第22話 外れスキルと馬鹿にされた農園スキルが進化してチートスキルになりましたが、このスキルでのんびりスローライフを送ります ~覚醒した農園スキルが神過ぎて、もうこれ以外何もいらないんだが~ 6



「ふう……」


 耕した土を見ながら、僕は額の汗をぬぐった。

 フィーナと別れてから数日、僕は街の外れの土地を購入して、近くのあばら家で寝泊まりしていた。

 もう誰も住んでいないあばら家だから、と土地と一緒に家ももらった。まあ雨が降れば雨漏りはするし、風が吹けばひどく肌寒いような、ほとんど壊れてると言ってもいいような家だけれど、宿屋を使わずにいられるのはありがたい。

 農園ファームの加護を宿しているからか、やはり剣術や魔術とは比べ物にならないくらい作業が簡単だ。


「あとは種を植えて~」


 僕は店で買った種を適当に植えていく。農園ファームという加護が一体何に効くのかはよく分からないし、そもそもこの加護がこういうやり方でいいのかもよく分からないけれど、取り敢えずやってみるよりほかない。

 野菜や薬草、その他お金になりそうな植物を適当に植えた。


「じゃあ頑張ってね、皆」


 僕はついさっき植えた種に声をかけて、冒険者ギルドへ向かった。


「これ、お願いします」

「かしこまりました」


 僕は掲示板に張り付けてあった羊皮紙の依頼書を手に取り、薬草採集の依頼を渡した。これで僕は既定の薬草を持って来れば多少の金銭を得ることが出来る。


「よし、これから頑張るぞ!」


 ようやく活路が見えてきた僕は意気軒高に声を上げた。



 × × ×



 それから一週間が経った。

 種を植えた場所からは小さな芽が出ていた。

 冒険者ギルドの依頼もそこそここなせるようになっていた。

 ただ、薬草採取の依頼は危険度が低いからか、報酬の額がとても少ない。あばら家に住んでいるからどうにかこうにか生活は出来ているものの、薬草採取の依頼が途切れたり、あるいは僕の体の調子が少し悪くなっただけで生活は困窮してしまう。


「困ったな……」


 植えた植物が育つまでの我慢ではあるものの、出来た野菜や薬草がちゃんと売れるかどうかも分からない。

 僕は考え事をしながら、冒険者ギルドでいつもの薬草採取の依頼を受ける。


「…………」


 考え事をしながら黙々と歩いていると、目的地の大花の森ドアトールに着いた。

 ここは街周辺の大きな森で、魔物がうじゃうじゃと潜んでいる。ただ、森の奥地へ入らないなら、魔物はほとんど見かけない。冒険者の人も数多くここに入って行く姿を確認できることから、ある程度の安全は担保されている。


「今日は……」


 フィーナに釘を刺されているから、入り口のあたりで薬草を採取していた。

 していたけれど、今日はもう少し奥地に入ってしまってもいいんじゃないだろうか。もう少し奥に行けば薬草の種類も数も格段に増して、一日に得られる報酬も跳ね上がるんじゃないだろうか。

 大丈夫、冒険者の人もよく近くを通っているんだから、そこまで危険ではないはず。


「もう少し……もう少し……」


 僕はいつもの入り口から、少し奥地に入り込んだ。


「すごい!」


 やっぱりそうだ。森の奥まで薬草を採取する人が少ないからか、薬草の種類も数も格段に上がった。

 僕はまだ薬草に対する見識がないから、資料を見ながら見つけた草と照らし合わせて摘み取らないといけない。一つ一つ、見たことがある薬草と照らし合わせているからか、時間がかかる。


「これも! これもだ!」

 

 もう既に、普段の量を超えて薬草を採取することが出来た。

 なんだ、最初からこうしておけばよかったんだ。僕は今まで、危険を考慮して奥地に入らなかった。そりゃあ、報酬も少ないわけだ。


「ここにも! ここにもある!」


 夢中になって薬草を取る。


「ここにも! すごい、この薬草はレアだ!」


 奥地に行けば行くほどその希少性も高くなる。魔力が立ち込めるこの森では、生えている薬草も効果が高い。


「ここに……も……」


 薬草を摘み取る。


「…………」


 ふと、顔を上げて周囲を見渡してみると、見たことがない場所まで来ていた。


「帰らないと……」


 僕は怖くなって帰ろうとするが、僕自身がどこから来たのか分からなくなっていた。

 

