第12話


 悪夢の交流会から数日が過ぎた。あの時鈴宮がなんて言ったのかは未だにわからない。上手く聞き取れなかった上に誰に聞いても知らぬ存ぜぬで、本人に聞いてみるも〝知らない忘れた〟でお手上げだ。

 いつかわかる時が来ればいいが。




 

 体育祭が近づいてきたとかで最近は校内に活気が満ち始めている。いまも僕達クラスは授業時間を使って各種目のメンバー決めを行っている。クラスの五月蝿い連中がさらに輪をかけて五月蝿い。


 体育祭の何が楽しいのか微塵もわからない。殺人的な日差しに晒されながらただひたすらに体力を削る行為の何がそんなに彼らを駆り立てるのだろうか。



 中学の体育祭も小学校の運動会もただ無感情で無機質に眺めていたのを憶えている。今回もきっとそんな時間を過ごすのだろう。





 「辰巳は何の種目にするか決めた?」


 「辰巳の事だから殊更楽なもの選びそうだな」


 「まぁ、無難な借り物競走だな」


 「それって無難なの?」


 「どうせ何持ってこいとかで大したお題とかないよ」


 「鷹宮君がそれでいいなら別にいいと思うけど」


 借り物競走で好きな人とか気になる人なんてのはフィクションだけだ。


 「せっかくだから西野と二人三脚とかに出ればよかったのに」


 「何がせっかくなのかわからないが目立ちたくないから遠慮する」


 「もう、鷹宮君こういうのは思い出作りだよ。ね、鈴」

 「そうよ辰巳。いっぱい作らなきゃ」


 「どうせなら俺は辰巳とより女の子と二人三脚したかったなぁ」


 「そんなのある訳ないでしょ」



 そんな他愛もない話しをする。僕にも友達ができたのだからいつもの体育祭とは違った物になるだろうか。





 今日は珍しく鈴宮と並んで帰り道を歩く。いつもなら買い物とかで颯爽といなくなるのに一緒に帰ろうと言ってきた。


 「明日からテスト期間だけど勉強してる?」


 「別にあれぐらいなら余裕だ」


 ゲームや漫画の世界という訳ではないが僕にも修行時代的なものが存在する。

 昔、家の近くにやたら強いと噂のフリーエージェント的な仕事をしてる人がいた。


 当時の僕は力が必要などと凝り固まった考えの本無理矢理弟子にしてもった。剣術に槍術、棒術、体術、と何でも御座れで数え切れないぐらいブッ転がされまくりのゲロ吐かされまくりだった。


 その師匠の奥さんもまた凄まじい才女らしくそこにも弟子入りした。座学系は美術でも何でも叩き込まれた、こちらも旦那さんと同じくスパルタでフラッシュ暗算の時などもう罰ゲームがすごくて……。


 これ以上は思い出したくないのでここまでにしよう…

 とりあえず高校レベルなら大体問題ない。


 「ヘェ〜。言うじゃない。」


 なんか火が付いたっぽい。勝負しようとか言いだしそう。


 「なら、私と勝負しましょ」


 やっぱり言ってきた。…もう既に闘志が立ち昇ってるし…


 「えぇ、普通にイヤなんだが」


 「英語と数学の二教科で勝負よ。」


 もう確定事項ですか、そうですか。

 …適当に流してしまおう…


 「でもあんた軽く流しそうだし、罰ゲームをしましょ。負けた方が何でも一つきく、ってことで。」


 「…読まれてる」


 「やっぱりね」


 …つい口にでてしまった。しかもその罰ゲーム、僕はどう見られてるんだろう。

 単純に男として見られてないのかねぇ。


 「まぁ、わかったよ。じゃあまた明日ね」


 「ええ。また、明日。絶対負けないからねー」


 僕は最近攻めてみようとか強きな事を考えたがよくよく考えればこれが初恋であろう僕にそんな事できるはずがない、というか単純にどうするかわからない。


 きっと僕は初恋を変な風に拗らせてとんでもない思考スパイラルに陥ってる感じがする。


 〝好きにさせる〟と〝好きになってもらう〟は違うと思っている。

 〝好きにさせる〟はカッコいい自分だけを見せつけてその部分だけで好きにさせる、惚れさせる。

 〝好きになってもらう〟はカッコいい自分を見せつけるのではなく向こうに自分の事を知ってもらう事だと思っている。


 そして僕は彼女の事を知って〝好きになった〟だから僕も彼女に〝好きになってもらいたい〟。


 彼女にも僕の事を知ってほしい。でもだからこそ、踏み出せない。僕にも人には見せられない秘密がある、今も残してある狂気の部屋とかとても見せられない。


 小さくなっていく彼女の背中を見ながら、隠しているそんな秘密を知られてしまうと嫌われてしまうと思う自分がいる。


 僕はかなりの臆病者だ。

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