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「はぁー、疲れた」

九十九は、シーツが綺麗に敷かれたベッドに身を投げた。

ベッドはとてもふかふかでこの三日月島に来るまでの疲れがどっと体に来た。

ここに来るのに、九十九は一苦労だった。

家は東京の八王子にあるのだが、近い最寄駅の列車で乗換えをしながら千葉県の南最先端の市である館山市で船に乗るという道のりで来た。

大体半日の時間を掛けて此処に来たのだ。

「・・・眠たいなぁ、夜までまだ時間あるから寝ようかなぁ」

九十九は寝言のような声で言った。

そして、気がつけば目が開いたり閉じたりを繰り返した。

あっという間に眠気が来たのだ。

九十九は睡魔に勝てず、そのままベッドに身を投げた状態で眠りについた。




コンコンとドアを叩く音が聞こえた。

使用人と斉藤が九十九のいる部屋の前で立っていた。

「九十九さん、九十九さん。どうしたんですか?」

斉藤は顔に汗を流し、心配そうな顔でドアを叩く。

だが、九十九は出てこず無反応だった。

斉藤はドアを開けようにも開けられなかった。

ドアは中で鍵を掛けられていたからだ。

「どうしたんでしょうか、九十九さんは。舞踏会にも出て来ないで・・・。誰よりも九十九さんが楽しみにしていたのに」

斉藤は、深いため息をつく。

「ご主人様、お部屋をご覧になったらどうです?」

使用人はジャラジャラと様々な鍵がつけられている鍵錠を出して言った。

「そうだな、開けてくれ」

斉藤は言うと、使用人は鍵錠から九十九の部屋の鍵を見つけるとドアノブの鍵穴に差込むとカチャッと音がしてドアが開いた。

斉藤と使用人は部屋の中へ入っていく。

中は真っ暗で電気すら点いてなかった。

「九十九さん」

斉藤は、九十九を呼んだ。

ドア付近にある電気を手探りで探し、カチッとボタンを点けるとベッドで寝倒れている九十九が目に入った。

斉藤は思わず深いため息を吐いてしまった。

そして、九十九を揺すり動かした。

「九十九さん、九十九さん」

九十九は子供のようにうぅ、と唸るばかりで一向に起きる気配がなかった。

斉藤はそれを見て、意を決した。

「九十九さん!起きてください!」

「はひ?」

斉藤が少し怒鳴り交じりの声で言うと九十九はハッとした顔で体を起こした。

「九十九さん、なんで今まで寝ていたんですか!?」

「え?今まで??」

「今、10時です。今日の舞踏会は終わりましたよ!」

「え・・・、あ、あああああああ!」

九十九は斉藤の前にもかかわらず大声を上げた。

「・・・た、大変だ!これを父さんに知れたら・・・あ~、また怒られる!しそれよりも、怒られるだけじゃすまされない!絶対また刀を持って襲って来る!!ど・・・、どうしよ。僕、初日で散ったよ。・・・ハハ。ハッハハ」

九十九は独り言にしては大袈裟で壊れたような事を言い、頭を抱えた。

斉藤はその九十九を見て、肩を使ってさらに深いため息を吐いた。

「九十九さん」

斉藤が声を掛けると九十九は斉藤の服を掴み、縋るようにこう言った。

「斉藤さん!お願いです!これを父さんには絶っっ対伝えないで下さい!斉藤さんと父さんとは文通の仲でもこれだけは!バレたら・・・その日が・・・僕の命日になるやも知れない・・・です」

九十九の声は段々と小さくなっていき、ついには暗い顔で下を向いた。

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