第11話



 時は放課後。僕は全力で鈴宮から逃げ回っていた。ことの始まりはいまから10分ほど前に遡る。


 〜10分前・教室〜


 「そんなわけだからお願い辰巳!」


 両手を合わせお願いのポーズをとる鈴宮。その背後には司と葵さんもいるが承諾済みなのか何も言ってこない。


 内容は生徒会と先生からの依頼らしいのだがここの校長とローマ校の校長が親戚らしく急遽交流会をする事になったらしい。


 予定は今週の日曜日午後から、今は金曜日の放課後。無理くない?


 任された仕事は買い出しと当日のエキストラ。一応スケットなので明日買い出しして当日の午前中で十分間に合う物らしい、報酬も慈善活動の一環として内申点を弾んでくれるのと学食の無料券。内申点は嬉しいし無料券も欲しいが無理だろう。


 そもそもエキストラって多分急な話しで人がいないから見栄を張るためだろうけど話しかけられたらどうすんの?ローマって何語?イタリア語か?すでにこのザマなのにムリだぜ?


 どうしようかな。どうやって逃げよう。あの2人も一緒にいるって事は説得に来たって事だろうから正攻法で断っても無駄だろう。ならば逃げるに限る。


 その時僕に、天啓が下る。昨日見たアニメのワンシーンが蘇る。これだ!


 僕は鈴宮の両頬に手を添え言う。


 「鈴宮、目を閉じてくれ」


 「え?な、そんな急に…」


 鈴宮が目を閉じる。司は唖然とし葵さんは顔を手で覆っている。全員の意識が逸れた瞬間僕は駆け出した。




 そして今に至る訳だが、僕は空き教室に身を潜め息を殺している。


 「辰巳ー!今大人しく出てきたら本気パンチ1発で許してあげるわよー!」


 すんげぇ怒ってる。鈴宮の本気パンチて結構筋肉ついてるから絶対痛いだろうなぁ。


 アニメだったら後日笑い話ですんでたのに。

スマホが震える。メールの着信、葵さんからだ。



 from 立花 葵



 本文:鷹宮君、鈴は鷹宮君が嫌がるかもしれないと思っても勇気をだして声をかけたんだよ。少しでも楽しい学校生活を共有できますようにって。

どうしてもイヤならしょうがないけどちゃんと向き合ってあげて。


 PS さっきのはどうかと思うから大人しく殴られなさい。




 …卑怯じゃないかなぁ。正直イヤだけどそんな裏話聞かされたらなぁ、あー、絶対痛いんだろなぁ。南無三。





 「あっ。鷹宮君と鈴来た!」


 「おー、辰巳遅いぞ。なんだ、意外と無事そうだな。」


 「足が震えてるこの姿が無事と言えるのか?」


 「あんたがあんな事するからでしょ!」







 「葵さんアレは卑怯じゃない?」


 「ん〜?何の事?」


 「…まぁいいか」


 以外と腹黒い人なのかな。




 鈴宮家


 食事も食器洗いも終わりティータイム中。


 「辰巳明日は11時に集合だからね」


 「わかったけど香澄ちゃんはどうするんだ?」


 「香澄は葵の家でお世話なる予定よ。妹同士が友達だから土日はお泊まり。」


 「そっか」


 何やら少し気が落ち込んでるように見える。


 「何やら落ち込んでるようだがどうした?」


 「…うん。そのね、明日買い出しだけど皆で遊びに行くのも楽しみだけど、私しか知らない辰巳の素顔とか見られるって思ったらちょっとね」


 「たかが顔見られるだけでしょうに。……納得してないって顔だね。なら、また誰も知らない僕を見つけてよ。」


 俯いて動かなくなってしまった。流石にキザだったかな。まぁ、明日楽しめるといいな。








 翌日・集合場所


 現在10時50分、集合メンバーは3人。


 「辰巳遅くないか?こういうの早く来てるイメージがあるんだが」


 「確かに鷹宮君ならもう来てそうだけど」


 「ちょっとメールしてみる」


 前は10分以上前に来てたのにどうしたんだろう。あっ返信きた。『すぐそこにいる』って見当たらないから連絡してるのに。さては寝過ごしたか、まったく。


 「辰巳もう来るって」


 あんな言い回しならすぐくるでしょ。そう思っていると知らない女性に声をかけられる。


 髪は長く幅広めの一本三つ編みを腰まで流してる、全身黒でレザーのジャケットにちょうど膝上ほどのレザースカートにストッキング編み上げブーツ。凄いカッコイイ綺麗系美人だ。


 「今日はよろしくね」


 「えっと、あの〜どなたかと間違えてませんか?」


 「すごい綺麗な人だけど鈴の知り合い?」


 「いや、今が初対面のはずだけど…」


 なんだろう、あの目とか顔立ちどこかで見たことがある気がする。でもあの人とは初対面のはず、……ッ!まさか!

