」
「煩い!俺はやっていない!やってないんだ!!」
綱方がそう言うと、刀の鞘から刀を抜いた。
すると、女性達やこんな事を予想してなかった者達は後ずさりして悲鳴を上げた。
「綱方君!刀を収めなさい!誰かを斬れば明治(今)は幕末とは違い罪が重くなるんだ!時には死罪にされる時だってあるんだ!早く!!」
斉藤は必死の説得を試みた。
しかし、
「・・・御迷惑申し訳ありません。」
綱方がそう言うと刀を構え、向こうの集団に刃を向けた。
「おい!俺に疑いを持つ奴、文句があるなら掛かって来い!」
綱方がそう叫ぶと奥の扉から九十九が入って来た。
視界から刀を抜いた綱方に身を引こうとする人達の光景が入って来た。
「・・・何がどうなっているんですか?」
九十九は少し目が赤くなっていた。
その名残なのか目を擦り、目の前の光景を見て不思議そうに言った。
「どうもこうもコイツ、俺達を皆殺しする気なんだ!」
ある男が言った。
「え!?」
九十九は、目を見開いて綱方を見た。
さっき同情などと言っていた人物がなぜこうような行動をとっているのか、余計頭がおかしくなりそうだった。
「・・・戯言はもう終わったか?」
綱方は言う。
斉藤は止めに行こうにも刀のような凶器を持たれては遠くから説得するしか何も出来なかった。
完全に目の色が違っていた。
鋭く逃がしはしないと訴えている目だった。
「・・・殺れば君は本当に疑われてるよ」
「だから何だ」
「刀を引いてくれ」
「こいつ等、・・・士族を侮辱し自分達が偉い者だと言い張る名上がり者でもか!?」
「・・・それじゃ、僕もその一人だよ?」
九十九が穏やかな口調で淡々と述べた。
「僕の家は元は両替屋だったけど、この明治になってやっと家が繁栄したんだ。制度が丁度良く働いてくれてね。家が財閥としてなれたのもそのお陰。つまり、・・・僕も君から言わせれば名上がり者と何も変わらない。君が同情してくれた僕は君の気に入らない名上がり者なんだよ。」
九十九の発言に綱方は目を見開いた。
意外だった、という風に思ったのがよくわかった。
そして、九十九は綱方に近づいた。
近づいて気付いたことだが、綱方は九十九よりも10センチ高い青年だった。
思わず、下から見上げる形になってしまった。
「君は、何もしてないよ。誰も殺していない。だって君の後に僕が現場へ行ったけど、君は頭から血を出して倒れていた。君が犯人ならその凶器、刀に血がちゃんとついているはずだよ」
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