第21話 外れスキルと馬鹿にされた農園スキルが進化してチートスキルになりましたが、このスキルでのんびりスローライフを送ります ~覚醒した農園スキルが神過ぎて、もうこれ以外何もいらないんだが~ 5



 後日――


「困ったな……」


 サクラメリアで新たな生活を築いた僕は、絶賛金欠中だった。

 サクラメリアの中に入れたまでは良かったものの、都市部に住居を構えるにはあまりにもお金がなく、サクラメリアの街でも外れの外れ、もはやサクラメリアの中と言っていいのかどうかすらあやふやな辺鄙な宿屋に泊まっていた。

 それでも消費するお金はララ村をはるかにしのぐから、持ってきたお金はあっという間に底をついた。


 このままだと僕は、サクラメリアに来て数日でとんぼ返りをしないといけなくなってしまう。


 かといって何の力もない僕が職を見つけることすら難しく、ただ一人ぶらぶらと街を見回ることしか出来なかった。

 ぐ~、とお腹が鳴る。お腹が空いた。僕はお腹をさすることしか出来ない。


「どうすればいいんだろう……」


 途方に暮れて街をさまよっていると、大きな歓声が聞こえてきた。


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」」」


 大きな歓声がする方へ、僕は何をするでもなく引かれていく。


「あれが噂の剣姫、フィオナ!」

「う、美しい……」

「フィオナ様! 是非こちらに目配せを!」


 聞いたことのある名前に、僕は駆けだしてしまう。


「すみません、ごめんなさい」


 人の間を縫って僕は前へ出た。やはり、その声の先には――


「フィーナ……」


 近衛師団に入ったであろう、フィーナの姿があった。

 白と紫で統一された近衛師団の装束に身を包み、大男を制圧しているフィーナが、そこにいた。

 昔のような子供らしさは消え、剣呑な目とすらりとした体躯のフィーナはもう、僕が知っている彼女とはかけ離れてしまっている気がした。

 数年の訓練を受け、すっかり戦士の目をした彼女が、そこにいた。


「皆さん、危ないので下がってください」


 どうやら暴れた大男を制圧して、その様子を一目見たいと、人が集まって来たようだ。


「私はこの男を連行して事情を聞きます。皆さんはまた日常の生活にお戻りくださ――」


 フィーナと、目が合った。

 フィーナは目を見開き、僕の顔を見る。

 そしてふい、と顔を逸らした。


「皆さんはまた日常の生活にお戻りください」


 そう言って立ち去った。


「すごかったなぁ、今の」

「ああ、これでサクラメリアの平和も安泰だな」


 一人、また一人と、人が帰って行く。


「フィーナ……」

 

 僕はまるで固まったかのように、その場から動くことが出来なかった。

 フィーナはもう、一人で立派に、生きていた。



 × × ×



「はあ……」


 フィーナの立派な姿を見た僕は、すっかり気を落としていた。酒場で適当に選んだご飯も、手が進まない。


「エールを一つ」


 突然、僕の座っている円卓に、どさ、と人が座る音がした。定員が注文を聞き、厨房に戻る。

 僕は恐る恐る顔を上げて見る。


「ノエル」

「フィー……ナ」


 フィーナが僕の目の前に、いた。


「なんでここにいるの」


 フィーナはぴりりとひりついた剣幕で僕を見る。


「僕も……大人になりたかったから……」


 ザックもトビーもフィーナも、サクラメリアに行った。僕一人だけが取り残されているように感じた。


「ノエル、大人になるっていうことは、ここに来ることじゃないと思う」

「…………」


 ぐうの音も出ない。


「取り敢えずノエルはララ村に帰って。ここはララ村より危ない。事件の数も人死にの数も、ララ村とは比べ物にならない。ここは危ないから帰って」

「…………」


 僕は無言で首を振る。


「僕も、僕も何かを成したいんだ。何かをなすためにここに来たんだ……リスクがあるなんて最初から分かってる。帰るつもりはないよ」

「お金はあるの?」

「……ない」

 

 お金どころか、働き先さえ見つかってない。


「はあ…………」


 フィーナはため息をつき、円卓の上にずだ袋を置いた。


「これ、ちょっとだけど使って」

「……え」


 中に大量の硬貨が見える。


「だ、駄目だよ、フィーナのお金が……!」

「私はもっとお金あるから大丈夫。ここで暮らすことも出来てないんじゃないの?」

「出来てないけど、それはおいおいどうにかしていくつもりで――」

「どうにかならないの」


 フィーナは真剣な目で僕を見る。


「私にとってノエルは大切なの。ノエルが苦しんだり、死んだりしたら私は一生後悔すると思う。だから私はノエルを支援するよ」

「でも……」

「でもじゃないの」


 フィーナはやって来たエールを一気に飲み干した。


「ノエル、農園ファームの加護を宿してたよね。街の外れに農園を開ける場所があるから、そこに行けばいいと思う。このお金を元手にして、農園を開いたら良いと思う。それから、定期的に私に連絡すること。いい?」

「……うん」


 力のない僕はそう言うことしか、出来なかった。


「あと、冒険者ギルドで清掃とか薬草摘みの依頼とか発注されてるから、安全を考慮したうえで――」


 その後もフィーナは僕に色んなことを教えてくれた。

 僕はフィーナの厚意に感謝して、サクラメリアで生きて行こうと、そう思った。




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