第7話 転生賢者の失伝魔法 ~五百年後の魔法学園で、俺は伝説になっていました~ 7




「到着~」

「はあ、はあ、はあ」


 ミーロは相変わらず顔色悪く、肩で息をしている。


「全く、早く私に空間移動テレポートのやり方を教えてください!」

「え、そんな約束したかなあ?」

「クソ賢者ぁ!」


 ミーロが眉をひそめて私をねめつける。怖い怖い。


「まあおいおい教えるとして、とにかく今日は授業を受けに行こうか」

「まあ、それには二言ないですけど!」


 私は不機嫌なミーロを連れて、ウェイン魔法学園へと足を踏み入れた。


「ここがウェイン魔法学園……」


 ミーロが、ほ~、と言いながら学園の中を見回す。


「だだっ広いですねえ」

「確かにねえ」


 こんなに広い学園は今まで見たことがない。

 魔法使いを育てるという気質が、この時代にはあるのかもしれない。


「大聖堂カルティアみたいですね」

「彷彿とさせられるよ」


 私もミーロも興味津々で中を歩いていた。


「おい!」

「わ」


 背後から誰かが私に衝突してくる。


「お前かぁ? 魔法適正無しの新入りってのはあ?」

「……?」


 面識のない男子学生が三人、立っていた。

 私はステラを見るが、ステラはぶんぶんと首を横に振る。


「誰?」

「お前らの先輩様だよ!」

「ふむ」


 一体何の用だろうか。

 自称先輩様の男は私に突っかかってくる。髪は艶めき、左方向にまとまって流れている。いかにも高級と思しい香水の匂いが鼻を刺す。

 貴族か、それに準ずる立場の生まれなんだろう。


「魔法に適性もないのによくもまあ、ぬけぬけとこのウェイン魔法学園に入れたもんだなぁ?」

「試験を突破したんだから入学できるのは普通だろ?」

「どうせ教官を騙したんだろ!」


 額に青筋を浮かべながら、言う。


「魔法に適性のない奴がこのエリート学園に入れるわけないだろ!」

「どんな狡猾な手を使ったんだよ」

「ふざけんなよ!」

 

 男子学生の一人が私の胸ぐらをつかんでくる。どうも新人つぶしということらしい。


「離しなさい」

「うえ」


 ミーロが男の手首を掴む。

 男は眉を顰め、私から手を離した。


「魔法適正もない無能がこの学園でのうのうと生きれると思うなよ」


 男はそう吐き捨てると、踵を返して戻った。


「全く……」


 私は魔法ローブを正す。


「わ、わ、アルトさん、大丈夫ですか?」


 ステラが心配して私に寄ってくる。


「これくらいどうってことないよ。まさか入学初日にしてこんなことに巻き込まれるとは思ってもいなかったけどね」

「アルト、シメますか?」

「物騒なことを言うんじゃないよ、これくらいで」

「承知しました」


 全く、先が思いやられる。



 × × ×



「諸君、入学おめでとう!」


 ウェイン魔法学園の一室に呼ばれた私たちは、例の女教官の言葉を聞いていた。


「諸君はこの栄誉あるウェイン魔法学園に属するのにふさわしいと判断された、ごく一部のエリートだ!」

「「「おおおおおぉぉ!」」」


 にわかに騒ぎが大きくなる。

 あの程度の魔法で合格するのにエリートとは、一体どれだけ財源に困っているのか。


「今からこのウェイン魔法学園の内部を案内する。昼からはまた入学者の講習があるため、私は抜ける」

「「「うおおおおぉぉ!」」」


 気分が高まってか、入学者たちが騒ぐ。


「うおおおおおぉぉ!」

「…………」


 とりあえず私も騒いでみたが、騒ぎが収まっていたため、私の声だけが目立つことになってしまった。


「何やってるんですか、アルト!」


 ミーロにたしなめられる。

 そのまま女教官に連れられ、中を歩いて行く。


「左を見て見ろ」

「む」


 女教官の声につられ、私たちは左を見た。 

 この魔法学園の中央に当たる場所に、広く大きな庭があった。

 この庭を囲むようにして、円状に学園が展開されているようだ。


「ここの中央に、我がウェイン魔法学園が誇る稀代の大賢者、アルガロ様の銅像が建てられている」

「「「おおおおぉぉぉ!」」」

「……」


 そんな馬鹿な。

 私はこんな魔法学園は知らない。


「そしてその隣に、アルガロ様の愛弟子とされるニュピア様の銅像が建てられている!」


 誰だ、一体。そんな者に面識はない。

 ミーロも困惑した顔をしている。歴史というのは案外、こういった形でゆがめられていくのかもしれない。


「大賢者、アルガロ様。この世界の魔法技術を大きく発展させ、正義と善のためにその魔法を十全に使い、数多の加護を授けてくれた、ウェイン魔法学園で最も崇拝されるお方だ!」


 女教官は興奮してまくしたてる。


「アルガロ様一人が片手をふるうだけで世界を手中に収めることすら容易だったのにもかかわらず、己の私利私欲のために魔法を行使せず、弱い者を助け、困っている者に手を貸し、常に他人のことを考えられていた。私たちが最も崇拝するべき大賢者様だ!」


 早口で言う。

 別にそこまでではないと思う。


「すごい人……」


 ステラがぽかんと口を開けて言う。


「アルト……」

「いやあ、立派な方もいたもんだなあ」

「……」


 ミーロが白い目で私を見てくる。


「貴様ら、頭を下げろ!」


 女教官が私たちに怒る。

 女教官も含め、私たちは庭の中央にある銅像に向かって、長い間深く頭を下げた。どうして私は自分の銅像に頭を下げないといけないのか。


「己の強大な力に蝕まれることもなく、闇に落ちることもなく、正義のために生涯魔法を行使し続けた大賢者、アルガロ様のおかげで今の私たちがいる! アルガロ様に感謝を! ゆめゆめ忘れないように!」

「「はい!!」」


 五百年も経てば、噂というのはここまで広がるものなのか。やはり、私がアルガロだということは伏せておこう。間違いなく面倒なことになる。


「はぁ……アルガロ様ぁ……」


 女教官はうっとりとした目で銅像を見る。

 もっと、生きているうちに評価してもらいたいものだ。



 × × ×



「それでは、私はこれから入学者の試験を見に行かなければいけない。これから貴様らは魔法講義を受けてもらう。この掲示板を参考にして、毎日鍛錬に励むように! 今日はここまでだ! もし気になる講義があれば行ってみるといい」

「「「ありがとうございました!」」」


 私たちは女教官に頭を下げた。


「はあ……すごかったなぁ……」


 ステラがぼんやりと呟く。


「これで私もこれからここの一生徒……」


 ふふふふふ、と頬が緩んでいる。


「それにしても色んな講義があるもんだなあ」


 私は掲示板を見た。

 掲示板には様々な魔法講義の時間、内容、場所が書かれた羊皮紙が留めてあった


「アルト、何か見て行くのですか?」

「そうだねえ、ちょっとこの魔法効力の高め方、という講義が気になるねえ」


 いかにも、発展した後の魔法学という感じがする。


「私はこれに行ってみようと思うけど、ステラとミーロはどうする?」

「あ、じゃあ私も行ってみようかと思います」

「私も仕方なく……」


 ミーロは渋々といった表情だ。まあ私がいないと城に帰れないからね。


「じゃあ行ってみようか」


 私はステラとミーロを連れて魔法効力の高め方、という講義を傾聴しに向かった。



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