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「九十九さん、それらの疑問点を気になさっているのはわかりましたがなぜさっきからそんなに木下さんの事を」
斉藤が言うと、九十九は微笑してこう言った。
「これは僕の推測です。木下さんはあの綱方っていう人と一緒に居たというのは深柳さんが言ってくれました。2人は一緒に何かを見たんじゃないかと思っているんです。それは、鈴谷さんの壁の落書きじゃなくてもうひとつ何かを。多分落書きの事は木下さん知っていると思います」
「九十九さん、その何かって何なんですか?」
「それは僕にもわかりません。わかっていればこんな風に探求しませんよ、斉藤さん」
九十九は、そう言うと木下を見た。
すると、ほんの少しだが木下の指が微動した。
「あ、・・・今指が動きましたよね?斉藤さん!」
「えぇ、私も見ましたよ。九十九さん」
2人は木下の様子を凝視した。
木下は瞼を動かすとゆっくり目を開けた。
「・・・ここは・・・?」
「気がつかれましたか?」
九十九は目が覚めたばかりの木下に言った。
「あの、ひとつお聞きしたいんですけど」
「早く、早くあそこに行ってください!」
木下は九十九の腕を掴んで言った。
「え?一体なんの事なのかさっぱり・・・」
「お願いです!早くしないと誰かが殺されてしまうんです!」
「そ、それはどういう事ですか!」
九十九は木下の両肩を持つとそう叫んだ。
螺旋階段をひたすら九十九は上がっていた。
その後を斉藤は必死で追いかける。
向かおうとしている先はこの屋敷の最上階にある時計部分の裏。
なぜそこへ向かっているのかは数分前の事である。
九十九は目覚めたばかりの木下に慌てていきなり時計の裏へと言われた。
話を聞くとどうやら九十九が気にしていた空白の時間、綱方と木下は本当にある物を見てしまったのだそうだ。
舞踏館の入り口付近で綱方と木下が会話をしている時だ。
ふと木下が屋敷の上に開いている窓を見ると誰かが二人でやり合って一人が何かを持ってもう一人を刺した所を偶然目撃してしまった。
あまりの衝撃的なものを見てしまった木下はその時に叫びを上げ、気絶してしまったのだという。
綱方はと言うと、・・・これは九十九の推測だが気絶した木下を舞踏館へ運んで急いで時計裏へ走ったと思われた。
綱方が急いで走っていったのはそれを確かめに言ったからだというのもその話で確信した。
綱方とぶつかっていろいろあってから一時間は経っていた。
勿論、この一時間の間彼を見た者は誰もいない。
九十九は、最上階へと上がった。
そこからまたまっすぐ行くと正面に不自然にも開けられたドアがギィ、ギィと音を立てて小さな開け閉めをしていた。
そこが時計裏の場所だと九十九は思った。
少しずつそこへと足を一歩一歩進め、ドアを覗いてみた。
ガタガタと時計の歯車の動く音が繰り返されていた。
下を見ると、縞々の袴の一部が見えた。
見覚えのある袴。
九十九はドアを全開させるとドアから差し込む明かりがドアの大きさの分だけ照らされた。
そこには頭から血を流している綱方が倒れていた。
九十九は、慌てて首に手を当ててみる。
まだドクドクと脈打っている。
・・・生きていた。
少し息をつき、安心すると一瞬水の音が聞こえた。
ピチャ・・・、ピチャ・・・
一定に水の落ちる音が聞こえる。
奇妙に思った九十九は、綱方の所から先に足を進めた。
先は暗かったが、微かに先には時計の形のした明かりが見えた。
多分そこがちょうど時計の裏で今日出ている月明かりが反射しているのだと思った。
細い鉄の手すりがついた木製の道があった。
九十九は、手すりを持ち道を渡ろうとした。
だが、ふと下を見た。
薄い明かりでよく見えないが、なんとなく道が部分部分濡れているように見えた。
その時、九十九は錆びた鉄のような匂いがすることに気付いた。
ツーンと鼻に来る一度は嗅いだ事のある匂い。
ある物が脳裏に浮かんだ。
そう、・・・血。
またピチャっと水の音の落ちる音が聞こえた。
九十九は、右にある時計の歯車を見ると恐ろしいものがそこにはあった。
そこには、歯車に括りつけられ腹を何度も突き刺され服が真っ赤になり、白目になっている死体がくるくると回っていた。
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