第10話
私はいま、西野から呼び出され空き教室で椅子に座り机を挟んで向かいあっている。
こんな朝早くからいったい何の用なのか手短に尋ねる。
「こんなとこに2人きりでなんて、何の用なの?」
「ああ、少し聞きたい事があってな。鈴宮は辰巳とは最近どうなんだ?」
「は?何であんたがそんな事聞くわけ?」
「もしお前が辰巳に気があるなら俺も応援したいんだよ」
「だからってあんたには関係」
彼女の言葉を遮る。
「辰巳が誰かに取られてもいいのか?」
「何、それ。どういう意味?」
「辰巳は最近お前と一緒にいる事が増えた分必然的に人目につくようになる。あいつの交友が広がっていけばお前以外知らなかった捻た不器用な優しさとか知られていく。そしたら気を惹かれる奴もでてくる。」
「別に、あいつは私のってわけじゃ」
「じゃあ想像してみろよ。辰巳に彼女ができる、その彼女がお前じゃない誰かだったら?」
私は言われるがまま想像し、胸にこみ上げる重く熱く強く激しく渦巻く感情に机に両手を叩きつけ静かな教室にバァンと音を響かせ立ち上がる。
「嫌だ!渡さない!渡さない!辰巳は、私のものだ‼︎」
フーッフーッと荒い息を上げながら私は怒声を上げ宣言する。
「それならやっぱ頑張らないとなぁ。まだ先とはいえ体育祭も近づいている、何気にあいつポテンシャル高いから目立つ可能性は高いぞ。」
「…忠告ありがと。私は先に戻ってるから」
彼女は気が立ってる様子で早足で出て行ってしまった。
彼女が去っていった教室で電話をかける。
「もしもし葵?ああ、鈴宮にはっきり伝えたよ。凄まじい剣幕でこっちは内心ビビりまくりだったぞ。ありゃあもうゾッコンだよゾッコン」
静かな教室でそんな会話がされていた。
昼休み・教室
いつものメンバーでご飯を食べる。ただなんだか様子が変だ、落ち着かなそうにしている。具体的には鈴宮が。
そんななか西野が唐突な話題を提供する。
「実は俺恋愛相談されたんだけどさ、その内容が彼女の手を握った事がなくて手を繋ぎたいそうなんだがどうやったらいい?ってやつなんだけどどう思う?」
「「「……」」」
その言葉が締めくくられたと同時に3人がこちらを見る。なに?もしやウィットに飛んだ答えでも求められてる?なんも出てこないぞ。
「なんだ、3人揃って見詰めて。今まで彼女どころか友達すらいなかった奴に聞いて何か得られると思ってるならこれ以上とない程愚かだぜ?そもそもそれは、そんな悩むことか?さって手を取ればいいじゃないか。こんなふうに」
そう言って向かいに座っていた鈴宮の手をとる。皆が驚愕した表情をする。そんな驚くことか?ただ手をとっただけだぞ。
「別に簡単だろ。前も思ったけど鈴宮の手小さいし細っこくてやわら「ああああっ⁉︎」ぶはっ⁉︎」
顔面にいきなり張り手をもらった。
「くああ、目から火花が散ってる!」
「鷹宮君、女の子に対してデリカシー無さすぎるよ!どっかに落っことしてきたんじゃないの!」
どっかで拾って参ります。
「流石だな、辰巳。俺はそのままでもいいと思うぞ。」
どうしろってのよ。そんなこんなでまともな意見も出ず昼休みは終わった。
所変わって今日も鈴宮家で晩ご飯を頂く。
「前見た時に思ったんだけど、あんた肌とか白くて綺麗だから女装とかすごい似合いそう」
「お兄ちゃん、お姉ちゃんになるの?お姉ちゃんとも遊びたい!」
「唐突だな。まぁ、できないこともないから今度遊んであげるよ。」
「えっ?ただの思いつきだったんだけど、あんた、その、女装癖が……ごめん」
「いや、ちょっと待て。そんな事ないから。何に対しての謝罪だ。おい、ちゃんと目を合わせろ」
そんな感じであっという間に夕食は終わった。2人で食器洗いももう定番だ。
「その、辰巳はよく女装するの?」
「まだその話引っ張るきか?諸事情があってやってただけだよ」
「……そう。今度してくるって言ってたし楽しみにしとく」
「なんだその歪んだ笑顔は。…ふむ、僕は鈴宮のコスプレとか見てみたい」
「はぁ⁉︎イヤよ!何で私が!」
「香澄ちゃんだけならまだしも鈴宮にも見せるとなるとなぁ、僕だけ恥かくのもアレだから鈴宮も一緒にしよう。香澄ちゃんは喜んでくれるよ」
「そういう問題じゃないでしょ!私まで巻き込まないでよ」
「メイドとかチャイナドレス似合うと思うけどぁ」
「あーもう。終わり終わり、この話は終わり」
「はいはい」
洗い物も終わりこのままおいとましよう。
「辰巳待って、途中まで送ってく!」
「いや大丈夫、かと思ったけどお願いします」
久しぶりに鷹のような鋭い眼付きで睨まれ手首が捻じ切れんばかりの掌返しをする。
夜道を2人で歩く。
今の鈴宮はジャージ姿に髪型はポニーテールだ。剥き出しの白いうなじがとてつない色気で目が惹かれる。
鈴宮は今まで何も言わず頬をほんのり赤くしていたが少し歩いた所でそっと僕の手を握ってきた。
驚き彼女を見ると顔は変わらずほんのり赤いが耳が真っ赤に染まっていた。
そんな反応されるとこっちも恥ずかしくなる。可愛いは最強って聞いたがまさしくその通りだと痛感する。
「辰巳の手、あったかいね」
「そうか?自分じゃ普通だと思うんだがなぁ」
人気のない道を街灯に照らされながら2人で手を繋ぎ歩く。
「鈴宮はさっきまで洗い物してたから冷えてそう感じたんじゃないか?」
「洗い物してたのはあんたもでしょ」
「そうだったな。じゃあこの暖かさが伝わるといいな。」
「〜〜ッ‼︎」
「こ、ここまで!私ここで帰る‼︎」
「ああ、またね。」
そのまま彼女は来た道を全速力で引き返していく。
僕の中で日を追うごとに彼女の存在が大きくなっていく。
本当可愛いは最強だな。
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