12
自分がここに来た理由も同じように来た人達に対する批判もそして、あの禍々しい光景で感じた悪寒と恐怖、鳥肌を立たせるような奇怪さの感想まで隅々言い切った。
そして、後ろを振り向くと腕を組み立っている綱方がいた。
「・・・誠実な奴だな、お前は」
綱方はそう一言の感想を言った。
「他人の死を目の当たりにしたことがそんなに怖いか?」
「え?」
九十九は、綱方の言葉が不理解だった。
「お前はオレとあまり年齢の差がないと思うが、そんあオレでも今まで何人もの他人が死んでいく様をこの目で嫌と言いたくなるほど見てきたぞ。まだお前は程度が低すぎる」
「見てきた・・・?殺したことあるの!?」
九十九は視線を綱方の腰につけている刀に送った。
「お前、形見を血で汚す馬鹿がいるか」
「それ、形見なの?」
「死んだ親父のな。幕末志士で、幕末動乱の戦いの中に巻き込まれ死んだ・・・。ちゃんとこの目で親父の死に様を見た」
「君も戦ったの?」
「・・・財閥の人間は外界の世界のなど知らなくても生きていけるから楽なものだな」
綱方はそう言うと後ろを向いた。
「お互い無駄話しすぎたな。ご主人が心配なさっていた。声を後で掛けてやれ」
すると、スタスタと歩き出し屋敷へと戻ろうとした。
それを見て何かを感じた九十九は思わず叫んだ。
「待てよ!」
綱方は振り向いて驚いた顔をした。
「そんな話していて何が無駄話さ!じゃあ、何で僕に声を掛けたんだ!何が言いたかったんだ!ちゃんと言え!」
そこにいつもの落ち着いた九十九はいなかった。
いたのは、取り乱し混乱状態の渓河九十九だった。
「別に。ただの軽い同情だ」
「何だって!?」
「いいじゃないか、まだ手が汚れてるわけじゃないんだ。それだけでも良しとしろよ」
綱方がそう言うと、すたすたと九十九を置いて屋敷へと帰って行った。
一人九十九は取り残された。
「同情だって・・・?」
九十九は、小さく呟いた。
自分はそういう物を求めているつもりはなかった。
可哀想とか、お気の毒にとか、それは痛々しいだけ言葉だ。
欲しかったのはどうそれに向かって対等に向き合えるかの心の整理の方法で
「ふざけるな!何で僕がそんな事言われなきゃいけないんだ・・・」
考えれば考える程、段々声が弱くなっていった。
そして、力が抜けていくかのようにその場に崩れ落ちた。
「くっ・・・う・・・」
はらはらと何かが落ちた。
熱いもの。
怖い、怖かった。
生まれて初めて見る本当の同じ人間によって殺される同じ人間の死が気持ち悪くて生々しくて吐きそうだった。
本当に怖かった。
誰かの葬式では大体綺麗に白い着物を着て死に化粧をしているからとても安らかで優しい感じをしていたのにあれは別物だった。
忘れられなかった。
あの白目で傷口から出て行く血が滴る光景、生暖かい血で汚れた手の感覚と錆びれた臭い、震えの止まらない恐怖。
しばしの間、九十九はその状態で真下の地面を見つめていた。
屋敷に戻ると騒動はさらに高まっていた。
綱方は、痛々しい視線を浴びながらも何も言わず黙って立っていた。
「アンタ、今時そんな刀持って気取っているがやってないって証拠を見せろ!」
「・・・やっていない。それだけは言える」
「宗弥さんの体は刺し傷だらけじゃなかったか!その刀で串刺しにしたんだろうが!」
「・・・これはそういう殺すために持っているんじゃない」
「嘘をつけ!」
一人の男が綱方に拳を頬にぶつけた。
いきなりの事なので一瞬綱方はよろめいた。
「士族がいつまでも上気取りやがって」
男がそう言い残すと綱方はそれを聞き捨てならないと手を出さない代わりに鋭い憎悪の目で男を睨みつけた。
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