 唐突に数日前の記憶がフラッシュバックする。私の勘違いでなければあの人の正体は‼︎


 「まさか、あんた辰巳⁉︎」


 「は?いやいやそりゃないだろ。別人すぎるって」


 「まったく、気づくのが遅いわよ」


 「はぁ⁉︎嘘だろ⁉︎」


 「鷹宮君⁉︎ホントに⁇美人すぎない?」


 「あ、あんた何でそんな格好で…」


 「ん?前に鈴宮に披露するって言ったからいい機会だと思って」


 「…私はいまあんたがホントは宇宙人かなんかなんじゃないかと思い始めてる」


 「ひどい言い草ね。後今の私はミナってよんでね」


 「それじゃあ、鷹じゃなくてミナさん?も来た事だしいこ!」


 「ああ、行こうぜ。いろいろ衝撃の強すぎる出だしになったけど」


 「何が不満なの?男女比率なら男1.5 女が2.5で見ようによってはハーレムよ。喜んだら?」


 「そんな事言われて喜べるわけねぇだろ⁉︎」


 「美人な分尚更だね」



 衝撃の開幕から皆で買い出しに移る。楽な物しかないしすぐ終わるだろう。

 葵さんが後ろにいる僕の隣にやってきて小声で話しかけてくる。


 (それで結局鷹宮君はどうしてそんな格好で来たの?さっき言ってたのも嘘じゃないだろうけど他にも理由があるでしょ?)


 (……鈴宮が皆に僕の素顔を見られたく無いって言うから。でも失敗だったね、女装しただけで結局のところ肝心の顔は剥き出しだし。)


 (ええ!鈴そんな事言ったの?う〜ん、これは独占欲かな。それで鷹宮君はその気持ちに答えた訳だ。もしかして鈴の事好きなの〜?)


 (…ああそうだな。といってもアニメや恋愛、ラブコメ小説を読んで自覚したものだけどな)


 (ふぁー!そんな簡単に認めるなんて!ラブコメの予感!応援してるから!)


 言うだけ言って去って行ってしまった。少しは攻めてみようかとは思うがまだどうするかもわからないというのに。




昼食を終えていろんな店を回り買い出しも無事におわった。荷物は司が全て預かった。




1人での帰り道今日を振り返り1日の出来事を考える。


 確かに僕は鈴宮に恋心を抱いているだろう。人の裏切りや裏切られるのを見てきた、だから僕はあまり人を信用できない。


 でも彼女になら構わないと思っている自分もいる。恋という感情は怖いな。





 翌日・交流会当日



 「おお、今日の辰巳は普通だな」


 「やっぱり髪をあげるだけでもイケメンだよ!」


 「皆酷いな」


 「昨日それだけのインパクトを与えたのよ」


 そんな会話をしながらも皆で準備をすませる。


 「辰巳何よんでんだ?」


 「イタリア語の本」


 「面白いのか?」


 「面白い訳ないだろ。話しかけられた時のためだよ」



 ついに交流会が始まる。


 場違い感が半端ない。鈴宮達は奥の方で集まってたが予想通り話しかけられているが笑顔で固まって動かない。

 ……やっぱり辞めとけばよかった。



 ああ!女生徒が2人ほどこっちきた!お願い!話しかけないで!


 ガッツリ話しかけてきた!ホント何言ってるかわかんない!とりあえず適当にイタリア語の本にあった文を言っとこう。


 「Piacere」


おお!なんか喜んでるっぽい。 こんな感じでしばらく適当な会話?を続ける。


 もう時期終わりか。何を言われてるかもわからんが自分も何を言ってるかわからん。何も失礼なこと言ってなければいいんだが。


 なんだろう、この子すごいソワソワしてるんだが。と思っていたらなんか折り紙の花をもらった。ふむ、お礼の言葉はなんだったかな。




 その時何処からやって来たのか鈴宮が背後から僕の頬へ噛み付いた。



 彼女の唾液が尾を引いて僕から離れていく。回りが顔を赤くしながら呆然としている。



 「Non passare」


 え?何?鈴宮はなんて言ったんだ?皆一斉に離れて行ったんだが。ついでに鈴宮もどっか行ってしまった。


 この事件の後から終了まで1人だった。


 後片付けは生徒会が受け持ってくれるそうだ。


 僕は鈴宮を発見したので先ほどの仕返しをする事にする。

 

 葵さんと司がこっちに気づいたが静かにのゼスチャーしながら足音を消して背後から近く。



 「鈴宮」



 僕は彼女の背後から僕が噛まれたのと反対側の頬を甘噛みする。


 「お返しだよ。じゃあ、僕は一足先に帰るね」


 〝わあぁぁぁ‼︎ラブコメの嵐がぁ‼︎〟そんな声が聞こえてくる。この声は葵さんか、結構騒がしい人だなぁ。



 ああもう、ホント彼女は強く人の心を揺れ動かす。

 まだ頬に歯形が残ってる。


 この歯止めが効きづらい恋という感情は困ったものだ。制御するのすら一苦労だ。


 今はつい強く出てしまおうと思ってしまうが、恋は一時の気の昂りというそうだが僕のこの恋もそうなのだろうか?いつか色褪せていくのだろうか?


 ああ、怖いなぁ

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