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「九十九さん、様々な興味もいいですが自分のことも」
斉藤は言おうとすると九十九は先の内容を察したのか違う話に切り替えた。
「あ、そう言えば斉藤さん。そろそろお開きにして木下さんのところへ行きましょう」
「ん?木下さんですか?」
「あ、はい」
九十九は少し冷や汗を流しながら言った。
そんな姿を斉藤は思わず微笑した。
「そうですね。樋川さん、晴羽さん、深柳さん、残って頂きありがとうございます。お部屋でゆっくりして下さい」
「言われなくともそうする」
樋川は煙草を近くに食事が置かれているテーブルにある灰皿に煙草の火を消してその場を去った。
「では、私達も。ねぇ晴羽さん」
「そ、そうですね。斉藤さん、おやすみなさい」
深柳が言うと、晴羽は恥ずかしがりながらも言うと二人もその場から出て行った。
残されれた斉藤と九十九。
斉藤は深柳と晴羽が出て行くのを見送ると声を掛けた。
「九十九さん、・・・例のお話を言われるのがそんなに酷でしたか?」
「当たり前です!僕を惨めな思いをさせないで下さい。斉藤さん」
九十九は嫌気を斉藤に向けて白々しく言った。
「はははっ、・・・でも木下さんの所へ行く前に」
斉藤は近くのテーブルに逆さまで置いてあるワイングラスとワインのビンを手に取り、ワインをグラスに注いだ。
ビンの中身はどうやら深紅の赤ワインだったようだ。
それを斉藤は自分の口に含んだ。
「ワインを一杯どうですか?九十九さんもワインを嗜みますでしょう?」
斉藤は、もうひとつの逆さまのワイングラスを九十九に差し出した。
「では、遠慮なく」
九十九は斉藤からグラスを受け取るとワインを注いでもらった。
それからトクトクとグラスの半分ぐらいまで注がれた。
グラスを覗くと天井にぶら下がっている点灯と自分の顔が歪んで映っていた。
それを口に入れた。
ワイン独特の葡萄の甘美な香りが鼻を誘う。
そして、深紅の色のように深い渋みがあってコクのある重みの味が口の中で広がった。
「・・・渋くてほのかに葡萄の味がしていいですね。渋い味好きですけどもう少しコクのあるのが個人的僕は好きです」
九十九はそう感想を言うと残りのワインを残さず飲み干した。
「意外と渋めが好みなんですね。私はてっきり渋みが少なく軽やかで果実味たっぷりのが好みかと思ってましたよ」
「いや、そういう味も好きですけど、よくあるじゃないですか。いろいろと飲んでいるとなんか甘味よりも渋めの味の方が飲み応えがあるというかなんていうか」
「あぁ、その気持ちわかります」
「やっぱり渋めなのを嗜みながらゆっくりとほろ酔いに浸るというのがいいですね」
「同感です」
斉藤は、九十九のグラスにまたワインを注ごうとすると九十九はグラスの口に手を添えた。
「斉藤さん、嗜みはまた後にしてそろそろ行きましょう」
九十九はワイングラスをテーブルに置いて言った。
「あー、すいません。ついつい忘れてました」
「困りますよ、斉藤さん」
九十九は少し眉を寄せながらも笑って言った。
そして、その直前残っている肉料理が盛られている皿を見てまだ使われていないフォークを見つけると瞬時パクッパクッと口に入れ、喉に通すと
「行きましょうか」
と言った。
舞踏館の隣にある屋敷の2階、左の端から5番目の部屋のベッドで木下結衣は眠っていた。
「まだ眠っていますね」
九十九は木下の近くに立って言った。
「斉藤さん、木下さんは最後まで居たんですよね?」
「そうです、だけど私が九十九さんを呼び出しに行った後何があったのか私には・・・」
「そうなんですよね、斉藤さんのいなくなった間に何があったかなんです。樋川さんの話ではあの壁の落書きが鈴谷さんの仕業と言っていました。そして、その後樋川さんと深柳さん、晴羽さん、鈴谷さんはその場からいなくなって・・・。どうして木下さんが最後までいたはずなのにあんな叫びを上げたのか。疑問な点が幾つもあるんですよ。そして、あの綱方っていう人が木下さんが叫んだ後とっさに走って何処かへ行ったのかも」
九十九は右手で顎を持ってまじまじと寝ている木下を見た。
「多分、木下さんが何かを知っているんだと思うんですがこの有様じゃ話は明日ですね。斉藤さん」
九十九は振り返ると後ろにいる斉藤に言った。
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