13
「さて、何でしょうね?」
闇野はもったいぶるように言うと、蝋燭の先を両手で包むように覆い、手を離すと蝋燭の先に火が燈った。
それは手品のようだった。
こっちは真剣な話をしているのにこれは何だ、と美香は思いつつ、蝋燭の火を眺めた。
「火は不思議なものです。その人の心のように揺らめく」
と闇野は突然言った。
何を言ってるのか、わからない美香は首を傾げる。
火は小さくゆらゆらと何とか燃えようと光り続けていた。
「よく見てください、火が今にも消えそうなぐらいに小さいです」
「それがどうしたんですか?」
「わかりませんか?」
美香は潔く頷く。
「貴方はこの火のように今とても弱っている」
いきなりの闇野の言葉に美香はえっ、と小さく目を見開いた。
何故この火が自分の心なのかわからなかった。
「心がとても疲れているんです」
美香は何も言わず、火をじっと見つめた。
一息すれば、ぱっと消えてしまいそうな小さな火を。
闇野がカチャカチャと音を立てて、何かをしている。
美香はカウンターを見ると、闇野はコーヒーを淹れていた。
何もしていない素朴なブラック・コーヒー。
「あの」
「少し、隠し味として〝魔法の粉〟を入れさせて下さい」
闇野は小さな小瓶を取り出した。
中には砂糖のような白い粉。
スプーンで一杯掬うとそれをブラック・コーヒーの中へと注ぎ、掻き混ぜるとそれを美香の前に差し出した。
「どうぞ、冷めない内に。――そして、飲みながら穴らの一番望む事を思い浮かべて下さい」
美香はコーヒーを見つめる。
香ばしい香りが漂う。
闇野の方を見上げると優しい微笑みが送られた。
苦さに怯えながらカップを手に取り、飲む。
だが、口に広がるのは酸味、苦味、甘味が見事に調和している不思議な味だった。
あぁ、そう言えば昔お父さんが飲んでいたブラックコーヒーを興味本位に盗み飲みしてあまりの苦さに泣いてとんでもない想いをしたことがあったっけ。
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