第20話 外れスキルと馬鹿にされた農園スキルが進化してチートスキルになりましたが、このスキルでのんびりスローライフを送ります ~覚醒した農園スキルが神過ぎて、もうこれ以外何もいらないんだが~ 4



「皆、聞いてくれ!」


 村に戻ってきた僕たちは、その日のうちに一同に集められた。村長のマーカスさんが嬉しそうな顔で僕たちの前に立っている。

 村人の多くが集められているのは、一体何のようなんだろう。


「今日、私たちの村の若い衆が妖精姫フェイリアの祭りに向かった。そこで、今まで例を見ない、快挙を成し遂げた者がいる!」


 あぁ、と思った。どうやらフィーナの加護が剣姫だったことを報告しようとしているらしい。


「それも、三人も!」

「……!?」


 三人!? フィーナ以外にも誰かがいるということになる。


「三人、前へ」

「うっす!」

「へへへ」

「……」


 ザック、トビー、フィーナの三人が、前へ出た。

 ザックとトビー……。僕は頭が真っ白になった。


「なんと、フィオナは剣姫の加護を宿していた!」

「「えぇ!?」」

「「おぉ!」」

「嘘っ!?」

「あの剣姫を!?」


 にわかに騒がしくなる。


「世界に数人しかいないと言われている剣姫の加護! そんな貴重な加護がこのララ村の村人から発現するとはなんたる栄光! 皆、拍手を!」


 パチパチパチパチ、と大きな拍手が鳴る。


「そして、このザックとトビー。二人は斧、槍の熟練度向上、その他様々な戦闘スキルの加護を授かった! このまま順調にいけば戦闘の熟練者エキスパートとして大成するのも難しくはない、との言伝ことづても受けたらしい!」

「「おぉ……!」」


 ザックとトビーが自慢げに胸を張る。


「思えば、二人はいつもやんちゃをして私たちを困らせてきた。だが、今の栄光を考えれば、二人のやんちゃも――」


 マーカスさんは自慢げに二人を褒めそやす。前にいるザックと目が合う。


「……ふっ」


 ザックは僕を見て、鼻を鳴らした。

 僕はもう、マーカスさんの言葉が何も頭に入ってこなかった。ザックもトビーも、戦闘に係わる加護を宿していた。結局のところ、フィーナと釣り合うのは僕ではなく、ザックやトビーだったということになる。


「これからもこの三人の活躍に期待して――」


 マーカスさんはこの朗報を祝う宴を開くと言い出した。


 あれよあれよといううちに準備は進み、宴が開催された。

 酒を飲み、村人は腕を組み、笑いあう。


「…………」


 僕はただ一人、隅の方で何もすることなく、うずくまっていた。

 

「よ~お、ノエルの坊ちゃん」


 ザックが肉を片手に、僕の下へとやって来る。トビーも後ろから追従してきた。


「お前はどうした? どういう加護だったんだ?」


 にやにやと薄ら笑いを張り付けながら、僕に訊いてくる。


「別に……」

「別に、だってよぉ! ぎゃははははははは!」


 ザックは肉をほおばった。


「なんだぁ? やっぱ虫と喋れる加護だったかぁ? それとも人に寄生する加護だったかぁ? 俺は斧術熟練度向上、剛腕、他にも色々戦う加護があったなぁ? お前はどうだ、トビー?」