『ブオオオオオオオオオオオォォォォォォッッッッッッ!』

「ひっ!」


 どこか遠くで、大きな鳴き声がした。おそらく、この森に潜む魔物だろう。


「ヤバいヤバいヤバいヤバい……」

 

 どっちに行けばいいのかも分からない。最悪の場合、より迷い込むことになる。


「どうしたらどうしたら……」


 僕はおろおろとするが、それで何かが解決するわけでもない。

 非戦闘職がたった一人で、魔物の棲家。完全にカモだ。


『ガァッガァッ!』


 僕の頭上を、見たこともない鳥が飛んでいく。僕は出来るだけ姿勢を低くして見つからないようにする。


「フィーナの……フィーナの言いつけを守ってれば……」


 僕は涙目になりながらも、帰りの道を探す。

 幸運なことに、まだ魔物とは一匹も遭遇していない。あるいは、薬草を摘む毎日を過ごしていたからか、薬草の匂いをまとっているのかもしれない。

 もしくはそれ以外のなんらかの要因か……。魔物を一人でひきつけてくれている人がいるとか……。


「帰り道帰り道……」


 僕は森の中をゆっくりと歩く。

 目の前の土が、盛り上がった。


「ひっ……!」


 盛り上がった土がそのままどこかへ行く。


「こ、こうなったらヤケだ……!」


 どうせどっちに進めばいいのかも分からない。僕は盛り上がる土の後をついて行く。

 僕は盛り上がる土をひたすらに、ただひたすらに追いかけて行った。


「帰り道帰り道帰り道……」


 ぶつぶつと呪詛のように呟きながら、後を追う。


「急げ急げ急げ急げ!」

「逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!」

「ひっ!」


 近くで声がした。

 見れば、どうやらそれは冒険者のようだった。大剣を持った男性が女性を担いでいる。どうやら敗走しているようだ。


「クレイ、クレイは!?」

「そんなこと気にしてる場合じゃねぇだろ! すぐそこまで来てるかもしれねぇんだぞ!」


 大剣を持った男性はものすごい剣幕で言葉を発する。

 この人たちを追えば帰り道が分かる……?


「ま、待って……!」


 走り出したと同時につまずく。木の根につまずき、僕は顔から地面と激突する。


「痛い……」


 あっという間に、冒険者たちは僕の視界からいなくなってしまった。でも、帰り道の方向は分かった。光明が見えてきた。


『きゅ?』


 僕がよろけて転んでしまったからだろうか。盛り上がった土から、一匹の何かが顔を出してこちらを見ていた。


「…………土竜?」


 金色の体をしたそいつは、可愛い顔で僕を見ていた。

 人に害を及ぼすことの少ない、小さな獣。土を掘り、土の中を移動するという奇怪な生き物。

 

「でもなんで金色……?」


 いや、今は考えている暇はない。


「お願い土竜くん、僕を森の入り口まで連れて行ってくれない?」

『きゅきゅきゅ!』


 僕の祈りが通じたからかどうなのか、土竜は方向転換をして、冒険者が走り出した方にまた進み始めた。


「ありがとう……」


 僕は盛り上がった土を再び追う。

 なん十分、いや、一体何時間走り続けただろうか。僕は一匹も魔物と遭遇することなく、森の入り口まで帰って来ていた。


「ありがとう、土竜くん~!」

『きゅきゅきゅ~!』


 僕は盛り上がった土から土竜を抱きかかえた。


「君のおかげだよ~!」


 僕は土竜に頬をすりつける。


「君がいなかったら今頃、今頃僕は……」


 ぐす、と涙ぐんでしまう。


「ありがとう、土竜くん。君は今日から僕の相棒だ」

『きゅ?』


 僕は決めた。この土竜を僕の畑に住まわせる。

 土を耕しているくらいだから、きっと畑にも良い影響を与えるだろう。


「今日からよろしくね、土竜くん。いや、ちょっとよそよそしいかな」


 名前をつけることにしよう。


「ありがとう、ナビ」

『きゅ?』


 僕はナビを抱きかかえて、家へ帰った。


「じゃあナビ、僕の畑をよろしくね」

『きゅきゅきゅ!』


 ナビは畑の中にもぐりこんだ。

 決死の大脱出を終えて僕は、一皮剥けた気がした。



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