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「樋川さん」
斉藤は一度会釈をした。
「斉藤、彼があの渓河の奴の息子だからと躾は必要だと思うぞ。九十九君だったか?」
樋川は九十九に顔を合わせてるとそう言った。
「あ、・・・はい。父をご存知なのですか?」
九十九が少し警戒した目で樋川を見ると本人は呆れたような深いため息を吐いた。
「そう他人を探索するな。確かに私は君の父親とは顔見知りの関係だ。一度、斉藤と三人で飲み交わしもしている」
「・・・斉藤さんは色んな方と飲むんですね」
九十九が斉藤の方を向いて言うと、斉藤は微笑み
「だから私は酒を飲みながらの語りが好きなのですよ」
と言った。
すると樋川は
「語り好きでなく、酒好きの間違いだろ。この酒豪が」
「失礼な、私はただ皆さんが素で話してくれるようお酒を勧めているだけです」
少し無機になった斉藤が言うとまた深い溜め息を吐いた。
「斉藤、あれは鈴谷の仕業だぞ」
樋川はそう言うと服の内ポケットから煙草とライターを取り出し、煙草を吸い始めた。
「す、鈴谷さん?あのさっきの人ですか??」
「ええ、私達は見てましたからね。何処から持ってきたのか知らないが赤いペンキを持ってきてベタベタと書いていたよ。止めたが聞かない話に耳も貸さなかったよ」
「何のために!?この舞踏会に招待してくれた斉藤さんに失礼じゃないですか!!」
九十九が言うと、樋川は煙を天井に向かって吐き話を続けた。
「これが汚いやり方と言うものだ。こう変な事が起きれば斉藤財閥の信頼が落ちる。そこを突くように鈴谷が入り込む。彼はこうやっては敵を作る奴だ。彼の父もさぞ悩んでいるそうだよ」
「樋川さん、じゃ呼び出されるまで皆さんは部屋に?」
「これこれ、そうやって探偵ごっこをするな。その探索好きは父親譲りか、君は。探偵でもなければ警察でもないんだぞ。無駄な事だ」
「僕は別に探偵ごっこしているつもりはありません」
「それなら私らからすれば探偵ごっこしているように見えるから用心しろと言い換えようか」
樋川は今度はきつく言い出した。
流石の九十九も少し身を引いてしまった。
「九十九さん」
斉藤は九十九の肩を叩いた。
それはもういいでしょう、という無言の言葉を意味していた。
「ところで木下令嬢さんとあの用心棒みたいな侍くんは何処?あの二人もあの時いたじゃない」
「か、佳織さん。あの二方は無関係ではありませんか」
深柳の発言に晴羽は慌てて口止めしようとすると、
「ちょっと待って下さい!」
と九十九が仲裁した。
「九十九君、何度言えばわかるのだい?」
樋川は煙草を吸いながら言った。
「今言っていた侍って綱方って人ですよね?」
「あら、ご存知?」
「いえ、違います!ただ此処に来てから気になっていた人なんです。服装などが皆と違うので妙に印象に残っていて」
「確かにね、それは言えてるわ。・・・彼ね、実は木下令嬢さんとイイ感じだったのよ」
深柳は九十九の耳元で小さく言った。
「で、その後は」
「それが私にもわからないわ。私もこの貴文さんと部屋に移ったから」
深柳はそう言うと晴羽の腕にしがみつき、見せ付けるように笑顔を見せた。
「しかも、侍君は照れ気味でそこが見てて可愛いの。木下令嬢さんも照れてるんだけど妙に押しててね。若い子の特権ね、ア・レ・は」
深柳は面白そうに言った。
「それなら宗弥君はどうしたのだね?ここにはいないが」
樋川は周りを見渡し、さり気なく言った。
「あ、そう言えばいませんね」
斉藤もそれを聞くと周辺を見るともう一人いない事に気付いた。
「斉藤、お前見た目の割りには老けたか?」
「いやいや、私はまだ若者として頑張らなくては」
斉藤は笑って言った。
「宗弥さんって誰なんですか?斉藤さん」
九十九は斉藤の会話を聞いてすぐさま深柳の会話から離れた。
どうやら九十九はふとした話を耳にすると気になって盾突く性質のようだ。
「あ、九十九さんにはお教えしてなかったですかね?」
「はい」
「宗弥瑞春(ソウビミズハル)、宗弥さんというのは父方が外国との貿易をやっていた人で母方がバイオリニストの間の方で今母方と同じように自分もバイオリニストとして活躍している方なんです」
「へぇ」
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