「俺は槍術熟練度向上、魔法能率向上、他戦闘用の加護だったなぁ! おい、お前は何だったんだよ?」

「知らないよ……」


 僕は膝を抱えた。


「ぎゃははははは! どうせ戦うことすら出来ねぇクソ加護だったんだぜ、こいつよぉ!」

「やっぱりフィオナちゃんにおしめ変えてもらわないと生きていけないでちゅか、ノエルちゃぁ~ん?」

「「ぎゃはははははははは!」」


 二人はさんざ僕を馬鹿にした後、踵を返した。


「ノエル……」


 フィーナがやって来た。


「もう放っといてよ……」

「ノエル……」


 僕はその場で顔をうずめた。

 フィーナはどこか申し訳なさそうな顔で僕を見ていた。


 情けない。

 なんで僕はこんなに情けないんだ。


 宴はザックとトビーの二人を中心にして、開催されていた。



 × × ×



 それから、三年の月日が流れた。


「ふぅ……」


 僕は日課になった薪割りを終わらせて、額にうっすらとにじむ汗を拭いた。

 ザックとトビーはサクラメリアに行った。今はどこで何をしているのか全く分からない。

 フィーナもサクラメリアに行って、今は近衛師団に入ったらしい。ルガーさんの下で日々剣術の修行をして、サクラメリアの治安維持に勤めているらしい。今でもフィーナとは、手紙でやり取りしている。


 そして僕は、三年間何も変わらず、ただお母さんとお父さんの仕事の手伝いをしていた。僕だけが何も変わらず、ララ村で止まった時間を過ごしていた。


「お母さん、ちょっとばあやのところ行ってくるね」

「は~い」


 僕は、ばあやの下へと向かった。

 村長の家の隣にある、小さな家。そこにばあやは住んでいる。


「ばあや!」

「んう?」


 やはりばあやは、家の中にいた。

 暖炉の側でうたた寝をしていた。


「ばあや、そんなに近づいたら危ないよ」

「ああ」


 僕は暖炉から、少しばあやを離す。

 ばあやは、この村の発起人だ。昔は高名な魔術師の冒険者だったらしく、人々からの信仰もあったらしい。ここ、ララ村も、ばあやの名前、サテナ・ララから取ったものだ。

 ばあやがこの村を作り、ばあやがこの村を発展させていった。


 どうも、預言者という非常に貴重な加護を宿しているらしく、若いころはその預言を数々に的中させていたらしい。冒険者稼業を退いてからは、この村で心穏やかに暮らしている。でも、今でもばあやの預言を頼って人がやって来ることも少なくない。


「ばあや、僕サクラメリアに行こうと思うんだ」

「……」


 ばあやはじっと僕の話を聞いている。


「僕、もうフィーナにもザックとトビーにも離されたくないんだ。一応、農園ファームっていう加護も宿してるから、とりあえず生きていくことくらいはできると思うんだ。ばあやとは暫く会えなくなるね」

「……」


 僕はサクラメリアに行く。

 戦いは出来なくても、フィーナの側にいたい。フィーナの隣で歩けるような男に、なりたい。

 今からサクラメリアに出発する予定だ。


「ばあや、僕は上手くいくかな……?」

「……」


 ばあやの顔を覗き込む。


「入浴草?」

「…………ふふ」


 ばあやは素っ頓狂な顔で言った。


「ばあや、僕頑張って来るよ」

「白竜と会うときが来るなんてねぇ……」


 僕は、ばあやの家を後にした。


「お母さん!」

「はいはい」


 家に帰った僕は、お母さんに声をかけた。


「じゃあ僕、サクラメリアに行ってくるね」

「ノエル、準備はもう大丈夫なの?」

「うん、ばあやにもちゃんと挨拶して来たよ」

「本当に一人で大丈夫?」


 お母さんは心配そうな顔で、僕の頬に両手を当てた。


「お母さんは心配よ。何かあったらすぐに帰って来るのよ? 手紙は週に一回は送ってきなさいよ? 食べ物はちゃんと栄養があるものを食べるのよ? 好きな物ばかり食べてちゃ駄目よ? 部屋はちゃんと片付けなさいね? 困ったらすぐに帰ってくるのよ?」

「もう、分かってるよ」


 相変わらず、お母さんはおせっかいだ。


「じゃあ行ってくるね、お母さん」

「気を付けるのよ、本当に……」

「うん!」


 僕はサクラメリアへ向かった。

 ここから、僕の新しい生活が始まるんだ。




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