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一体、何を言っていたのだろうか。
夜谷があんなに反応したのだから何か本人の個人的な事でも言ったのかもしれない。
それを見て闇野は小さく
「身近な所に灯りを燈す火があるのを早く気づいて欲しいものですね」
と、呟いた。
あれから数日、美香は項垂れて歩いていた。
目を擦ったのか、赤くなっている。
唇もぐっ、と食い縛って閉めて。
「頼んだこともろくに出来ないのか」
呆れた溜め息交じりの言葉が胸に突き刺さり、頭の中で連呼している。
肩に重みが圧し掛かってくるような感覚に、自然と前屈みになり息をするのが少し辛い。
足が人混みから早く抜け出そうと急かした。
そして、その行く先は……
カランカラン、とベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
闇野はいつものように挨拶をする。
今日はまだ常連の影山や夜谷が店には来てはいず、闇野一人だけだった。
どなたでしょうね、と扉の方を見るとそこには先日やって来た美香の姿があった。
美香を見た途端、闇野は異変を感じ、
「どう、なされましたか?」
と、言った。
美香はしんみりと黙って、カウンターの席に座った。
溜め息を吐き、頭を抱える。
「何かあるのでしたら、お話だけでもお聞かせください」
そう言うと、美香は啜り泣きそうになるのを押さえて、
「仕事辞めたいな、って思っているだけです」
と、口を開いて話し出したのはとても悲しい内容だった。
「それは、何でまた」
闇野は後ろの棚からカップを取り出しながら言った。
注文されていもいないのにコーヒーを造るのだろうか。
「向いていないんです、多分。だから、ミスを繰り返したりするんだと思います」
「本当にそうでしょうか?」
今度は美香の前に一本の白い蝋燭立てに立てられた蝋燭を置いた。
美香は流石にそれを不思議に思い、蝋燭に目をやる。
「何ですか、この蝋燭」
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